29 / 33
〈第4章 冬、物語の意味を知るとき〉
第29話
しおりを挟む
19
文化祭が終わり、文芸部はいつも通りの日常へと戻っていった。
毎月配布する文芸冊子の作成に追われながら、時々皆でここ最近読んだ本の話をしたり、何気ない話をしたり……そんな文化祭の本格的な準備が始まる前の日常が戻っていった。
しかし、次の文化祭に向けての企画も平行で進んではいる。けれど、それは心配することではないだろう。
今、僕が心配すべきことは金住先輩から提示させられた『物語の意味』を知るための課題。文化祭の日に明確にテーマが決まったこの課題の作文を残りの半年で完成させるのだ。
けれど、そんなすぐに僕は作文を完成させられるわけではない。
金住先輩が言っていた事。
『取り組むという姿勢を見せただけでも評価できる』
確か、一度小課題という形で提示させられた作文を出したときにこんな事を言われたなあ、と思い出しつつ僕はより金住先輩がOKと言える様な文を書いていかないといけないな、と思う。
あの時は結局ダメだった。金住先輩は恐らく、僕が自分の答えに辿り着いてないと思ったのだろう。
けれど、今なら。今なら金住先輩は僕の出した答えをOKと言い切る。
それなら、頑張ってそれを伝える力のある文を書くだけだ。だから、僕は自分が見つけたその答えを書き出す。
「あー、寒い!」
「そうだなあ……」
ある朝の学校の自教室で、友人がそう言ってブルブルと体を震わせる。
「そうだねえ。一月はやっぱ寒いよ」
「一月……」
いずみが言った事を思わず、呟く。一月。つまり、入学して初めて年が切り替わったということだ。まだ、丸一年は経っていないけどもう一年経とうとしている事はとても心に重りがかかってくる。
――そうか、あの日から一年経つまであと少しなんだ。
あっという間だった、という感覚が先にやってくる。……そして、その後まだ一年しか経ってないんだ、という感覚が後からじわじわと出てきた。
思えば、この一年色々あったと思う。
春、夏、秋……そして冬。春は金住先輩との出会い、夏は僕が悩みに悩み続けた日々を過ごし、秋は文化祭のために頑張ってそして見えてきた答え。
それぞれが、意味のある出来事だったと思う。どう言えばいいのか、わからないけど感覚的に、そうなんだと。だから、この一年色々あって意味があって……そんな一年だったと感じた。
「カオル~?」
「……あ、ごめん」
どうしたの~? と心配そうな顔でいずみは声掛けする。思えばいずみも色々僕に対して助け舟を出してくれたと思う。本人はそう、思ってないかもしれないけれど。……夏の悩み相談に関しては思ってくれてるとは思う。
「いやあ、なんだかこの一年色々あったなあって」
「あー。確かにねえ」
「いずみも色々あった?」
うん! と満開の笑みで答えるいずみはこう宣言したのだ。
「色々あったけど、とっても充実した一年だったと思う!」
「……そっか」
確かに、そうだったと僕も思う。
この一年は本当にとても充実した一年だった。まだ、丸一年迎えた訳ではないけれど、間違いなく僕はそう思えた。
「以上、これから来月分の冊子の作成に取り掛かるんだ」
金住先輩の一声でこの日のミーティングは終了した。なんだかんだ言って、今日の部活ミーティングも中々大変だったと思う。色々決まらない事項が多くて、意見を皆でまとめて多分、一番きれいな形で纏まるのがとても大変だったのだと思う。
「はあ、それにしても寒いわ。特に最近はこんな感じよね」
母野先輩がこう話すと、行村先輩が同意するようにこのような事を話した。
「そうだな。なんていうか冬だなって感じだよな」
「そうよねえ……」
もう、一月なのだ。年をまたいだという事実はなんだか感慨深いものがある。入学してから初めての年越しをした、というのが理由だった。
「けど、本当に今までの日々は充実していたのでやっとって感じもします」
それは、僕の心からの本心の一つ、なのだ。同時に、
「でも、同時にあっという間だったなって思います。なんだか、不思議な気持ちです」
あっという間だったな、という気持ちも出てくる。この二つの明らかに矛盾した気持ちは母野先輩にも、行村先輩にもあったようで、二人ともこう答える。
「わかるなあ。やっと一月かーって思うのと、あっという間だったって思うのはな」
「私もね。変な気持ちだなーって思うけれど」
その様に感慨深い様に、今までを振り返る様に二人は話した。
「やすみはどう思うかしら?」
そして、母野先輩は金住先輩に話を振る。すると、彼女は何だか複雑そうな感じの顔をしながらこう答えた。
「……なんていうのだろうね」
どことなく歯切れが悪いと思った。そして、金住先輩はこう答えた。
「私はあっという間だった、としか思ってないし、それ以上にあと一年経ったら高校も卒業するって思うとね……」
「……卒業」
そうか。あと一年学校での生活が問題なく続いたら、金住先輩たちは卒業する。その前に部活を引退すると思うから、その頃に部員が増えなかったら。
「……部員が増えなかったら、文芸部はどうなるんでしょうね」
「……多分、無くなってるよ」
そうとしか答えようがなかったと思う。金住先輩も困ったような、それでも笑みを浮かべた顔でそう答えた。けれど、彼女は後からこう答える。
「けれど活動を頑張っていけば入ってくれる人はいると思う。君が一人で頑張るのは心配だけどね」
「あはは……」
後輩一人に任せるのが心配になるのはわからなくない。
結局のところ、金住先輩はこの部活がどうなるか心配しているのだ。だから、僕は彼女が安心できるようにこのような言葉をかける。
「僕が頑張って部活動を盛り上げるので、そこは心配しなくて大丈夫です」
「……そうか。君がそう言うのなら、私からは何も言えないね」
そうやって、純粋な笑みを見せた彼女はそう答えた。
文化祭が終わり、文芸部はいつも通りの日常へと戻っていった。
毎月配布する文芸冊子の作成に追われながら、時々皆でここ最近読んだ本の話をしたり、何気ない話をしたり……そんな文化祭の本格的な準備が始まる前の日常が戻っていった。
しかし、次の文化祭に向けての企画も平行で進んではいる。けれど、それは心配することではないだろう。
今、僕が心配すべきことは金住先輩から提示させられた『物語の意味』を知るための課題。文化祭の日に明確にテーマが決まったこの課題の作文を残りの半年で完成させるのだ。
けれど、そんなすぐに僕は作文を完成させられるわけではない。
金住先輩が言っていた事。
『取り組むという姿勢を見せただけでも評価できる』
確か、一度小課題という形で提示させられた作文を出したときにこんな事を言われたなあ、と思い出しつつ僕はより金住先輩がOKと言える様な文を書いていかないといけないな、と思う。
あの時は結局ダメだった。金住先輩は恐らく、僕が自分の答えに辿り着いてないと思ったのだろう。
けれど、今なら。今なら金住先輩は僕の出した答えをOKと言い切る。
それなら、頑張ってそれを伝える力のある文を書くだけだ。だから、僕は自分が見つけたその答えを書き出す。
「あー、寒い!」
「そうだなあ……」
ある朝の学校の自教室で、友人がそう言ってブルブルと体を震わせる。
「そうだねえ。一月はやっぱ寒いよ」
「一月……」
いずみが言った事を思わず、呟く。一月。つまり、入学して初めて年が切り替わったということだ。まだ、丸一年は経っていないけどもう一年経とうとしている事はとても心に重りがかかってくる。
――そうか、あの日から一年経つまであと少しなんだ。
あっという間だった、という感覚が先にやってくる。……そして、その後まだ一年しか経ってないんだ、という感覚が後からじわじわと出てきた。
思えば、この一年色々あったと思う。
春、夏、秋……そして冬。春は金住先輩との出会い、夏は僕が悩みに悩み続けた日々を過ごし、秋は文化祭のために頑張ってそして見えてきた答え。
それぞれが、意味のある出来事だったと思う。どう言えばいいのか、わからないけど感覚的に、そうなんだと。だから、この一年色々あって意味があって……そんな一年だったと感じた。
「カオル~?」
「……あ、ごめん」
どうしたの~? と心配そうな顔でいずみは声掛けする。思えばいずみも色々僕に対して助け舟を出してくれたと思う。本人はそう、思ってないかもしれないけれど。……夏の悩み相談に関しては思ってくれてるとは思う。
「いやあ、なんだかこの一年色々あったなあって」
「あー。確かにねえ」
「いずみも色々あった?」
うん! と満開の笑みで答えるいずみはこう宣言したのだ。
「色々あったけど、とっても充実した一年だったと思う!」
「……そっか」
確かに、そうだったと僕も思う。
この一年は本当にとても充実した一年だった。まだ、丸一年迎えた訳ではないけれど、間違いなく僕はそう思えた。
「以上、これから来月分の冊子の作成に取り掛かるんだ」
金住先輩の一声でこの日のミーティングは終了した。なんだかんだ言って、今日の部活ミーティングも中々大変だったと思う。色々決まらない事項が多くて、意見を皆でまとめて多分、一番きれいな形で纏まるのがとても大変だったのだと思う。
「はあ、それにしても寒いわ。特に最近はこんな感じよね」
母野先輩がこう話すと、行村先輩が同意するようにこのような事を話した。
「そうだな。なんていうか冬だなって感じだよな」
「そうよねえ……」
もう、一月なのだ。年をまたいだという事実はなんだか感慨深いものがある。入学してから初めての年越しをした、というのが理由だった。
「けど、本当に今までの日々は充実していたのでやっとって感じもします」
それは、僕の心からの本心の一つ、なのだ。同時に、
「でも、同時にあっという間だったなって思います。なんだか、不思議な気持ちです」
あっという間だったな、という気持ちも出てくる。この二つの明らかに矛盾した気持ちは母野先輩にも、行村先輩にもあったようで、二人ともこう答える。
「わかるなあ。やっと一月かーって思うのと、あっという間だったって思うのはな」
「私もね。変な気持ちだなーって思うけれど」
その様に感慨深い様に、今までを振り返る様に二人は話した。
「やすみはどう思うかしら?」
そして、母野先輩は金住先輩に話を振る。すると、彼女は何だか複雑そうな感じの顔をしながらこう答えた。
「……なんていうのだろうね」
どことなく歯切れが悪いと思った。そして、金住先輩はこう答えた。
「私はあっという間だった、としか思ってないし、それ以上にあと一年経ったら高校も卒業するって思うとね……」
「……卒業」
そうか。あと一年学校での生活が問題なく続いたら、金住先輩たちは卒業する。その前に部活を引退すると思うから、その頃に部員が増えなかったら。
「……部員が増えなかったら、文芸部はどうなるんでしょうね」
「……多分、無くなってるよ」
そうとしか答えようがなかったと思う。金住先輩も困ったような、それでも笑みを浮かべた顔でそう答えた。けれど、彼女は後からこう答える。
「けれど活動を頑張っていけば入ってくれる人はいると思う。君が一人で頑張るのは心配だけどね」
「あはは……」
後輩一人に任せるのが心配になるのはわからなくない。
結局のところ、金住先輩はこの部活がどうなるか心配しているのだ。だから、僕は彼女が安心できるようにこのような言葉をかける。
「僕が頑張って部活動を盛り上げるので、そこは心配しなくて大丈夫です」
「……そうか。君がそう言うのなら、私からは何も言えないね」
そうやって、純粋な笑みを見せた彼女はそう答えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる