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〈第2章 夏、悩んだ日々〉
第8話
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「君には来年の三月を期限として、『物語の意味』について自分なりの答えを出してほしい。これは、私からの課題だ」
「……は?」
金住先輩は急にそんなことを言ってきた。思わぬ出来事に正直な気持ちが声に出てしまった。
「え、ちょっと待ってください。なんでそんなこと急に?」
必死に今起きている出来事を整理しようと、僕は目の前にいる金住先輩に答えを求める。すると、金住先輩が上り階段を一段上がる。そして、僕の方に振り返ると
こう答えた。
「まず、簡単に言えば私は君が悩んでいる問題が気になっている」
「へ?」
といっても、直観とこの短い期間の間で君はこの事に悩んでいるんだろうなって言う推測でしかないけど、と金住先輩は付け加える。
「……えっと、それじゃあ僕が悩んでいる問題って何だと思いますか?」
「価値観の問題」
即答だった。
その答えは、僕の心をキュッと締め付ける。金住先輩の言葉は生きている蔦で僕はその蔦によって心臓の辺りを思いっきり締め付けられている様な感覚だった。
「だからこそ、この課題は君の悩みを解決するのに最適なんだと思ったんだ」
「……それで、僕を文芸部に?」
まあ、そんなところになるだろうね、と金住先輩は答える。
「気分は害するかもしれないけど、私としてはこの課題をやってほしい」
入部して早々いきなりそんなことを言われても……としか思えなかった。正直気分を害するか否か以前に、困惑する気持ちの方が強かった。一体どう答えればいいのだろうか。
「……その、先輩が言っている課題をやらないというのは」
「それでもいい。これはあくまで私がやってほしいという事なのだから」
ただし、と付け加えられる。
「もし、この課題をやろうと思ったら私にいつでも話してほしい。そして、この事は他の二人には聞かれてくるまでは一応話さないでほしい」
「その……他の二人に聞かれるまで話さないっていうのはどうして?」
「これは一応二人で話しているという体でやっているから。むやみやたらに他人に話すのはどうかと思ってね」
この様な理由を述べられた。まあ、彼女の言いたい事はわからなくもない。つまり、この話は一応内緒にしておいてほしいという事だ。ただ、他の二人からこの事について聞いてきたら正直に答えてもいい、という事だ。
「まあ、そういう事にはなるんだけど、どうかい? 無理にとは私は言えない」
「え……えと」
僕はこの返答に対し、どう答えるか頭を悩ませる。安易にそんな課題をやれるかと言えば疑問符が付く。安易に選択すれば後悔しかねないと、直観が囁いてくる。
けれど、もしこの課題をやったとしたら。
もしかしたら、自分の悩みを解決できるかもしれない。確かに僕は価値観というものに対して頭を悩ませたことは何回かある。しかし、それは大体の人が通る道で僕だけが特別というわけではないと思っている。
何故、金住先輩はそういう事を言うのか、わからない。
けれど、彼女がそれだけ僕に期待を寄せているのだとも考えることができる。僕はそれなら、彼女の期待に応えてみてもいいのかもしれない。
だから、僕は選んだ。
「……まだ、わからないことだらけですけど」
そう、この課題に対して、
「お願いします」
向き合う事を選ぶことにした。金住先輩はその答えを聞くと、ニヤリと顔に笑みを浮かべる。
「それじゃあ、よろしく頼む」
そう言って、階段を上がり始めていった。僕はその後ろ姿をじっと見つめていた。すると、彼女が突然立ち止まって体をこちらに少しだけ向かせると。
「君も戻らないのかい?」
金住先輩にこう言われた。どうやら、これは部室に戻るという合図だったのだ。僕ははっきりとした声で「はい!」と答えて彼女の後を追いかける様に階段を上がったのだった。
「君には来年の三月を期限として、『物語の意味』について自分なりの答えを出してほしい。これは、私からの課題だ」
「……は?」
金住先輩は急にそんなことを言ってきた。思わぬ出来事に正直な気持ちが声に出てしまった。
「え、ちょっと待ってください。なんでそんなこと急に?」
必死に今起きている出来事を整理しようと、僕は目の前にいる金住先輩に答えを求める。すると、金住先輩が上り階段を一段上がる。そして、僕の方に振り返ると
こう答えた。
「まず、簡単に言えば私は君が悩んでいる問題が気になっている」
「へ?」
といっても、直観とこの短い期間の間で君はこの事に悩んでいるんだろうなって言う推測でしかないけど、と金住先輩は付け加える。
「……えっと、それじゃあ僕が悩んでいる問題って何だと思いますか?」
「価値観の問題」
即答だった。
その答えは、僕の心をキュッと締め付ける。金住先輩の言葉は生きている蔦で僕はその蔦によって心臓の辺りを思いっきり締め付けられている様な感覚だった。
「だからこそ、この課題は君の悩みを解決するのに最適なんだと思ったんだ」
「……それで、僕を文芸部に?」
まあ、そんなところになるだろうね、と金住先輩は答える。
「気分は害するかもしれないけど、私としてはこの課題をやってほしい」
入部して早々いきなりそんなことを言われても……としか思えなかった。正直気分を害するか否か以前に、困惑する気持ちの方が強かった。一体どう答えればいいのだろうか。
「……その、先輩が言っている課題をやらないというのは」
「それでもいい。これはあくまで私がやってほしいという事なのだから」
ただし、と付け加えられる。
「もし、この課題をやろうと思ったら私にいつでも話してほしい。そして、この事は他の二人には聞かれてくるまでは一応話さないでほしい」
「その……他の二人に聞かれるまで話さないっていうのはどうして?」
「これは一応二人で話しているという体でやっているから。むやみやたらに他人に話すのはどうかと思ってね」
この様な理由を述べられた。まあ、彼女の言いたい事はわからなくもない。つまり、この話は一応内緒にしておいてほしいという事だ。ただ、他の二人からこの事について聞いてきたら正直に答えてもいい、という事だ。
「まあ、そういう事にはなるんだけど、どうかい? 無理にとは私は言えない」
「え……えと」
僕はこの返答に対し、どう答えるか頭を悩ませる。安易にそんな課題をやれるかと言えば疑問符が付く。安易に選択すれば後悔しかねないと、直観が囁いてくる。
けれど、もしこの課題をやったとしたら。
もしかしたら、自分の悩みを解決できるかもしれない。確かに僕は価値観というものに対して頭を悩ませたことは何回かある。しかし、それは大体の人が通る道で僕だけが特別というわけではないと思っている。
何故、金住先輩はそういう事を言うのか、わからない。
けれど、彼女がそれだけ僕に期待を寄せているのだとも考えることができる。僕はそれなら、彼女の期待に応えてみてもいいのかもしれない。
だから、僕は選んだ。
「……まだ、わからないことだらけですけど」
そう、この課題に対して、
「お願いします」
向き合う事を選ぶことにした。金住先輩はその答えを聞くと、ニヤリと顔に笑みを浮かべる。
「それじゃあ、よろしく頼む」
そう言って、階段を上がり始めていった。僕はその後ろ姿をじっと見つめていた。すると、彼女が突然立ち止まって体をこちらに少しだけ向かせると。
「君も戻らないのかい?」
金住先輩にこう言われた。どうやら、これは部室に戻るという合図だったのだ。僕ははっきりとした声で「はい!」と答えて彼女の後を追いかける様に階段を上がったのだった。
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