高校生

りん

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第二章 告白は唐突にやってくる

第七話 帰りのご挨拶

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―――

それから数週間は特に何事もなく、普通の毎日だった。
まぁ何度かは高崎先生に細々とした仕事を頼まれたりしたが。

「風見さん。」
「はい。あ、先生……」
廊下を桜と二人歩いていたら、高崎先生に呼び止められた。私はちょっと緊張しながら返事をする。

「申し訳ないんですが、また仕事頼んでいいですか?図書委員の仕事なんですけど…」
「いいですよ。どんな仕事ですか?」
「また新刊がきたんで運ぶのを手伝って欲しくて。うちのクラスの図書委員の須藤由美さんにもお願いしたんですが、男子の宮本君は欠席しているので人手が不足してるんです。今度は僕も手伝えるんで一緒にやって貰えませんか?」
「え?先生も一緒に?」
「はい。」

『先生も一緒』?あれ?何だかちょっとやる気が出てきたような……

「わかりました。引き受けます。」
「ありがとうございます!じゃあ放課後、職員室に集合という事で。須藤さんにも伝えておいて下さい。」
「はーい!」
元気よく手を上げると先生はクスッと笑う。また私の胸がドキッと鳴った。

「千尋…今やる気満々でしょ?」
「あれ?バレた?」
「バレバレ。」
去って行く先生の背中を眺めながら桜がからかうように言う。私もちょっと赤くなりながら肯定した。

「うんうん。素直でよろしい。」
「という訳で今日は一緒に帰れないけどごめんね。」
「大丈夫、大丈夫。私は私で藤堂先生の出待ちで忙しいから。」
「あ、そう……」
ギラギラしてる!目がギラギラしてるよ、桜!

「と、とりあえず次の授業始まるから行こうか。」
「うん。」
桜のやる気に比べたら私のなんてまだまだだな……と思いながら教室へと向かった。



―――

そして放課後――

私は図書委員の須藤由美ちゃんと廊下を職員室に向かって歩いていた。

「由美ちゃんとは一年の時も同じクラスだったよね?」
「そうだよ。でもあまり喋った事はなかったね。」
「だって由美ちゃんは大人しいから私達みたいな騒がしいのとはそんなに接点なかったもん。確か由美ちゃんと仲の良かった……亜紀ちゃんだっけ?いつも二人でいたね。」
「うん。仲良しだったけど今年はクラス別れちゃったんだよね~…亜紀ちゃん一組だから……」
どよ~ん……と暗い影を纏う由美ちゃん。私は何だか余計な事を言っちゃった!と焦る。

「ご、ごめん……」
「ううん、大丈夫。クラス別々になっても遊んでるし、今の三組でも新しいお友だちできたしね。」
瞬時に回復した由美ちゃんにホッと息をつく。でも私だったら桜とクラス別れたら落ち込むどころじゃないかもなぁ(汗)
由美ちゃんって意外と逞しいかも。

「あれー?雄太君?」
「あ、ホントだ。」
職員室に着くとそこには高崎先生と何故か雄太君がいた。不思議そうな声を上げる由美ちゃんとビックリしている私に、雄太君は『よう!』と片手を上げる。

「思ったより本が多くて段ボールの数がたくさんあるんですよ。なので一組の図書委員の白石君にも来て貰いました。少しでも男手があった方が楽だと思いまして。」
先生がそう説明する。隣で雄太君も頷いた。

「一応、図書委員だからな。本来なら関係のないHR委員長が出張って来てるんだ。来ない訳にはいかないだろ。」
「何その言い方。私は先生に頼まれたから来たんだからね。」
「ハイハイ、そうでした~」
「ったくもう……」
口の減らない男だなぁ(怒)
私はあからさまにプイッとそっぽを向いた。

「あ、あの…白石君、久しぶり。」
「お?須藤か。久しぶりだな。お前も図書委員?」
「うん。」
「そんな細腕で本なんて持てるのか?きっと重いぞ?あれ。」

『あれ』と言って職員室の床に置いてある段ボールを指差す。どうやら雄太君は由美ちゃんが重い荷物が持てるのか心配しているらしい。何だ、優しい所あるじゃない。

「大丈夫だよ。私こう見えて力持ちなの。」
そう言って力こぶを作った後、職員室に入って行っていっぱいあった段ボールの一つを難なく持ち上げた。

「すごっ!」
「エヘヘ。私まだ小さい弟がいるの。いつも抱っこしてあげてるからこのくらい平気。」
「へ、へぇ~…」
人は見かけによらないというのはこの事か……

「さてと、それでは皆さん行きましょうか。」
「そうですね。早くしないと遅くなっちゃいますもんね。ほら、風見!須藤が持てるんだからお前は楽勝だろ。行くぞ。」
……前言撤回。全然優しくない。

「………」
私は無言で段ボールを持つ。う、重い……
でも由美ちゃんが頑張ってるんだ!私が頑張らないでどうする!

「フンッ!」
到底乙女のものとは思えない鼻息を漏らすと、私は先を歩く皆の後を追った。



―――

「あ~!重かったぁ……!」
図書室の机に段ボールを乗せながら声を上げる。隣にいた由美ちゃんが心配そうな顔で覗き込んできた。

「大丈夫?千尋ちゃん。」
「あ…大丈夫、大丈夫。由美ちゃんこそ疲れてない?」
「私は大丈夫だよ~」
強がって返事をして逆に由美ちゃんを心配するものの、当の本人は全然平気そうだ。
やっぱり人は見かけによらない……

段ボールは先生の言う通りいっぱいあって、先生、雄太君、由美ちゃん、私がそれぞれ一つづつ持って五往復(正確には四往復半?)もした。つまり数は20箱。
私は由美ちゃんの驚異的な体力に脱力しながら椅子にへたり込んだ。

「風見さん。大丈夫ですか?」
「おいおい、大丈夫かよ。」
高崎先生と雄太君が若干慌てたように聞いてくる。私は苦笑いを浮かべた。
それにしても私ってこんなに体力なかったっけ?最近運動不足だもんな~……

雄太君は確かサッカー部だからこのくらいの運動量平気なんだろうけど、先生まで息一つ乱してないのにはビックリ。
まぁ先生だって細身だけど高身長だし、物腰柔らかい雰囲気に反して意外と力持ちなのかも。先生っていう立場的に生徒の前で疲れた所は見せられない、という気持ちもあるのかも知れないが。

「皆さん、本当にありがとうございました。助かりました。」
先生が私達に向かって軽く頭を下げる。私は慌てて椅子から立ち上がった。

「お役に立てて良かったです。」
「図書委員としての仕事をしただけですよ。」
由美ちゃんと雄太君が笑顔で先生を見た。先生は顔を上げるとホッとした顔で吐息をつく。

「わ、私だってHR委員長として当然の事をしたまでです!」
何だか遅れをとった気がして焦りながらそう言うと、満面の笑顔の先生が言った。

「ありがとうございました。風見さん。」
瞬間、今まで感じた事のない喜びの感情が体中を駆け巡った。

「…………」
「じゃあ俺達はこれで帰りますね。先生、さよなら。」
「さようなら。」
未知の感情に声を失っていると、雄太君と由美ちゃんが先生に帰りの挨拶をしていた。

「はい、さようなら。気をつけて帰って下さいね。」
「はーい。」
二人が同時に廊下に出ていく。私はそれをボーッと見ていた。

「風見さん?帰らないんですか?」
先生が不思議そうに聞いてくる。

「え?あ…あの……」
「おい、風見!行くぞ。」
パッとドアの方を見ると雄太君と由美ちゃんが怪訝な顔でこっちを見ていた。
私は二人と先生の間を交互に見た後、先生の方を向いて言った。

「先生さようなら!皆さんさようなら!」


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