記憶の中の彼女

益木 永

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第15話

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「ごめん伊豆野さん! 役に立てなくて……」
 和也は終わってすぐに、凛に謝る。
「あ……別にいいよ。それに、高野くんが居たお陰かいつもよりは言い合いが減ったかなって思うし」
 凛のフォローが和也の心にズキリと少し、痛みが産まれる。どうやら、凛によるとこれまでの話し合いでは今日以上の対立が起きたのだそうだ。意見の対立が起きる度に凛と共に仲裁に入ったり、フォローに入ったりで和也も介入してくれたお陰で凛の負担が和らいだという話だそうだが、結局の所結論に至る事は無かった。
「どうしたら、いいんだろうか……あれ」
「うん。本当に困っているんだよね……皆前向きなのは良いんだけど」
 凛はかなり悩んでいる様子だった。部員全員が催しに対して前向きで、けれど意見としては全員が割れる……。今回の話し合いでは、平行線で話が進まない事を実感せざるおえない結果となってしまった。 

 翌日、龍は大分疲弊している……風に見せながらもしっかり問題に食らいついていた。現状、成績は今までと比べて大幅に改善している傾向だ。赤点回避の可能性も充分過ぎるくらい高まっていた。
 だからこそ、この勉強会で龍の成績向上を行わせたい。……けれど、和也は一方で昨日の事が引っ掛かり続けている。
 話し合いに参加した上で、全く役に立てなかった。それが非常に重くのしかかる。凛の困っているのがよくわかる、あの表情……やっぱり気になってしまう。
「おーい、和也―できたぞ」
 そんな事を考えていると、龍が問題を見せて出来たというアピールをしているのに気づく。
「……あ、ああ」
 和也はその問題が書かれたノートを受け取る。そこに書かれている解答は……一目見る感じだと大分出来ている。多分、間違いより正解が多いくらいだと予想してみる。そして、実際の解答と照らし合わせてみる。予想通り、正解が間違いの数を上回っていた。
「正解が増えてる。やるじゃん」
「お! マジか!」
 和也が伝えた結果に龍は嬉しそうに、少しはしゃぐ様子を見せる。大きくはないのは、ここが図書室である事をわかった上での事だ。はた迷惑な部分もありながらも流石に、その辺りの良識的なものはわきまえているのだと、和也は思う。
「ところでさ、割とぼーっとしてる様子だけど昨日のアレは上手くいかなかったのか?」
「あ……まあ、そうだな」
 龍にも気づかれるぐらいの様子だったのか。和也は少し恥ずかしいと内心思いながらも答える。少し、不器用だったかもしれないが。
「まあ、凛ちゃんにあそこまで付き合える辺り本当にお前気になってるんだなって」
「なっ、そんな訳ねーだろ! 下心で付き合っているわけじゃないから」
 龍の指摘に、和也はかなり動揺した。気があって、一緒に行動している訳ではないのだから本当に失礼なものだと思う。
「でもよ? 凛ちゃんは絶対良い子だけど、予定変えてまで彼女に付き合うのはむしろ彼女が不安になっちゃうだろ。昨日もだけどさ」
「あ……それも、そうか」
 凛には龍との勉強会の話をしている上で、昨日の話し合いに参加させてほしいとまで言っていると、確かに凛から見れば自分のために和也自身が予定を変えてまで献身的にやっていると少し不安なのもあるだろう。
 そこは、反省しないといけない気がする。龍がこう、気を回すなんて事は中々無かったからこそ意外な面もあるのだな、と感じた。
「まあ? ぶつかりあってもしょうがないんだから上手い事折り合いをつければ良いってこった」
「そ、それも……そうか」
 龍の言う事はかなりある、と和也は感じた。だからこそ、考え過ぎても仕方ないかもしれない。
 そこで、和也は龍の言葉に引っ掛かりを覚える。
『上手い事折り合いをつければ良いってこった』
 そうだ、昨日の話し合いを経由した上で和也はこの言葉にとても引っ掛かりを覚える。
 皆のやってみたい事を尊重した上で、あえて全てを欲張りに出来る様に動ければ良いのではないか……? そんな発想が和也の中で生まれつつあった。
「そっか……そうだ!」
「うぉっ?! 何だ急に」
 いきなり立ち上がった和也に龍は驚きを隠せない様子だった。
 龍を驚かせたのは悪いけど、今すぐ彼女に伝えておきたい。和也は迷わずに机に広げた荷物をカバンの中に入れていく。
「悪い! 今日の勉強会はここで終わりだ!」
「え?! ちょ、本当にどうしたんだよ!!」
 和也は、困惑する様子の龍を置いて図書室を飛び出していく。彼には本当に悪いが後でも良いから説明しておけばいいだろう。和也は今すぐ、彼女にこの案を伝えなくては。そんな気持ちでいっぱいだった。
 この方法なら、もしかしたら上手く事が進むかもしれない。和也は急いで凛がいるであろう家庭科室へと向かっていった。
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