十五年は長過ぎる

文字の大きさ
8 / 11
同居までの道のり

転~隠した本音~

しおりを挟む

―――

 いつからだろう。真っ暗だった世界に光が差し込んだのは……

 いつからだろう。その光が自分にとって心の拠り所となったのは……



―――

「……ヒカル?」

「どうなさいました?火野先生。朝比奈さんがいらしたんですか?今日は確か来られないと……」

 ふとヒカルの声が聞こえた気がして無意識に名前を呼んでいたらしい。前を歩く出版社の担当の人が怪訝な顔で振り向いた。

「……いや、ちょっと似てる人がいたものですから、つい。」
「そうですか。しかし残念ですなぁ、朝比奈さんが来られないなんて。」
「え?」
「いや、朝比奈さんってどこか癒し系オーラが出てるでしょう。うちの社員全員口には出しませんけど、彼が来るのをいつも楽しみにしてるんですよ。」
「……そうですか。」
「実を言うと私もなんですがね。」
 そう言うと『ハハハ』と笑った。つられて俺も笑う。そして一人呟いた。

「癒し系オーラねぇ……本人が聞いたら心外だって怒るかもな。」

 顔を真っ赤にしながら『俺はペットか!』とか何とか喚く姿を想像して、口端を緩めた。




 打ち合わせが終わり外に出る。今日も空は能天気なくらい真っ青だ。


『今日はいい天気やなぁ。』

 あいつが側にいたら無邪気な顔してそう言うだろうな、……なんて考えてため息をついた。


「あれ?あの後ろ姿は……」

 ふと目に映った人物が誰であるか気づいた瞬間、俺の思考はストップした……



―――

「それで?その人は火野のお母さんやったん?」
 ヒカルの声に俯いていた顔をハッと上げる。

 目の前にヒカルの後頭部があって、ここが俺の部屋で腕の中にヒカルがいるという事実が俺を安心させた。

 家に帰ってきてヒカルが部屋にいた時は、幻でも見たのかと思った。ずっと会いたかったから夢でも見たのかと。

 だけどヒカルが笑顔で『お帰り』と言うのを見て、ここにちゃんと存在しているという事実を認識した瞬間、俺は自分の想いを抑えられなかった。


 半分無意識だった。
 帰るというヒカルを離したくなくて、思わず後ろから抱き締めていた。


――ヒカル?

 お前は癒し系キャラだと思われてるようだけど、実際はそんなもんじゃない。
 ただ忙しい日常の中でふっと体の力を抜く事が出来る中和剤みたいなものか。

 それはバカにしてるとかからかってるとかじゃなくて、何ていうか上手く言えないけど……


「なぁ、ヒカル。」
「何や。」
 くぐもった声で呼ぶと素っ気ない、だけど優しい声。少し長くなった襟足を見つめながら言った。

「ずっと俺の側にいてくれるか?もし俺が売れなくなって秘書の仕事が無くなっても、側にいてくれるか?」
 途端耳が赤くなったヒカルに含み笑いをしながら待つと、小さい声が返ってきた。


「善処する。」
 ヒカルらしい答えに微笑って、その細い体を抱きしめた。

「この間のお返し。」
「え?何?」
「いいや。何でもない。」
 この間喫茶店で不意打ちをくらったのを思い出して更に笑みを深くした。


 ヒカルは俺の事を友人としてしか見ていない。あの時の『好き』の言葉だって、俺をからかう為のジョークだ。

 だけど俺はもう、ヒカルなしでは生きていけない。いつでも側にいて欲しい。


 俺のエゴでヒカルを縛る事になろうとも、俺はこいつと一緒にいたい――



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...