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純愛から狂愛へ
フレンズ
しおりを挟む―――
あの頃は良かった、なんて今更言ってももう遅い。
『あの頃』――適度に距離を置いて、心から笑っていた頃。
でもそれは今更だ。この長い年月はどんなにもがいたってどんなに後悔したって、取り戻せないのだから。
だけど、思わずにはいられない。
あの時別の道を歩んでいたなら、また違った未来が待っていたのかも知れないと……
それでも俺はヒカルと一緒にいたいという気持ちに嘘はつけなかった。
『フレンズ』
この言葉に拘り過ぎて何が大切なのかわからなくなっていた。
助手や秘書という肩書き以上に、友人という壁が俺達を阻む。
『フレンズ』
今思えば、この言葉は都合の良い言葉だった。
自分の理性を保つ為に呪文のように繰り返すだけで、まるで意味はなかった。
結局言い訳ばかりの俺には、何も残らなかったんだ。
夢も未来も、あの頃描いていたものよりずっと大きいものになっているけれど、俺の心は何故か空っぽだ……
―――
『フレンズ』
だけどもうこの言葉に縛りつけられている俺には、今のこの二人の関係が心地良いのだ………
―――
「火野~早よ行くで~!」
ヒカルの声が玄関から聞こえる。俺は密かに口角を上げた。
俺の一日はヒカルの声に始まり、ヒカルの声で終わる。こうやって急かすように呼ぶ声も日に何十回ある事か。思わず笑ってしまう程、これが俺の日常だ。
準備を済ませてようやく現れた俺を軽く睨みながら、ヒカルはドアに鍵をかける。そして無言ですたすたとエレベーターに向かった。
相変わらず喜怒哀楽が激しい。さっきまで出掛けるのが楽しいとテンションが上がっていたというのに、今じゃ『機嫌悪いです』オーラが背中から溢れ出している。
俺は気づかれないようにため息をついた。
ヒカルは一見すると大人しそうで良い人だと思われがちであるが、その実非常に扱いが難しい人間である。
しかもその本性を俺にだけ見せているというのがまた厄介で、その反面自分にだけだと思うと嬉しかったりする。
そんな事を思いながら隣をチラッと見る。まだ怒っている様子のヒカルにまたため息が出た。
小柄で中性的な顔立ち、男にしては高い声。こんな外見のせいで同性のファンが多くいるヒカル。しかもほとんどが出版社の編集者だ。
でもまぁ、そのお陰で仕事が舞い込んでくるという利点はあるのだが。
こんな事を言うと危ない奴だと思われるかも知れないけど、本当はヒカルを部屋に閉じ込めて外に出したくない。誰にも見せたくないし、誰とも会わせたくない。
だけどそんな事も言っていられないから、自分の狂って爆発しそうな気持ちにブレーキをかけるのだ。
でもそのブレーキは使い過ぎて、いつ壊れるともわからなかった。
自分の想いでヒカルの自由を縛りたくない。もし一線を越えてしまったら、俺は自分でもどうなるかわからない。
もしかしたら……
いや、考えるのも恐ろしい。
―――
『フレンズ』 15年という歳月は、あまりにも長すぎて
『フレンズ』 変わらない想いに縛られた
あの頃の夢も未来も手に入れて、君の存在も感じられる今
出来る事はただ一つ
心の中で蠢く闇の赴く場所に、壊れたブレーキの行き着く先に
二人の未来がない事を祈るだけ
今日もボロボロのブレーキを鳴らしながら、この愛は加速する……
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