君を守る為、俺は強くなる

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第三章

溢れる涙

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―――

 結局リハは順調に終わり、心配と迷惑をかけたスタッフたちに頭を下げた俺はようやく帰宅した。


「はぁ~……飲み過ぎと寝不足か…」

 つい先ほどマネージャーから伝えられた倒れた原因を呟いて、ソファーにどかっと腰を落とす。そしてそのまま頭を抱えた。

 辻村の事で悩み始めてから毎日のように酒を飲んでいた事も、あまり寝つけなくて寝不足だった事も自覚はしていた。昔はよく無理して倒れてたけど自己管理できるようになってからはなくなったし、今も自分の事は自分でやれていたつもりだった。

 だけど何だ、このザマは。仕事に支障をきたして周りに迷惑かけて……

 そして何より辻村に心配をかけてしまった、その事で俺は自分を責めていた。


「寝よ……」

 今日はベッドで寝たい気分だ。久しぶりに触るシーツが思ったより冷たくて、何故か涙が出そうになった。



―――

「はよー」
「あ、おはようございます!仲本さん。今日もよろしくお願いします!」

 廊下ですれ違ったスタッフに声をかけると、滑稽なくらい棒立ちになって挨拶を返してくれる。そんな様子に微笑ましくなった俺は、まだ若いその子に聞いてみた。


「メンバー来てる?」
「あ、はい!辻村さんと吾妻さんがいらっしゃってます。二人とも楽屋にいると思いますけど。」
「裕も?」
「えぇ。何か辻村さんとお話してらっしゃいました。」
「そう。サンキュー」
「失礼します。」

 きちんと挨拶もできるしいい奴だなぁ、と思いながら歩いているといつの間にか楽屋の前にいた。

 心の準備がまだ出来ていなかったが、この際だと自分に渇を入れて入り口から顔を覗かせた。


「あれ?裕一人?」
「あ、仲本君。どうしたの?珍しく早いね。体調はどう?」
「飲み過ぎと寝不足っつぅからよ、昨日は禁酒してさっさと寝たから大丈夫。今日は最終リハだからな。」
「そっか。」

 ちょっと微笑むと何だか意味ありげな顔で手招きしてくる。俺は頭に?を浮かべながら、近付いた。


「辻村君を探しに来たんだよね?」
「なっ!……んでわかんだよ……」
「だって最終リハの時は真っ直ぐ舞台袖に行くのに、貴方がここに来る理由はただ一つだけ。辻村君に会いたいから。ね?当たりでしょ?」
「……何かムカつく…」

 ニヤけている裕の顔を見ていたくなくて、足元に視線を移した。


「辻村君ね、ここを真っ直ぐ行った突き当たりの自動販売機にいるよ。行ってみたら?」
「え?」

 思いがけない情報に顔を上げる。そこには優しい顔の裕がいた。


「久しぶりでしょ?辻村君とちゃんと話するの。」
「裕……」
「え~い!行ってらっしゃい!」

 痺れを切らした裕から無理矢理背中を押されて前につんのめる。後ろを振り返ると、ひらひらと手を振る裕と目が合った。


「行ってくる……」
「は~い。」

 俺は持っていたカバンを握りしめると、一つ深呼吸してドアを開けて廊下に出た。



―――

「もう大丈夫、なんでしょ?」
「……うん。でもお前には迷惑かけたから……」

 廊下を歩いて問題の自動販売機が近付いてくると、誰かの声が聞こえてくる。俺は歩く速度を抑えながら、それでも一応様子を窺いながら近付いていった。


「!!」

 稲妻が走ったような衝撃が体に襲いかかる。俺は咄嗟に壁に張りついた。

 そこにいたのは辻村と、辻村の彼女だった……

 そっと顔を出してその女の子の顔を確かめる。そして間違いないという結論に至った俺は、盛大なため息をついた。

 実は一番最初にマネージャーから辻村と彼女の事を聞かされた時、マネージャーが持ってきた週刊誌に載せる前の写真を見てしまったのだ。そこに映っていた女の子と、今目の前にいる子が同一人物だと俺自身の目が言っている。俺はちらっと二人を見やると、不意に高ぶってきた感情を振り払うように走り出した。


 走って走って走り疲れた俺は、何処か休める場所はないかとフラフラになりながらさ迷った。もう自分の楽屋がどこなのかさえわからない。

 涙で滲んだ目には、同じ場所をグルグル廻ってるようにしか見えなかった。


「仲本君!!ちょっとどうしたの!?」

 突然聞き慣れた声がしたかと思うと、がっしりとした腕に支えられた。力の入らない顔を上げると、ぼやっとした視界に晋太の顔が見えた。


「晋太……?」
「と、とりあえず近くの部屋に……歩ける?」
「何とか……」

 晋太の支えで必死に足を動かして部屋に入るが、限界だった体はそのまま晋太もろともソファーに倒れ込んだ。


「わっ!仲本君……?」
「わりぃ、晋太……しばらくこうしててくれないか?」

 今の二人は俺が晋太を抱きしめているような体勢だったが、弱ってる俺にとっては人肌がとても気持ち良くて離れたくなかった。座ってる分晋太の座高は俺と同じくらいだったし、晋太のあったかい子どものような体温が心地よくて思わず腕に力がこもった。


「……よしよし。」

 何も聞かずに優しく頭を撫でてくれる晋太に、我慢していた涙が溢れた。


「くっ……!やっぱ俺無理だわ。強くなんて、なれねぇよ……」
「仲本君……」
「こんな事で泣く自分が情けねぇ……」
「…………」

 しばらくは俺の嗚咽だけが部屋を支配していたが、ハッと我に返って晋太から離れた。


「わ、わりぃ……俺……」

 俺は涙を服の袖で拭いながら晋太を見た。晋太は穏やかな顔で俺を見ながら顔を横に振る。


「仲本君が僕を必要としてくれたんだから、嬉しかったよ。僕の前で涙を見せてくれたのも、抱きしめてくれたのも。」

 頑張って平気なフリをしてるけど、その瞳にはうっすら涙の膜が張ってあって胸が痛んだ。


「何があったか聞かないし聞きたくもないけど……もう一回だけ、抱きしめて?仲本君がまだ泣き足りないって事にして……」
「晋太……」
「ねぇ?お願い……」

 晋太の切実な願いに押されるようにして、俺は彼の背中を抱き寄せた。その瞬間再び溢れてきた涙は晋太の肩を濡らしていった……


 その時閉めたはずの部屋のドアが少し開いていた事には、俺も晋太も気付いていなかった……



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