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〈第3章 秋、変わる色〉
第16話
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夏休みが明けて、久々となる登校日は特に何も大きな出来事もなく過ぎていった。
本当にいつも通り。強いて一つ何か変わった事があったかといえば席替えを行った事だ。いずみとは席が離れてしまったけれど、以前と変わらず話はするし、他の友人とも仲良くやっていけている。
夏休みという長い期間が空いたというのに不思議なものだった。
「そうだ、かおる」
「なに?」
いずみが声を掛けてくる。
「例のヤツ、どうなったの?」
「あ……あぁー……」
例のヤツというのは、あれだ。金住先輩の課題の事だろう。
「少しは進んだけど、まだ全然OKしてもらえないかな……」
「おおそうかー。金住先輩結構厳しいね~」
自分から聞いてきたのに随分呑気そうな言動だった。それは気を使っているかもしれないし、それともただ単にその態度なだけなのかもしれないけど、黙っておいておく。
「……そういえば金住先輩って、どうして有名なんだ?」
「え~。春にビブリオ大会の取材で変わった事を話して有名になったって」
「そうなんだけど」
そうじゃない、そこが問題ではない。
「金住先輩はそんな話題になるくらいの話の内容を何で話したのかってこと」
「ああ……」
しばらくの間があった。そして、いずみの口から答えが出る。
「金住先輩が取材の時に話した内容を知りたいって事か」
「そう、それ」
それから、しばらく悩む様に腕を組むしぐさをいずみは見せる。一体何を悩む事があるのだろう。
「うーん、具体的な事はわからないんだよね」
「ええ?!」
「いや、だってネットの情報が頼りにならないんだもの」
いずみはスマホを何度かタップしたりスワイプしたりするのをして、どうやら目的のサイトに辿り着けたのであろう。その画面を僕に見せる。そこには少々の笑みを浮かべる金住先輩の写真と、その下に長く書かれた文章があった。
「何故かネットの情報だと取材内容が大まかにしか書いていなくて細かい事が書いてないものが多いんだよ~。だから変わった事を話したって言うのは噂みたいな感じで広まったんだよね」
確かに、そこに書かれている文章には友人たちが話していた「自分の物語の意味」についての話の事があまり書かれておらず、おまけに抽象的なものであったために理解がしづらいものだった。
「え、それじゃあなんで変わった話をしていたってわかったんだよ?」
「取材の場にはたくさん人がいたんだよ。そこから色んな人が話を広めたから金住先輩は美人の変わった人っていう噂になった感じなんだってさ」
そんな経緯だったのか、と僕は思う。金住先輩にはこの話を持ち掛けたことはない。それは、正直言って聞いていいのか悩んでいたからというのが一番の理由に入ってくるのだと思う。
つまり、当の本人に言うのはとてもハードルが高い。
ただそれだけだったけど、ただそれだけの理由が身近にいながらこの話をしない理由だった。
「それじゃあ、今日はこの辺りにしておこうか」
「はい」
その一言で、今日の打ち合わせは終わりとなった。この打ち合わせは勿論、これから控えている文化祭に向けたものだ。
この日の打ち合わせでは文化祭の展示するものの方針が大まかなものの決まったのだ。
まず、文化祭のある十月はいつもの日に配布する通常のものと別に文化祭用の特別版の文芸冊子を配布する事になった。つまり、雑誌の増刊の様なものだ。他には一ページ制限の随筆……エッセイをそれぞれ執筆して展示する事も決まった。展示する場所はこの文芸部室。
そして、文芸冊子の特別版も部室内に配置する事になった。
本格的に文化祭に向けて動いている。
「その前に、最後の確認をする」
金住先輩がそう告げる。
「これで大丈夫かい?」
僕は一瞬目を他の二人に向ける。行村先輩も、母野先輩もその確認に対して何も異論の無い事を伝えるように頷く。そして、金住先輩がこちらを向く。何も言わずともわかった。
「大丈夫です。問題はありません」
僕がそう答えると、金住先輩は「良し」と呟く。
「もう時間が遅いから今日の部活動は終わる。今後も打ち合わせで内容の調整等をするので各々しっかりと準備を進めてほしい」
これで、今日の部活動は終わりを告げる。
金住先輩はホワイトボードをいつもの部室の片隅の位置に移動させる。これはホワイトボードが邪魔にならない様にするため、使わない時は端に移動させているのだ。
ちなみに金住先輩が自分一人で運んだ方が早いので手伝わないでくれ、と言うので皆手伝わない事になっている。他にも金住先輩が自分の事は全部自分でやる主義な事も理由である。
そんな訳で、僕も帰りの準備をしていると。
「神代、ちょっといいか?」
「はい?」
行村先輩が声を掛けてきたのだ。行村先輩の後ろから母野先輩が帰宅の準備をしながら少しばかりこちらに目を向けているのが見える。
「なんでしょうか?」
「帰り、付き合ってくれるか?」
何故、と思ったが僕は特に迷わずこう答える。
「いいですけど……」
「よし! それじゃ早速行こうか」
「え」
そう言ってすぐに行ってしまった。僕は慌てて準備を終えると行村先輩の後を追いかけていった。
夏休みが明けて、久々となる登校日は特に何も大きな出来事もなく過ぎていった。
本当にいつも通り。強いて一つ何か変わった事があったかといえば席替えを行った事だ。いずみとは席が離れてしまったけれど、以前と変わらず話はするし、他の友人とも仲良くやっていけている。
夏休みという長い期間が空いたというのに不思議なものだった。
「そうだ、かおる」
「なに?」
いずみが声を掛けてくる。
「例のヤツ、どうなったの?」
「あ……あぁー……」
例のヤツというのは、あれだ。金住先輩の課題の事だろう。
「少しは進んだけど、まだ全然OKしてもらえないかな……」
「おおそうかー。金住先輩結構厳しいね~」
自分から聞いてきたのに随分呑気そうな言動だった。それは気を使っているかもしれないし、それともただ単にその態度なだけなのかもしれないけど、黙っておいておく。
「……そういえば金住先輩って、どうして有名なんだ?」
「え~。春にビブリオ大会の取材で変わった事を話して有名になったって」
「そうなんだけど」
そうじゃない、そこが問題ではない。
「金住先輩はそんな話題になるくらいの話の内容を何で話したのかってこと」
「ああ……」
しばらくの間があった。そして、いずみの口から答えが出る。
「金住先輩が取材の時に話した内容を知りたいって事か」
「そう、それ」
それから、しばらく悩む様に腕を組むしぐさをいずみは見せる。一体何を悩む事があるのだろう。
「うーん、具体的な事はわからないんだよね」
「ええ?!」
「いや、だってネットの情報が頼りにならないんだもの」
いずみはスマホを何度かタップしたりスワイプしたりするのをして、どうやら目的のサイトに辿り着けたのであろう。その画面を僕に見せる。そこには少々の笑みを浮かべる金住先輩の写真と、その下に長く書かれた文章があった。
「何故かネットの情報だと取材内容が大まかにしか書いていなくて細かい事が書いてないものが多いんだよ~。だから変わった事を話したって言うのは噂みたいな感じで広まったんだよね」
確かに、そこに書かれている文章には友人たちが話していた「自分の物語の意味」についての話の事があまり書かれておらず、おまけに抽象的なものであったために理解がしづらいものだった。
「え、それじゃあなんで変わった話をしていたってわかったんだよ?」
「取材の場にはたくさん人がいたんだよ。そこから色んな人が話を広めたから金住先輩は美人の変わった人っていう噂になった感じなんだってさ」
そんな経緯だったのか、と僕は思う。金住先輩にはこの話を持ち掛けたことはない。それは、正直言って聞いていいのか悩んでいたからというのが一番の理由に入ってくるのだと思う。
つまり、当の本人に言うのはとてもハードルが高い。
ただそれだけだったけど、ただそれだけの理由が身近にいながらこの話をしない理由だった。
「それじゃあ、今日はこの辺りにしておこうか」
「はい」
その一言で、今日の打ち合わせは終わりとなった。この打ち合わせは勿論、これから控えている文化祭に向けたものだ。
この日の打ち合わせでは文化祭の展示するものの方針が大まかなものの決まったのだ。
まず、文化祭のある十月はいつもの日に配布する通常のものと別に文化祭用の特別版の文芸冊子を配布する事になった。つまり、雑誌の増刊の様なものだ。他には一ページ制限の随筆……エッセイをそれぞれ執筆して展示する事も決まった。展示する場所はこの文芸部室。
そして、文芸冊子の特別版も部室内に配置する事になった。
本格的に文化祭に向けて動いている。
「その前に、最後の確認をする」
金住先輩がそう告げる。
「これで大丈夫かい?」
僕は一瞬目を他の二人に向ける。行村先輩も、母野先輩もその確認に対して何も異論の無い事を伝えるように頷く。そして、金住先輩がこちらを向く。何も言わずともわかった。
「大丈夫です。問題はありません」
僕がそう答えると、金住先輩は「良し」と呟く。
「もう時間が遅いから今日の部活動は終わる。今後も打ち合わせで内容の調整等をするので各々しっかりと準備を進めてほしい」
これで、今日の部活動は終わりを告げる。
金住先輩はホワイトボードをいつもの部室の片隅の位置に移動させる。これはホワイトボードが邪魔にならない様にするため、使わない時は端に移動させているのだ。
ちなみに金住先輩が自分一人で運んだ方が早いので手伝わないでくれ、と言うので皆手伝わない事になっている。他にも金住先輩が自分の事は全部自分でやる主義な事も理由である。
そんな訳で、僕も帰りの準備をしていると。
「神代、ちょっといいか?」
「はい?」
行村先輩が声を掛けてきたのだ。行村先輩の後ろから母野先輩が帰宅の準備をしながら少しばかりこちらに目を向けているのが見える。
「なんでしょうか?」
「帰り、付き合ってくれるか?」
何故、と思ったが僕は特に迷わずこう答える。
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「よし! それじゃ早速行こうか」
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