この物語の意味を知るとき

益木 永

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〈第3章 秋、変わる色〉

第17話

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「悪いな、付き合ってもらって」
「大丈夫ですよ、わざわざ謝らなくても」

 行村先輩は下げた顔を上げる。今、僕は行村先輩に連れられてファーストフード店舗にいた。

 部室を出て行った行村先輩に付いていった途中……校門辺りで先輩が途中にあるこのお店に行こうと言い出したのがきっかけだった。ちなみに行村先輩は付き合ってくれたお礼に奢る、と言ってくれたがそれはいくらなんでも悪いので遠慮しておいた。

「それで、付き合ってほしい事って何ですか」
「ああ……実は演劇部で俺が今手伝っている脚本の話でな」

 その話を持ち掛けられた時、自分は耳を疑った。

 果たして、それは僕が適任なのだろうか? そう、思ったからだ。

「え……と、どうして僕に」
「ああ、そこから話さなければいけなかったな」

 行村先輩は僕にこの話を持ち掛けた経緯について話す。

 どうやら金住先輩が「私に聞くよりは、カオルくんの意見を聞いてみたらどうだい? 新しく入ってきた後輩くんなら私たちとはまた違った視点が見えてくるのではないかい?」と行村先輩に話したのがきっかけらしい。

 ……金住先輩ならそう言いそうだと思った。

 とにかく、それがきっかけで僕に付き合ってほしい事があると話した上でこの相談をしに来たのだと言う事だ。

「わかりました。それで、脚本の話について一体どんな事をすればいいんですか?」

 最も、金住先輩が話したことと行村先輩が直前に話した事を聞くとなんとなく察しがつく。

「ああ、それはな」

 そう言うと行村先輩は自分の通学カバンを手を突っ込んでガサガサと何か探らせる。すると「あった」という声から僕にそこそこぶ厚めの紙束が渡される。

「俺が書いた脚本に意見をしてほしい、って事だ」
「……金住先輩の話を聞くと、やっぱりそうですよね」

 脚本の話の後に、意見を求める事について話していたらなんとなく見えてきた事だった。しかし、急にそんな事できるのだろうか?

「これって今読まなきゃダメですか?」
「ああ、今って訳ではない。ただ」
「時間が無いから早めに読んで意見を伝えてほしいって事なんですね」

 理解が早くて助かる、と行村先輩は言った。

「そんな感じだな」
「それじゃあ早速読んでも?」
「もちろん」

 そうなると話は早かった。僕は行村先輩の書いた脚本を読み始めた。脚本というものが、一体どんな書き方をしているのかは僕はよくわからないが、少なくとも行村先輩が書いた脚本はセリフと状況の説明が繰り返される構図に見えたという事だけだった。

 どうやら、これは西洋の中世時代の話らしかった。主人公がある女性に恋をする所から始まる、所謂ロマンス系の話だった。

「行村先輩ってこんな作品書くんですね」
「あー、恥ずかしいからそこの言及はあまりしないでくれ」

 そうして、僕は少しずつこの脚本を読み続けていく。

 のだが、行村先輩が「そろそろ時間遅くなりそうだから帰るか」と声を掛けてきた。僕は手元にあった自分のスマートフォンの電源ボタンを押してスクリーンを表示させると、目の前に飛び込んだ時計には十八時四十七分と出てきた。

「そうですね。これ以上お店にいるのは迷惑ですし」

 ここに来た時は確か十七時半過ぎだったので、大体一時間程このファーストフード店に居たという事になる。

 色々な事を考慮すると、もうそろそろ帰った方が良かった。

「それじゃ、今日は解散! って事だな」
「ええ、そうですね」
「それじゃどこで別れる?」
「それなら駅の所で……」

 そのような会話をした後、僕たちは駅の広場で別れる事となった。

 僕も行村先輩もこの広場が通り道だったために、ここで別れる事になったのだ。去り際の行村先輩に「しっかり読んでおいてくれよ!」と念を押されてしまっているので、早めに帰って家で読んでしまおう。



 そうして、僕は家に帰った後に早速行村先輩の脚本をじっくりと部屋で読んでみる事にした。

 結論から言うと、とても面白かったと思う。

 多分、この状態なら演劇でも行けると思ったのだけど、行村先輩はどうして僕にこれを読んでほしいと思ったのだろうか? とりあえず、明日行村先輩に感想を伝えに行こうと思った。

 流石にもう部活の人との連絡先は交換していた。けれど、感想はやはり直接伝えた方が良いと僕は思ったから、僕はあえてスマートフォンを使うという選択肢は取らなかった。


 
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