記憶の中の彼女

益木 永

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第25話

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   *

「和也~、今日はもう帰るか?」
「龍、悪い。俺用事あるからまだ帰らないや」
 放課後、和也は龍の誘いを断って、まっすぐと家庭科室の方へと向かった。
 そういえば、前も龍に一緒に帰るか誘われて帰っていたな。と和也は思っていたが、とりあえず今は大事な事がある。現状、そちらの方が優先だった。
 
「それじゃあ、皆さんよろしくお願いします」
 先生の一声から最終仕上げの準備が始まった。その中に和也は混じっていた。先生への説明は既に凛からなされていたため、特に何か言われる事もなく混じる事ができたと言っても良い。
 凛はこういう細かい気配りが利くタイプなのが助かったと和也は考える。
「高野くん、ちょっとここ抑えててくれない?」
「わかった」
 凛が指示した部分を抑えると、彼女は台代わりの椅子の上に立ちあがる。そして、立ち上がった視線の先にあるテープを画鋲で止めた。要は装飾用の設置だった。
「ありがとう。わざわざここまでしてくれるなんて、どう言えばいいのか……」
「ううん、気にしないで。俺が好きでやってる訳だし」
 それに、この準備中に起きる火災をどうにか阻止したい――そんな事は、目の前にいる凛には言える事じゃないのだが。
 あと少しだからそのまま抑えてて、という凛の指示に従って和也は動く。その間も家庭科室の周りを見える範囲で顔を動かしながら伺うが、特に異変らしい異変はない。けれど、最初に迎えた『今日』の時はこの部屋を中心に、強く燃え盛っている場面を和也は見ている。
 あの少年の言っていた事を改めて思い出す。
『まず、火事の原因は漏電と報道される』
 つまり、未来の報道では火災が起きた原因は何かしらの機器で漏電が発生して、それが火災を起こした原因となった。
 何が漏電したか、についてはあの少年側の事情で教えられる事が無かったが少なくとも自分が探すべき場所は電気が通っている場所だけだと思う。

「本当に助かったよ」
「そこまで言われる事でも、ないとは思うけど」
 無事に装飾が終わり、凛から労いの言葉を掛けられる。
 面と向かって、そういう感謝の言葉を言われると特に彼女の場合はやや恥ずかしい気持ちが生まれる。返答としては、結構ひねくれているかもしれないが一方でそこまで感謝される程の事を自分がしているわけでもないと思っている自分もいた。
 和也はそんな心情を口にする事はなかった。
「それにしても……」
 凛が先ほどまで手を加えていた場所はさっき自分が手伝うまでのとは別物に変貌していた。しかし、気になるものがある。
「これって伊豆野さんが作っていたものでいいんだよね?」
「うん、そうだよ」
 色々な動物がその場所に展示されている。先ほど、和也が抑えていたものはたくさんの動物が描かれた壁紙だったのだ。
「伊豆野さん、動物が結構好きなんだ……」
「うん、そうなの。といってもわざわざ言うほどの事じゃなかったんだけど」
 けれど、こうして見ていると結構拘りが凄いと思う和也だった。その壁紙は、細かい所までびっしりと動物たちが描き込まれたのだ。短期間でここまでやろう、という行動力が凄いと思う。
「……お姉ちゃんが色んな動物の折り紙を折ってくれていたのが、割ときっかけだったのかも。私、結構動物モチーフの小物作っているし」
「え、そうだったんだ」
 凛のお姉ちゃん、というと……あの時、公園に一緒に行った時に病気で亡くなったと話していたあのお姉ちゃんの事だろうか。
「うん、そうなの」
 凛がこちらに向かって笑顔でそう答える。
 けれど、和也から見るとその笑顔は少し陰りがある様に感じられた。
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