この物語の意味を知るとき

益木 永

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〈第1章 春、彼女と出会う〉

第6話

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 翌日、僕は文芸部の部室前に来ていた。昨日はまず放課後真っ先に職員室前に行って入部届の紙を手にし、その場で入部届に文芸部の文字を書いて担任の先生に提出した。

 つまり、今日から僕は文芸部の部員として活動する事になるのだ。

 緊張でドアを開けようとする手が震える。いずみが言葉に後押しされてとりあえず入部届を書いて提出したのだから、別にこんな事で緊張なんてしなくてもいいとは思うのだが、心臓がドキドキと鼓動を波打つのが抑えられない。

 ……だから僕は部室前で立ち往生する事になってしまった。

 ここで立ち往生しても仕方ないのだが、部室に何食わぬ顔で入る事も出来る気がしなかった。そんなこんなしていたらすぐ目の前にあるドアが突然開く。
 僕は驚いて後ずさりをする。結構派手に。少し、こけかけた

「おや? カオルくんじゃないか」

 平然とした顔で、彼女は言ってきた。

「……なんだ、金住先輩でしたか」

 なんだとはなんだ、と金住先輩は眉を顰《ひそ》めて不機嫌そうに頬を膨らませる。その表情がちょっと可愛い、だなんて思ったのは内緒だ。

「あ、えっと……入部届に文芸部って書いて提出したので今日から文芸部の部員になるんです」
「……ああ。ちゃんと入部届に書いて提出してくれたんだね」

 間を置いて、金住先輩はそう答える。

 すると、急にさっきの表情から穏やかな笑みに変わる。表情がやけにコロコロと変わるな、と思った。僕が部活に入るって事になって嬉しいのだろうか。

「それじゃあ、早速部室に案内だ。といってもすぐ目の前だし、君は前に私が招待して来てもらっているしね」
「はあ……」

 あの呼びかけを招待、と表現するのか。まあ、言葉の意味としては結構近いので特に僕はその事に対して何か言う事は無かった。僕は金住先輩が部室に入っていくのを見届けると、後を付いて部室に入った。



「……というわけで、この間部活体験をしてくれた神代薫くんが正式な部員として、これから部活に参加してくれることになった」
「よ、よろしくお願いします」

 ――パチパチパチ!
 金住先輩による紹介と僕の挨拶が終わると、部室に拍手音が響く。目の前に座っている行村先輩と母野先輩が鳴らしていた。北村先生は教師としての仕事が忙しく、手が空けられないそうだ。

「新しく部員が入って良かったわ~」
「金住がいるって言うのに全く人が入ってこなかったしな。まああんな変人ぶりをあの会場で見せたら入るわけないか」

 失礼な、と金住先輩は怒る。それに対し、悪い悪いと行村先輩は軽く受け流す。
 この間も見た通り、この部活は少人数ではあるが空気感はとてもよかった。ちなみに三年生がいないのは金住先輩曰く『三年の先輩たちは文芸部に興味がないからね』だそうだ。大分失礼な物言いではある……。

「まあ、これから今日の部活も始めるわけだけど……」

 そして、金住先輩はいきなり僕に対してこういう話を切り出してきたのだ。

「ちょっとカオルくんに重要な事を話したいからちょっとだけ席を離してもらう」

 ちょっとカオルくんに重要な事を話したい――?

「え、何ですか?」
「まあまあ。ちょっと付いてきて」
「なだめられる様な事はしてないと思いますけどね」

 残りの二人は『どうぞ』と言っている様な雰囲気だ。気にしなくてもいいって事なんだろう。そう思っている合間に金住先輩は部室から出て行った。
 僕は慌てて彼女の後を付いて行った。

「それで、重要な事って?」

 廊下に出た僕は金住先輩を追って行った。すると、階段の踊り場で立ち止まった金住先輩がここならあまり人が通らないからここでその事を話す、と言い出した。
 天井の窓が微かに光を入れ込んでいて、踊り場はその辺りが微かに明るい。

「とりあえず、一応あの二人には事前に話しているんだけど念のために二人になれる場所で伝えたいと思ってね」
「はあ……」

 一体何を伝えたいのかが全く掴めない。

「というわけで、君に伝えたい事なんだけど」
「は、はい」

 金住先輩は息をすぅ、と言う音を鳴らして吸う。そして、伝えられた事。
 それは、

「君には来年の三月を期限として、『物語の意味』について自分なりの答えを出してほしい。これは、私からの課題だ」
「……は?」

 高校生活、最初の一年を象徴とするものとなる『課題』だった。
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