君を守る為、俺は強くなる

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第二章

突然の乱入者

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―――

 居酒屋でのそんな三人のやり取りを少し離れた所で見ていた人物は、そっと誰にも気付かれないように席を立った。


「お帰りですか?」

 店員がその人物ににこやかに話しかける。その人物は無言で財布から一万円札を取り出すと、


「おつりはいいから。」

 とだけ言い残し、さっさと店から出て行った。店員はしばらく呆然とその一万円札を握ったまま固まっていたが、やがて我に返った様子でレジの中へと入れた。



―――

 その人物は店の外へ出ると深いため息を一つついた。そして気を取り直すように肩を竦めると、歩き始めた。

 行き先は特に決めていなかった。とりあえずこの沈んだ気持ちを落ち着かせてくれる場所なら、どこだって……

 ふと前方から見知った顔が近付いて来るのを見つけて、その人物はギクッとした様子で立ち止まった。


「よぉ!晋太。珍しいな、お前とこんなとこで会うなんて。」
「辻村君……」

 晋太とばったり会った事を心から喜んでいる辻村に対し、晋太は明らかに不快な表情をあらわにした。


「どうした?具合でも悪いのか?」
「いや、別に……」
「そっか。ならいいんだ。あ、仲本知らねぇか?あいつ、さっきから携帯鳴らしてんだけど全然出なくてさ。」

 晋太の前に自分の携帯をかざして、辻村は困った顔を見せる。晋太は無言で今さっき出て来たばかりの店を指差した。


「ん?あそこか。わかった、サンキュー。」

 店に向かって歩きかけた辻村の服の裾を、晋太は無意識の内に掴んでいた。


「何?お前も行く?」

 振り向きながら笑顔を見せた辻村に向かって、晋太は今度ははっきりと敵意の色を見せながら言った。


「あんたのせいだ!」

 そう叫ぶと、晋太は脇目もふらず走り出して行ってしまった。


「何だ、あいつ……」

 後には訳もわからず、ただ呆然と立ちすくむ辻村の姿だけが残った。



―――

 晋太が俺達三人の話を聞いていた事も、店の外で晋太と辻村の間にあんな事があった事も全く知らない俺は、相変わらず高い物だけ頼んでいる裕と浩輔に手を焼いていた。


「ワインまだですか?」
「僕、さっきのもう一つ。」
「おい、いい加減にしてくれよ。でないと俺の今日の小遣いが……」

 俺はさっきから何十回も見たであろう財布を取り出して、二人に向かって言った。


「何言ってんの?自分から言ったんじゃない。おごるって。」
「そりゃ言ったけどさ。それにしても限度ってもんが、あると……」

 確かにおごると言った手前、はっきりと抵抗できない自分が悔しい……


「よぉ!お揃いだな。」

 不意に後ろから声をかけられ、俺らは一斉に振り向いた。


「つ、辻村!?」
「「辻村君!!」」

 三人同時にこの店全体に声が反響する程の大声で叫ぶ。これには辻村の方がビックリした様子で、一歩後ずさった。


「な、何だよ……ビックリするなぁ。」
「いや、お前がこんな所来るなんてさ、珍しいと思って……」

 しどろもどろになりながらやっと出てきた言い訳をした後、俺は密かに裕と浩輔に目で合図した。二人も辻村に気付かれないように軽く頷いた後、辻村の方に顔を向けた。


「辻村君、座れば?こっち空いてるし。」

 浩輔がさりげなく自分の隣の椅子を手で示す。俺は心の中で浩輔に礼を言った。


「あぁ、じゃあお言葉に甘えて。」

 辻村はそう言いつつも何故か俺の方をちらっと見る。そして首を傾げた俺に物言いたげな表情を向けた。


「何、辻村。」
「いや、何でもない。」
「?」

 意味ありげに目を伏せた辻村は気を取り直すように一度瞬きをすると、そのまま二、三歩歩いて浩輔の隣の椅子に落ち着いた。俺はそんな辻村の動きを目で追いながら、溜め息をついた。

 良かった……本人に聞かれてなかったとはいえ、さっきまでこいつの話をしていたのだ。しかも俺の一世一代の大告白だ。バレたら気まずいどころじゃない。顔から火を吹いてぶっ倒れるかもしれない……


「辻村君、何飲む?」

 裕がすかさず辻村に聞く。辻村はちょっと考えた後、


「水割りでいいや。」

 とだけ言って黙り込んだ。

 俺はそんな辻村を不思議に思いながらも、何も聞かずに自分のジョッキを持ち変えた。しばらく四人の間に妙な沈黙が走る。それを破ったのは辻村だった。


「あのさ、さっき晋太もここ来てた?」
「ん?晋太?いや、来てないぜ。一応誘ったんだけど何か用事あるって断られてさ。」
「そっか。じゃ俺の気のせいか……」

 そう言うと、ちょうど運ばれてきた水割りのグラスを一気にあおった。


「気のせいって?」
「いや、さっき俺がここ来る前に会ったんだけどさ、店の前にいたからてっきりここから出て来たんだと思って。ま、いなかったんなら俺の勘違いだな。ただ通りかかっただけかも知れねぇし。」
「ふ~ん、晋太が……」

 裕が何か考え込むようにしてそう呟く。俺は裕を覗き込んだ。


「裕?」
「いや、ごめん。何でもないよ。」
「何だよ……俺には言えない事かよ。」

 何となく裕が深刻な顔をしてたから心配してやったのに、何だよ、何でもないって……

 俺は面白くなくなって、目の前のビールを一気に飲みほしたのだった。



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