記憶の中の彼女

益木 永

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第12話

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 凛の後に続いて神社の敷地内に入っていった。
 敷地内は、非常に静かで人影は殆どないと言ってもいい。恐らく、今敷地内に自分たち以外でいるのは殆どが神社で働いている人だろう。少なくとも、参拝しにきたという感じではない。
「この時期の神社って大分静かだな……」
「まあ、ここに関して言えば、年末年始以外は結構静かかも」
 凛は、和也の言っている事に同意をしながら敷地内にある賽銭箱に向かっていった。これから、お願いをするという感じだ。これは……行った方がいいな。
 和也も凛に続いて賽銭箱の方へと歩いて行った。

 凛によると、祈願できる場所はこの賽銭箱の所だけの様だ。とりあえず、懐にあった十円玉を賽銭箱の中に入れて、そのまま願いを頭の中に込める。
『文化祭が、上手くいきますように』
 多分、凛も同じことを願っているだろう。
 しばらく、お互いが何も言わず静かな時間が流れる。
「……よし! これで祈願が出来たと思う」
 凛が、そう言い出した事に合わせて和也は「次はどうするのか」と聞き出す。彼女は、それに対して少し悩む素振りを見せた後。
「とりあえず、神社の中を少しだけ歩いてみないかな?」
 そう提案してきた。
 和也はそれで、今神社の敷地内を歩いている。すぐに終わる事だと思うので、そんな歩く事はない。
 敷地内は木々に囲まれており、出入り口の所とはずいぶんと雰囲気が異なる。都市部の中にある、森林の中に神社は位置しているのか。
「あ……」
 木々の隙間から街並みが少し見える。すると、和也には少し見覚えのあるようなものが見えた。公園だ。
 なんとなく、あの公園はこの間行った公園と似ている気がしていた。あの、不思議な少年と出会った……。そこで、和也はいつの間にか目の前に人影が現れた事に気が付いた。

「また会ったね」
 目の前に現れた少年は、そう言った。
 唖然としている和也に対して、その少年は平然としている様子だった。和也はハッとして周囲を見渡す。凛も、誰もいなかった。
「……えっと」
 和也はとりあえず、何から言い出せばいいのかわからなかった。どういう事を言えばいいんだろう。この間、公園で会った時から言いたい事は色々とあったのだ。去り際に言った言葉の意味、話しかけてきた理由、そして一体いつからそこに居たのか?
 とにかく、言いたい事だけはたくさんある。けれど、和也はどれから言い出せばいいのかわからなかった。
「次に会う時は十月になると思う」
 和也が何も言い出せない内にその少年はそんな事を言い出してきた。十月?
「あの、それって」
「もしかしたら、一度その時にならないとわからないかもしれない。彼女が危険な事に遭わない様にできるのは、君だけだ」
 少年が言い終えた瞬間、突風が和也に襲い掛かる。和也の視界を一瞬奪ったその突風が吹き終わり、和也はもう一度少年の居た場所を見る。
 そこに少年はいなかった。
「……は?」
 一体、どういう事だったのか。
 次に会うのは十月? それは、どういう意味なのだろう。
「高野くーん!!」
 後ろから、凛の声が聞こえる。どうやら、口ぶりからだと和也を探している様子だった。
「どうしたの? ……何だか、信じられない事があった。みたいに見えるんだけど……」
 ゆっくりと彼女の声がする方を振り返る。そこには凛がいた。自分より背が低い彼女は、和也が少し視線を下にしないと顔がちゃんと見えないけれど。その心配そうに眉を少し下げた顔をする、その少女は。間違いなく凛のものだった。
「……えっと……何も、無かったよ。大丈夫」
「ほ、本当に?」
 ここで本当の事を言っても、流石に信じられないだろうなと思い。黙っておくことにした。
「うん、本当に。何もなかった」
 そう言って、誤魔化すしかなかった。

 その後は、話題を変えて少し気になる場所を見つけた事を伝えて一度その場所に行く、と伝えた。凛は自分も一緒に行くと、言って一緒に神社を出て歩いていた。
 和也が神社から見えた、その場所に行く。多分、覚え間違いがなければここだろう。
 間違いない。この間行った公園だった。
「ここ……この間行った所だ」
 あの記憶にずっと残っていた公園が、こんな所にあったなんて思いもしなかった。確か、あの時は親と一緒に行って……それで、たまたま見かけた公園で遊びたい、と言ってそれで遊んでいた記憶がある。
 何故か、それだけの記憶だった筈なのだけど。不思議と記憶に残っていた……けれど、ここ最近はどうだろう。その記憶に変化が生じている。
 最初は気のせいかと思ったけど、何回も同じことが起きると流石の和也でもその異常事態を認識できる状態だった。
「この公園で、何かあったの?」
「いや……別に何かあったって訳じゃないけど。子どもの頃に一度遊んだ場所でさ、ずっと記憶に残ってて懐かしいなって」
「へえ……」
 凛は、和也の話に耳を傾けながらその公園の様子を眺めている。
 今日は子どもが何人か遊んでいる様子が見えていた。その中には、恐らく幼稚園ぐらいの男の子と、制服を着ている……高校生と言うにはやや幼い、多分中学生の……女子が一緒に遊んでいる様子が見える。
「あの子、お姉さんがいるんだ……懐かしいなあ」
 凛がそんな事を呟く。一方で和也は凛の言う懐かしい、という言葉に少し引っ掛かる。……もしかしたら、触れたらいけない話題かもしれないけど、とりあえず彼女が気を触らない様に、言葉を選んで聞いてみる事にする。
「懐かしい、って言うと?」
「……私にもお姉ちゃん、いたんだ」
 凛は少し間を置いて、姉がいた、と言う事を話してくれた。
「懐かしいんだ。私のお姉ちゃんもああやって一緒に遊んでくれて」
「へえ……良いお姉さんだったんだな」
 和也がそう答えると、凛は少し笑顔になる。
「えへへっ……ありがとう。私の自慢のお姉ちゃんだったんだ」
「……何だか、その言い方。少し気になるんだけど」
 そこで、和也はしまったと口を慌てて紡ぐ。あまりにも凛の反応に違和感があったのだが、その言葉は決定的だった。
『私自慢のお姉ちゃんだったんだ』
 まるで、今は違うかの様に。
「うん……そりゃあ、そんな言い方されたら気になると思うよ。別に、隠している事でもないし」
 そうして、凛はこう答えた。
「私のお姉ちゃん――十年前に亡くなったんだ、病気で」
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