記憶の中の彼女

益木 永

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第10話

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 ……とりあえず、龍とのややこしい問題は解決したのだろうと和也は考えた。その後、凛が時々和也の教室に来ることはあるのだが、その時、龍は何も言ってこなくなった。
 友人に聞くと、「これは公認するしかない関係だからね」と答えてくる。和也には、一体どういうものかわからないのだが、それ以上の解答は何も無かった。

 この龍の変化の間で大きな変化があった事と言えば、一つある。あれから一度、家庭科室で会話していた時だった。
「そういえば、文化祭の準備って事は多分、出し物とか出すんだろうけど進んでるのか?」
 和也が凛にそういう質問をしたわけだが。
「あー……実はね、皆結構題材とか悩んでいて進んでないみたいなの」
「えっ。進んでないって言っても」
 文化祭は十月末。凛はかなり深刻な面持ちなのも、納得だった。九月初めではあるものの、題材が決まってないレベルとなると、下手したら時期的に間に合わないかもしれない。
「そう、結構ピンチっていう事なの。昼休みもこうして私一人で準備していたのは最低限の展示になるようにって形で私が一人で作品を作ってるの」
「なるほどな……」
 と、なると。和也には少し気になる部分があった。
「もしかして伊豆野さんって部長とか、そういう立場になるのかな」
「うん。そうなんだ、私が部長なの」
 やはりそうだ。二年生で、既に部長という立場と言う事は結構大変だろう。
「そっか……それなら、時々助けて欲しいって事があったら是非言って欲しい」
「えっ? 迷惑じゃない?」
「もちろん、自分に出来る事じゃないと難しいけど。でも、こうして話を聞いてると」
 手助けはしたくなるような状況だった。一応、龍との勉強会とかもあるから結構大変ではあるが……自分より凛の方が明らかに大変な状況であると、和也は考えた。
「そっか……う~ん」
 凛は、少し悩むそぶりを見せるとこれだ、と言わんばかりに目をハキハキと光らせて。
「それなら、時々で良いから私の作品とかについて意見とか聞かせてほしいかな」
 そう、告げた。

 こうして、たまに時間が空いた時に展示物についての意見を伝える事になった。凛によると「部活のメンバー視点より、高野くんの方が見てもらう人視点になってくれるかも」という事かららしい。
 そう言われても、自信はないのだが自分から言い出した訳なので和也は精一杯出来る範囲で、こうしてみると良いかも、こうしたら良くなりそう。そういった意見交換を時々するようになっていた。

 ある日、放課後に一緒に来て欲しいと言われて和也は龍とのいつもの恒例である勉強会を終わらせてから、家庭科室へと向かっていた。今日は少し早く勉強会を終わらせてしまったが、龍の成績は間違いなく良くなっているので、多少短い日があっても大きな影響はない、と和也は考えていた。
 凛とはあれからの何度かのやり取りで龍の赤点回避のために放課後は勉強を見ている事を話しているので、少し遅くなった理由は流石にわかってくれる、という安心感もある。

「どうも、渡多利わたりさん」
「お、高野先輩来ましたね。ぶちょ~! 高野先輩来ましたよ~」
 家庭科室に入ると、和多利が真っ先に凛に呼びかけていた。彼女は手芸部に所属している凛の後輩であり、和也視点から見ると凛の次に積極的に自分に話しかけてくれる後輩だ。正直彼女のお陰ですんなりと出来上がった部活動メンバーの輪の中に入れている部分はある。
「あぁ、ありがといるちゃん」
「もぉこれくらい朝飯前ですよ! こんな良い男子とここまで仲良いならいっそ部活誘っちゃえばいいのにぃ~」
 和多利の言い分に凛は「あ、あはは……考えとくね……」と、少し苦笑いを見せながら対応している。和多利は随分と人懐っこい人柄なので、先輩相手にも臆せずにそういうプライベートの深い部分に話題を出せる。
「ごめんね、入ちゃんが変な事言って。確かにここまで来たらいっその事入部してもらっても良いんだけど」
「いやいや、大丈夫だよ。入部の方は……時期的に怪しいけど」
 二年の二学期に入部、となるとすぐに卒業となってしまうため入ってもそんな活動はできないだろう。
 ちなみに和也は、部活動は一年の時だけ一時期所属していた部活がある……が、そんな事は今、大事ではないだろう。
「そういえば、今日はこの後どうするんだ?」
 本題に入る。
 凛から今日の放課後についての話を振られた時、彼女は『部活の事ではないんだ』と、話していた。つまり、今日彼女が放課後に和也を呼んだのは部活の相談で呼んだ訳ではない、と言う事だ。
「うん、高野くんと一緒に来て欲しいところがあって」
「おっと? ぶちょ~、結構大胆じゃないですか? デートのために部室呼ぶなんて」
 和多利が、聞き逃さないと言わんばかりにその事を突っ込む。
「ちょっと! 入ちゃん、そういうのじゃないから!」
「ほぉん……?」
 少し、反応が意味深で少しえくぼが出来上がってはあるが和多利はそれ以上の追及は無かった。もしかして、これは少しからかわれている……?
「もう……高野くん、ごめんね?」
「あ、ああいや……。別に大丈夫だから」
 けれど、彼女……和多利が言っていた『デート』という言葉。
 確かに男女二人でどこかへ行くのは、デートとして成立するかもしれない。和也はそう、意識したら少し心臓がバクバクと音を鳴らしているのを感じた。
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