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第24話
しおりを挟む「これで伝えたい事は全て伝えられたと思う」
少年は、そう言うと和也の横を通り過ぎて扉の先にある玄関へと歩き出していく。
「これ以上の事は関わってはいけない。だから、君がどうにかするように……あ、最後にこれだけは伝えないと」
「……最後に?」
重要な事を忘れていた、と言わんばかりにその少年は和也の方に向き直した。
「一度、時間を巻き戻しているけどこれは契約上一回限りしか使わない、という制約の上なんだ。つまり、今度失敗したら二度と時間を巻き戻す事はできないと考えて欲しい」
「……!」
確かに、少年の視点から見れば時間を巻き戻すなんて事を何度もやるなんて事は関与に度が過ぎているだろう。けれど、それを伝えられた時和也の中では緊張が走った。
もし、上手くいかなかった時……その時はどうなるのだろうか?
回避のヒントこそ、伝えられたもののやはり上手くいく自信がない。それを見越したのか、少年は薄く笑う様子を見せた。
「けど、君なら出来る筈だよ。少し無責任に見えるかもしれないけど……君なら出来ると思ったからこんな事を頼んでいるんだ……お願いだ、彼女のためにも」
穏やかになだめる様に、そう言うと少年は今度こそ扉の方へとむき出して玄関の方へと歩き出していった。扉は少年が通り過ぎると、勝手にしまっていった。
その時、和也は何かの違和感を覚える。そして、時計を見ると針は五時五十二分を指していた。いつもより早い時間に起きていたのか、と和也は驚く間もなくまた扉が開かれる。扉からやってきたのは、母だった。
「和也、もう起きてたの」
「あ、まあ……そうだね」
少したどたどしくなりながらも、そう答えた和也だったが、それ以降は早かった。部屋に準備に戻っていつものように朝食が出て、それを食べて……少し、両親との会話もしたけれどとりあえず先ほどまでとは打って変わって特に変わりのない時間だった。
けれど、あの少年が先ほどまで話した事は忘れない。こっそりポケットにしまっていた、渡された石を力弱く握りしめてそう、思った。
*
「え、手伝ってくれるの?」
放課後、部活に向かおうとしていた凛を引き留めた和也は早速、前日の準備に参加したい旨を告げる。
「やっぱり、最後の最後でいないのはおかしいかなって」
本心だった。勿論、もう一つ理由はあるのだがそれを凛に言ってもおかしい事を言っているとしか捉えられないだろう。
「そっか……でも、何だか悪いよ……」
凛は関係ないのに手伝ってくれる和也に少し、罪悪感……みたいなものがあるのか遠慮する態度を見せる。確かに、手芸部に所属している訳ではない和也は結構関わっている……関わり過ぎている、まであるだろうけど。
別に校則に違反しているとかそういう事ではないのだけど、やっぱり関係ないというのは相手に重みを感じさせてしまっているのかもしれない。
ただ、凛には少し悪いのだが……このまま前日準備に行かせる訳にはいかなかった。あの光景を見せられた以上。
「なら、悪いと言わせないぐらい綺麗な仕事を俺に見せつければいいんじゃないか?」
「というと?」
「それこそ、俺が無理に来なくても良かったって思わせるぐらい完璧に準備を終わらせる、とか」
とりあえず、彼女に罪悪感を持たせないようにあえてこう言ったものの。
和也は凛がこれで気持ちが軽くなったのか一瞬不安があったものの、当の凛はそれを聞いた時一瞬目を大きくさせた。
そして、すぐ「ぷっ」という音が聞こえる。
「……あはは、確かにそうすればいいかもね!」
思った以上に、この発言の受けが良かった様だ。
少し凛の緊張がほぐれたのか「それじゃあ明日の準備手伝いお願いね」と凛は告げる。一応、心理的な問題は解消させたのだろう。和也としても凛に変な気遣いをされずに集中して準備を行ってくれるならこれ以上とない本望だった。
これで、前日の準備に参加出来る事になった和也は改めてあの少年……ここでは、仮称として神の子と呼ぶことにしよう。
神の子が伝えたヒント。和也は本当にそれが自分に出来るのか不安ではあったものの、火災の直接的な要因である漏電の原因になった場所を突き止める事……そして、その後起きる可能性が高い……。
いや、変に考えてはいけないだろう。
上手く緊張をほぐしていかないと、恐らく失敗する。これは、彼女を助けられるか否かが全てがかかっているのだから。
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