十五年は長過ぎる

文字の大きさ
11 / 11
純愛から狂愛へ

フレンズ

しおりを挟む

―――

 あの頃は良かった、なんて今更言ってももう遅い。

『あの頃』――適度に距離を置いて、心から笑っていた頃。
 でもそれは今更だ。この長い年月はどんなにもがいたってどんなに後悔したって、取り戻せないのだから。

 だけど、思わずにはいられない。
 あの時別の道を歩んでいたなら、また違った未来が待っていたのかも知れないと……
 それでも俺はヒカルと一緒にいたいという気持ちに嘘はつけなかった。

『フレンズ』
 この言葉に拘り過ぎて何が大切なのかわからなくなっていた。
 助手や秘書という肩書き以上に、友人という壁が俺達を阻む。

『フレンズ』
 今思えば、この言葉は都合の良い言葉だった。
 自分の理性を保つ為に呪文のように繰り返すだけで、まるで意味はなかった。

 結局言い訳ばかりの俺には、何も残らなかったんだ。

 夢も未来も、あの頃描いていたものよりずっと大きいものになっているけれど、俺の心は何故か空っぽだ……



―――

『フレンズ』

 だけどもうこの言葉に縛りつけられている俺には、今のこの二人の関係が心地良いのだ………



―――

「火野~早よ行くで~!」

 ヒカルの声が玄関から聞こえる。俺は密かに口角を上げた。

 俺の一日はヒカルの声に始まり、ヒカルの声で終わる。こうやって急かすように呼ぶ声も日に何十回ある事か。思わず笑ってしまう程、これが俺の日常だ。
 準備を済ませてようやく現れた俺を軽く睨みながら、ヒカルはドアに鍵をかける。そして無言ですたすたとエレベーターに向かった。

 相変わらず喜怒哀楽が激しい。さっきまで出掛けるのが楽しいとテンションが上がっていたというのに、今じゃ『機嫌悪いです』オーラが背中から溢れ出している。
 俺は気づかれないようにため息をついた。

 ヒカルは一見すると大人しそうで良い人だと思われがちであるが、その実非常に扱いが難しい人間である。
 しかもその本性を俺にだけ見せているというのがまた厄介で、その反面自分にだけだと思うと嬉しかったりする。

 そんな事を思いながら隣をチラッと見る。まだ怒っている様子のヒカルにまたため息が出た。

 小柄で中性的な顔立ち、男にしては高い声。こんな外見のせいで同性のファンが多くいるヒカル。しかもほとんどが出版社の編集者だ。
 でもまぁ、そのお陰で仕事が舞い込んでくるという利点はあるのだが。

 こんな事を言うと危ない奴だと思われるかも知れないけど、本当はヒカルを部屋に閉じ込めて外に出したくない。誰にも見せたくないし、誰とも会わせたくない。
 だけどそんな事も言っていられないから、自分の狂って爆発しそうな気持ちにブレーキをかけるのだ。
 でもそのブレーキは使い過ぎて、いつ壊れるともわからなかった。

 自分の想いでヒカルの自由を縛りたくない。もし一線を越えてしまったら、俺は自分でもどうなるかわからない。

 もしかしたら……

 いや、考えるのも恐ろしい。



―――

『フレンズ』 15年という歳月は、あまりにも長すぎて

『フレンズ』 変わらない想いに縛られた

 あの頃の夢も未来も手に入れて、君の存在も感じられる今
 出来る事はただ一つ

 心の中で蠢く闇の赴く場所に、壊れたブレーキの行き着く先に

 二人の未来がない事を祈るだけ

 今日もボロボロのブレーキを鳴らしながら、この愛は加速する……



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...