25 / 38
第25話
しおりを挟む*
「和也~、今日はもう帰るか?」
「龍、悪い。俺用事あるからまだ帰らないや」
放課後、和也は龍の誘いを断って、まっすぐと家庭科室の方へと向かった。
そういえば、前も龍に一緒に帰るか誘われて帰っていたな。と和也は思っていたが、とりあえず今は大事な事がある。現状、そちらの方が優先だった。
「それじゃあ、皆さんよろしくお願いします」
先生の一声から最終仕上げの準備が始まった。その中に和也は混じっていた。先生への説明は既に凛からなされていたため、特に何か言われる事もなく混じる事ができたと言っても良い。
凛はこういう細かい気配りが利くタイプなのが助かったと和也は考える。
「高野くん、ちょっとここ抑えててくれない?」
「わかった」
凛が指示した部分を抑えると、彼女は台代わりの椅子の上に立ちあがる。そして、立ち上がった視線の先にあるテープを画鋲で止めた。要は装飾用の設置だった。
「ありがとう。わざわざここまでしてくれるなんて、どう言えばいいのか……」
「ううん、気にしないで。俺が好きでやってる訳だし」
それに、この準備中に起きる火災をどうにか阻止したい――そんな事は、目の前にいる凛には言える事じゃないのだが。
あと少しだからそのまま抑えてて、という凛の指示に従って和也は動く。その間も家庭科室の周りを見える範囲で顔を動かしながら伺うが、特に異変らしい異変はない。けれど、最初に迎えた『今日』の時はこの部屋を中心に、強く燃え盛っている場面を和也は見ている。
あの少年の言っていた事を改めて思い出す。
『まず、火事の原因は漏電と報道される』
つまり、未来の報道では火災が起きた原因は何かしらの機器で漏電が発生して、それが火災を起こした原因となった。
何が漏電したか、についてはあの少年側の事情で教えられる事が無かったが少なくとも自分が探すべき場所は電気が通っている場所だけだと思う。
「本当に助かったよ」
「そこまで言われる事でも、ないとは思うけど」
無事に装飾が終わり、凛から労いの言葉を掛けられる。
面と向かって、そういう感謝の言葉を言われると特に彼女の場合はやや恥ずかしい気持ちが生まれる。返答としては、結構ひねくれているかもしれないが一方でそこまで感謝される程の事を自分がしているわけでもないと思っている自分もいた。
和也はそんな心情を口にする事はなかった。
「それにしても……」
凛が先ほどまで手を加えていた場所はさっき自分が手伝うまでのとは別物に変貌していた。しかし、気になるものがある。
「これって伊豆野さんが作っていたものでいいんだよね?」
「うん、そうだよ」
色々な動物がその場所に展示されている。先ほど、和也が抑えていたものはたくさんの動物が描かれた壁紙だったのだ。
「伊豆野さん、動物が結構好きなんだ……」
「うん、そうなの。といってもわざわざ言うほどの事じゃなかったんだけど」
けれど、こうして見ていると結構拘りが凄いと思う和也だった。その壁紙は、細かい所までびっしりと動物たちが描き込まれたのだ。短期間でここまでやろう、という行動力が凄いと思う。
「……お姉ちゃんが色んな動物の折り紙を折ってくれていたのが、割ときっかけだったのかも。私、結構動物モチーフの小物作っているし」
「え、そうだったんだ」
凛のお姉ちゃん、というと……あの時、公園に一緒に行った時に病気で亡くなったと話していたあのお姉ちゃんの事だろうか。
「うん、そうなの」
凛がこちらに向かって笑顔でそう答える。
けれど、和也から見るとその笑顔は少し陰りがある様に感じられた。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる