14 / 38
第14話
しおりを挟む「実はね、何度か話し合いを進めているけど中々決まらなくて」
凛が話した事は、文化祭の手芸部の展示の事だ。
今月末には準備を終えていないと文化祭には間に合わないのだが、どうやらどういう展示にするかが未だに決まらないようだ。
「皆、色々な案を出してくれはするんだけど、色々問題があって……例えば、時期的なものとか」
「時期的に、というと……」
「そう。今からやるには大掛かり過ぎて決められた期間では準備できないものが多いの。特に、一カ月も切っている中だと確実に間に合わないってものが多くて……」
つまり、部員から見るとやはり規模の大きいものが良いという事なのだろうか。
「それにしても、何故そんなに決まらないんだ?」
「……実は、それ以外でも決まらないのって部員の中で意見割れもあって。というより、決まらない一番の原因はそれではあるのだけど」
なんとなく、とは思っていたもののやはり意見割れが一番の原因のようだ。
「準備の難しいものの提案が多い事と、そこで意見が割れる事が中々決まらないって原因なの……はぁ」
凛はまた、ため息をついている。彼女がここでため息をつく理由はなんとなくわかる。だから、和也が言う事は迷わなかった。
「それじゃあ、次の話し合い俺も参加していい?」
「……えっ? 急にどうして?」
多分、凛は自分が上手くまとめられていない、部長としての務めを果たせてないも当然なこの状況に結構悩んでいると思う。それは今までの付き合いから見ても、和也はわかっているつもりだ。
だから、そんな悩みをどうにかして振り払いたい気持ちがあった。
「俺が手伝って、皆の意見がまとまるようにしたいって」
「それは……嬉しい申し出だけど、流石に助けてばかりじゃ」
「いや、伊豆野さんだって……龍周りで色々助けてくれたし、お互い様だって」
それに、龍が凛との会話等を見て少しややこしい事になった時、凛は助けてくれた。和也はそんな事もあったから恩返しみたいな形で手芸部の文化祭の展示が上手くいくように手伝いをしたかった。
「そっか……それもそう、だね」
凛は、少し顔を俯かせるとボソボソと独り言をしている。そして、顔を上げて和也を見た時、笑顔を見せた彼女は
「それじゃあ、よろしくお願いします」
そう言って和也の申し出を受け入れた。
*
「それじゃあ、今日も展示について話し合いするよ~」
「ぶちょ~。今日は高野先輩も連れてきてるんですか?」
和多利が、何故か今日その場にいる和也について触れてくる。今までいなかったのに急にいたらその反応になるのは仕方ないだろう。和也も同じ反応をする自信がある。
「もう! 高野くんは、手伝ってくれるって話で来てもらっているんだから、入ちゃんも変なからかいをしないように?」
「は~い」
少し面倒そうな様子だったが……とりあえず、和多利は素直に聞き入れていた。
自分から展示に関する意見をまとめるのに手伝う、とは言ったものの和也はやはり緊張がする。今、この家庭科室にいるのは和也と凛、和多利以外には四人いた。四人とも手芸部の部員で顧問の先生は出払っているという話を凛から既に聞いていた。
改めて思うけど、緊張が凄い。部員は全員女子、という訳ではなく二人男子ではあるのでそういった意味での緊張は無いのだが、上手い事行けるのかという部分でやはり緊張が出ている。
けれど、凛にああ言った以上はちゃんと上手くいくように頑張らねば……という気持ちが和也の中でもあった。あんな事を言って、役に立たないっていう結果は彼女に申し訳が立たない。
龍との勉強会も、今日はわざわざやらないという形で来ている。……ちなみに次の勉強会はいつもより長くやる、と言ったために龍からはブーイングを喰らっていたが。
とにかく、やると言った以上はしっかりやらないと、と思った和也だったが……。
この後、凛がああやって悩む理由を思い知らされる事になる。
「こんな地味なのは駄目でしょ! こうして、もうちょい目立たせないと……」
「いやいや、いくらなんでもそんな手間がかかる事が高校生の部活で出来る訳ない! それならば……」
……何か一つの案が出ると、すぐに意見の対立が起きて結果として有耶無耶なまま次の案が出る、というのを何度繰り返したのだろうか。
凛もあわあわ、と喧嘩が起きそうなのを制止している様子で結構大変だ。和多利を含めた五人の部員は文化祭の展示に前向きなのは良い事なのだが、それが裏目に出て結果として未だに決まらない……という事になっている。
「あたしは、なんかもうちょっとポップな感じで行きたいけどな~手芸部っぽいって感じで言い訳だし」
「手芸部っぽいって何……。でも、これだと逆にワンパターンっていうかさ」
また、ここでも案が出てくるがそれでもやっぱり意見の対立が起き始める。あの星を多く盛ったタイプの展示仕様を挙げた和多利の案もやはり、また同じ様に有耶無耶となっていく。
結局のところ、今回の展示に関する話し合いでは何も決まらずに終わってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる