この物語の意味を知るとき

益木 永

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〈第4章 冬、物語の意味を知るとき〉

第29話

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  19

 文化祭が終わり、文芸部はいつも通りの日常へと戻っていった。

 毎月配布する文芸冊子の作成に追われながら、時々皆でここ最近読んだ本の話をしたり、何気ない話をしたり……そんな文化祭の本格的な準備が始まる前の日常が戻っていった。

 しかし、次の文化祭に向けての企画も平行で進んではいる。けれど、それは心配することではないだろう。

 今、僕が心配すべきことは金住先輩から提示させられた『物語の意味』を知るための課題。文化祭の日に明確にテーマが決まったこの課題の作文を残りの半年で完成させるのだ。

 けれど、そんなすぐに僕は作文を完成させられるわけではない。

 金住先輩が言っていた事。

『取り組むという姿勢を見せただけでも評価できる』

 確か、一度小課題という形で提示させられた作文を出したときにこんな事を言われたなあ、と思い出しつつ僕はより金住先輩がOKと言える様な文を書いていかないといけないな、と思う。

 あの時は結局ダメだった。金住先輩は恐らく、僕が自分の答えに辿り着いてないと思ったのだろう。

 けれど、今なら。今なら金住先輩は僕の出した答えをOKと言い切る。

 それなら、頑張ってそれを伝える力のある文を書くだけだ。だから、僕は自分が見つけたその答えを書き出す。



「あー、寒い!」
「そうだなあ……」

 ある朝の学校の自教室で、友人がそう言ってブルブルと体を震わせる。

「そうだねえ。一月はやっぱ寒いよ」
「一月……」

 いずみが言った事を思わず、呟く。一月。つまり、入学して初めて年が切り替わったということだ。まだ、丸一年は経っていないけどもう一年経とうとしている事はとても心に重りがかかってくる。

 ――そうか、あの日から一年経つまであと少しなんだ。

 あっという間だった、という感覚が先にやってくる。……そして、その後まだ一年しか経ってないんだ、という感覚が後からじわじわと出てきた。

 思えば、この一年色々あったと思う。

 春、夏、秋……そして冬。春は金住先輩との出会い、夏は僕が悩みに悩み続けた日々を過ごし、秋は文化祭のために頑張ってそして見えてきた答え。

 それぞれが、意味のある出来事だったと思う。どう言えばいいのか、わからないけど感覚的に、そうなんだと。だから、この一年色々あって意味があって……そんな一年だったと感じた。

「カオル~?」
「……あ、ごめん」

 どうしたの~? と心配そうな顔でいずみは声掛けする。思えばいずみも色々僕に対して助け舟を出してくれたと思う。本人はそう、思ってないかもしれないけれど。……夏の悩み相談に関しては思ってくれてるとは思う。

「いやあ、なんだかこの一年色々あったなあって」
「あー。確かにねえ」
「いずみも色々あった?」

 うん! と満開の笑みで答えるいずみはこう宣言したのだ。

「色々あったけど、とっても充実した一年だったと思う!」
「……そっか」

 確かに、そうだったと僕も思う。

 この一年は本当にとても充実した一年だった。まだ、丸一年迎えた訳ではないけれど、間違いなく僕はそう思えた。


「以上、これから来月分の冊子の作成に取り掛かるんだ」

 金住先輩の一声でこの日のミーティングは終了した。なんだかんだ言って、今日の部活ミーティングも中々大変だったと思う。色々決まらない事項が多くて、意見を皆でまとめて多分、一番きれいな形で纏まるのがとても大変だったのだと思う。

「はあ、それにしても寒いわ。特に最近はこんな感じよね」

 母野先輩がこう話すと、行村先輩が同意するようにこのような事を話した。

「そうだな。なんていうか冬だなって感じだよな」
「そうよねえ……」

 もう、一月なのだ。年をまたいだという事実はなんだか感慨深いものがある。入学してから初めての年越しをした、というのが理由だった。

「けど、本当に今までの日々は充実していたのでやっとって感じもします」

 それは、僕の心からの本心の一つ、なのだ。同時に、

「でも、同時にあっという間だったなって思います。なんだか、不思議な気持ちです」

 あっという間だったな、という気持ちも出てくる。この二つの明らかに矛盾した気持ちは母野先輩にも、行村先輩にもあったようで、二人ともこう答える。

「わかるなあ。やっと一月かーって思うのと、あっという間だったって思うのはな」
「私もね。変な気持ちだなーって思うけれど」

 その様に感慨深い様に、今までを振り返る様に二人は話した。

「やすみはどう思うかしら?」

 そして、母野先輩は金住先輩に話を振る。すると、彼女は何だか複雑そうな感じの顔をしながらこう答えた。

「……なんていうのだろうね」

 どことなく歯切れが悪いと思った。そして、金住先輩はこう答えた。

「私はあっという間だった、としか思ってないし、それ以上にあと一年経ったら高校も卒業するって思うとね……」
「……卒業」

 そうか。あと一年学校での生活が問題なく続いたら、金住先輩たちは卒業する。その前に部活を引退すると思うから、その頃に部員が増えなかったら。

「……部員が増えなかったら、文芸部はどうなるんでしょうね」
「……多分、無くなってるよ」

 そうとしか答えようがなかったと思う。金住先輩も困ったような、それでも笑みを浮かべた顔でそう答えた。けれど、彼女は後からこう答える。

「けれど活動を頑張っていけば入ってくれる人はいると思う。君が一人で頑張るのは心配だけどね」
「あはは……」

 後輩一人に任せるのが心配になるのはわからなくない。

 結局のところ、金住先輩はこの部活がどうなるか心配しているのだ。だから、僕は彼女が安心できるようにこのような言葉をかける。

「僕が頑張って部活動を盛り上げるので、そこは心配しなくて大丈夫です」
「……そうか。君がそう言うのなら、私からは何も言えないね」

 そうやって、純粋な笑みを見せた彼女はそう答えた。
 



 
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