記憶の中の彼女

益木 永

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第14話

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「実はね、何度か話し合いを進めているけど中々決まらなくて」
 凛が話した事は、文化祭の手芸部の展示の事だ。
 今月末には準備を終えていないと文化祭には間に合わないのだが、どうやらどういう展示にするかが未だに決まらないようだ。
「皆、色々な案を出してくれはするんだけど、色々問題があって……例えば、時期的なものとか」
「時期的に、というと……」
「そう。今からやるには大掛かり過ぎて決められた期間では準備できないものが多いの。特に、一カ月も切っている中だと確実に間に合わないってものが多くて……」
 つまり、部員から見るとやはり規模の大きいものが良いという事なのだろうか。
「それにしても、何故そんなに決まらないんだ?」
「……実は、それ以外でも決まらないのって部員の中で意見割れもあって。というより、決まらない一番の原因はそれではあるのだけど」
 なんとなく、とは思っていたもののやはり意見割れが一番の原因のようだ。
「準備の難しいものの提案が多い事と、そこで意見が割れる事が中々決まらないって原因なの……はぁ」
 凛はまた、ため息をついている。彼女がここでため息をつく理由はなんとなくわかる。だから、和也が言う事は迷わなかった。
「それじゃあ、次の話し合い俺も参加していい?」
「……えっ? 急にどうして?」
 多分、凛は自分が上手くまとめられていない、部長としての務めを果たせてないも当然なこの状況に結構悩んでいると思う。それは今までの付き合いから見ても、和也はわかっているつもりだ。
 だから、そんな悩みをどうにかして振り払いたい気持ちがあった。
「俺が手伝って、皆の意見がまとまるようにしたいって」
「それは……嬉しい申し出だけど、流石に助けてばかりじゃ」
「いや、伊豆野さんだって……龍周りで色々助けてくれたし、お互い様だって」
 それに、龍が凛との会話等を見て少しややこしい事になった時、凛は助けてくれた。和也はそんな事もあったから恩返しみたいな形で手芸部の文化祭の展示が上手くいくように手伝いをしたかった。
「そっか……それもそう、だね」
 凛は、少し顔を俯かせるとボソボソと独り言をしている。そして、顔を上げて和也を見た時、笑顔を見せた彼女は
「それじゃあ、よろしくお願いします」
 そう言って和也の申し出を受け入れた。

  *

「それじゃあ、今日も展示について話し合いするよ~」
「ぶちょ~。今日は高野先輩も連れてきてるんですか?」
 和多利が、何故か今日その場にいる和也について触れてくる。今までいなかったのに急にいたらその反応になるのは仕方ないだろう。和也も同じ反応をする自信がある。
「もう! 高野くんは、手伝ってくれるって話で来てもらっているんだから、入ちゃんも変なからかいをしないように?」
「は~い」
 少し面倒そうな様子だったが……とりあえず、和多利は素直に聞き入れていた。
 自分から展示に関する意見をまとめるのに手伝う、とは言ったものの和也はやはり緊張がする。今、この家庭科室にいるのは和也と凛、和多利以外には四人いた。四人とも手芸部の部員で顧問の先生は出払っているという話を凛から既に聞いていた。
 改めて思うけど、緊張が凄い。部員は全員女子、という訳ではなく二人男子ではあるのでそういった意味での緊張は無いのだが、上手い事行けるのかという部分でやはり緊張が出ている。
 けれど、凛にああ言った以上はちゃんと上手くいくように頑張らねば……という気持ちが和也の中でもあった。あんな事を言って、役に立たないっていう結果は彼女に申し訳が立たない。
 龍との勉強会も、今日はわざわざやらないという形で来ている。……ちなみに次の勉強会はいつもより長くやる、と言ったために龍からはブーイングを喰らっていたが。
 とにかく、やると言った以上はしっかりやらないと、と思った和也だったが……。
 この後、凛がああやって悩む理由を思い知らされる事になる。

「こんな地味なのは駄目でしょ! こうして、もうちょい目立たせないと……」
「いやいや、いくらなんでもそんな手間がかかる事が高校生の部活で出来る訳ない! それならば……」
 ……何か一つの案が出ると、すぐに意見の対立が起きて結果として有耶無耶なまま次の案が出る、というのを何度繰り返したのだろうか。
 凛もあわあわ、と喧嘩が起きそうなのを制止している様子で結構大変だ。和多利を含めた五人の部員は文化祭の展示に前向きなのは良い事なのだが、それが裏目に出て結果として未だに決まらない……という事になっている。
「あたしは、なんかもうちょっとポップな感じで行きたいけどな~手芸部っぽいって感じで言い訳だし」
「手芸部っぽいって何……。でも、これだと逆にワンパターンっていうかさ」
 また、ここでも案が出てくるがそれでもやっぱり意見の対立が起き始める。あの星を多く盛ったタイプの展示仕様を挙げた和多利の案もやはり、また同じ様に有耶無耶となっていく。
 結局のところ、今回の展示に関する話し合いでは何も決まらずに終わってしまった。

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