十五年は長過ぎる

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同居までの道のり

起~始まり~

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―――

 彼を一言で表すなら、『変人』――この言葉につきる。

 新進気鋭の小説家で巷ではクールで格好良いと人気の火野樹は、唯一無二の友人である私から言わせると………



「このアホ!人でなし!変態!!」
「おいおい……最後のは聞き捨てならないな。」
「ムッツリ!スケベ!……このっ…アホ~~!!」
「わかった、わかったから落ち着け、ヒカル。」

 火野にどうどうと肩を叩かれ、まだ興奮冷めやらない私は鼻息を荒くしながら相手を睨む。
 責められてるのに涼しい顔で煙草に火をつけるその仕草にもカチンときてしまう。

「座れよ、ヒカル。皆さんの迷惑だろ?」
 静かな口調にハッと辺りを見回す。

 そうだ、ここは喫茶店だった。私は赤面しながら椅子に座った。

「で?誰がムッツリでスケベで変態だって?」
 声を潜めながらテーブルに身を寄せ、口端に意地悪な笑みをたたえて囁いてくる。

 ちくしょう……無駄に良い声出しやがって!


「すれ違う女性の事見すぎ。ミニスカートとかノースリーブとか、お前わかりやすいねん。あとサイン会の時とか可愛い子には笑顔見せるし、取材で来た記者さんが女の人で美人やったら饒舌になるし。あと……」
「ちょっ…ちょっと待て、ヒカル。それってさ……」
「何や!まだあるんやから邪魔すんな!」
 熱くなるあまり握りこぶしの状態でテーブルに置いてあった私の右手を火野が掴む。
 払いのけようとしたが意外と力が強くて一瞬怯んだ。


「ヒカル、それってヤキモチ?」
「……は……?」
 何を言われたのか一瞬わからなかった。そして徐々に顔に熱が集まってくる。

「は、はぁっ?ヤキモチってそんなん……何で俺がそないな事…お前の彼女じゃないんやし………」
 段々小さくなる声に火野の短いため息が被さった。

「何だよ、違うのか。俺は嬉しかったけどな、お前のヤキモチ。」
「ばっ……!」
 全身が真っ赤に染まる。掴まれたままだった右手を振りほどくと、私は今度こそ立ち上がって声の限り叫んだ。


「アホーーーー!!」



―――

 やっぱりこいつは『変人』だ。

 私の不満をヤキモチと勘違いし、挙げ句の果てにそれを嬉しいだなんて……
 そりゃあ黙ってれば何とやらで、見た目は人並み以上だけど。


「何だ、まだ何か言う事でも?」

 私が百面相してる側でさっきから全然表情の変わらない男が挑発するような口調で言う。私は少し考えた後、ニヤリと笑みを浮かべた。


「火野、好きやで。」


 無表情の中で少しだけ瞳が大きくなる。

 そして彼の手から煙草が落ちた。



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