君を守る為、俺は強くなる

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第一章

突きつけられた現実

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―――

「仲本……ごめん。」

 部屋に入ってきた辻村は、こう言って頭を下げた。

「な、何で謝んだよ……」
「聞いたんだろ。マネージャーから。」
「…………」

 辻村の真剣な瞳と目が合って、俺は思わず下を向いた。


「何、何?仲本君も辻村君も真面目な顔しちゃってさ~あ!わかった。あれでしょ?突然喧嘩でも始めて僕達にドッキリ仕掛けようとしてんじゃないの~?」

 最年少でドラム担当の取出晋太がその場の空気を和ますつもりで茶化した声を出す。

「そんな訳ないじゃん。ちゃんと聞こうよ、辻村君の話。辻村君、何か僕達に話したい事あるんだよね?」

 キーボードの吾妻裕がやや冷たい目で晋太を一瞥した後、辻村に視線を移す。裕の隣に座っていたベースの笹野浩輔は、無言で辻村を見つめていた。

 俺は辻村の近くにいるのが何故か気まずくて、部屋の隅に移動して壁に体を預けて俯いた。そして辻村の言葉を待つ。辻村はその間俺をずっと見たまま黙っていたようだったが、一度溜め息を溢すと皆を見回して言った。

「皆知ってると思うけど……俺に彼女がって話……」
「知ってるも何もさ、さっきマネージャーに聞いてビックリしたよ、俺。辻村君ってば俺らになぁ~んにも言ってくれないんだもん。」
「ちょっと晋太!うるさいよ!」

 空気を読む事に長けている晋太も流石に興奮しているのだろう。段々声が大きくなっていくのを、浩輔が珍しく苛ついた口調で嗜めた。

「仲本君、僕達を呼び出したのってこの事について話す為だったんだね。」

 裕から見つめられた俺は声に出さずに頷いた。

「悪い……今回の事は社長が色々手を回してくれたから良かったけど、もしかしたらこれから皆に迷惑かかるような事になるかも知んねぇ。だからホントごめん……」

 そう言いながら俺達に頭を下げる辻村。そんな姿を見ていられなくなった俺は、勢い良く辻村に近づいた。

「仲本……?」
「俺達だっていい歳だ。もうすぐ三十になる男に女の一人や二人いたっておかしくねぇよ。まぁちょっとは名が知れてるけど誰もが知ってるスターやアイドルじゃあるまいし、マスコミに漏れたところで俺らの評判はそんなに変わらない。」

 自分で言ってて密かに苦笑する。確かに俺らは国民的アイドルなんかじゃない。ただし辻村は違う。こいつは顔もいいしギターの腕もいい。そのくせそれを鼻にかける事もなく、気さくで誰にでも優しい。そんな奴を世間は放っておかないもので、テレビ番組に出る時は必ず話を振られるし、五人の中で一番ファンが多い。

「だけどな、一人の男としてけじめはつけないといけねぇんじゃないか?責任を取らないといけねぇんじゃないのか?」
「責任……?」
「さっきの話だと今回は記事にならないで済んだようだけど、その彼女にとっては写真に撮られたっていうだけで不安でいっぱいなんじゃねぇのか?ずっと付き合ってくつもりならその子をお前がちゃんと守ってやんねぇと。俺らに謝る前に彼女に謝れ。」
「……そう、だよな。」

 辻村が沈痛な顔で俯く。俺は皆を見回して一人一人の顔を見ていった。全員が揃って真面目な顔で俺を見返す。俺は深呼吸するとまた辻村に視線を移した。

「いくら俺達だってプライベートの事まで侵害されたくない。だからお前の気持ちはわかる。誰もお前の事責めてないし、謝られても困るだけだ。」
「…………」

 辻村が俺を見てる。俺も辻村を見返している。そしてふと思った。

 こんな風に辻村を見つめた事など最近あっただろうか。こんなお互いの息遣いが聞こえる距離に最後に立ったのは、いつだっただろうか……

「だけど今回の事で社長や事務所の人達がどれだけ力を費やしてくれたのか、よく考えるんだな。そしてちゃんとお礼を言え。」

 思わず吐き捨てるような口調になってしまった。俺は後ろを向くと、さっきまで立っていた場所に戻った。

「…ごめん……」

 そんな俺の背中に辻村の小さい声が届く。その声はいつもの彼らしくなく、語尾が少し震えていた。

「それで?辻村君はどうするの?これから。」
「どうするって?」
「その彼女とどうするかって事。」
「あぁ……まぁ、俺に言える事は温かく見守ってくれって事だけだな。」
「……そう。」

 裕がちょっと寂しげに微笑んだのを目の端で捉えた俺は、本当に辻村に彼女がいるんだという事を今更ながら実感した。

「仲本君はどう思う?」
「何が。」
「辻村君が言ってる事。」

 晋太がそう言って俺を鋭い目で見てくる。その迫力に言葉が詰まった俺は、浩輔に助けを求めた。視線が合うと浩輔はいつものふにゃっとした顔で笑った。その顔を見た俺は一度頷くと口を開いた。

「俺がどうこう言える事じゃない。このまま付き合うんならそうすればいいし、別れる事になるならそれまでだったって事だろ。」

 そうきっぱり言い切った俺に聞こえたのは、辻村の深い溜め息だった。

「仲本の言う通りだよな。今日帰ったらまずは彼女に謝るよ。皆、ありがとう。話聞いてくれて。……じゃもうすぐレコーディングだから。お前らも早く準備しろよ。」

 そう元気のない声で言うとそそくさと控え室を出ていった。


「僕らも行こうか。仲本君も早く来てね。」
「あぁ……」

 裕を先頭に三人が出ていく。俺はそれをボーッと眺めていた。

 だから晋太が心配そうな顔で俺を見ていた事には気づけなかった。



 この時から俺達はゆっくりと、そして確実に壊れ始めた……そう、確実に……



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