君を守る為、俺は強くなる

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最終章

悩んだ末の結論

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―――

「うん、あぁ……わかった、それでいいよ。悪かったな、無理言って。じゃあ三日後に。」

 俺はそう言うと携帯の電源を切って、ベッドに放り投げた。そして盛大にため息をつく。


「何やってんだ、マジで……」

 呟くとそのままベッドに大の字になった。


 辻村に自分の気持ちを言ってしまった後、何とか本番を乗り越えた俺は、すぐさまマネージャーに纏まった休みをくれと言いに行った。ライブが終わったばかりで流石にすぐに返事は貰えず、とりあえず帰って連絡を待っていたのだ。そしてついさっき電話が入り、何とか二日だけ休みが取れたという報告を受けたという訳だ。


「二日かぁ~……」

 しばらく天井を見つめていたが、無意識にか細い声が出て苦笑する。俺はそっと目を閉じた。

 
 ずっと言わないつもりだった。死ぬまで、それこそ墓場まで持っていくつもりだった。

 こんな俺でも一人の人を一途に愛せるんだと知って、ちょっとした事で不安になって焦ったりしている自分に戸惑って……

 だけど意に反してこの想いはどんどんでかくなっていって、もう俺一人では抱えきれなくなっていたのも事実だった。

 早くあいつにぶちまけて、楽になろうと本能が叫んだのかも知れないと思い立って、また苦笑いが出た。


「あいつ、困ってるだろうなぁ……」

 ふとあの時の辻村の顔を思い浮かべる。ビックリしたような困ったような顔をしていた。

 いや、『ような』じゃない。相当驚いて戸惑っていたに違いない。それこそ声も出ない程に……

 どうして言ってしまったのか、自分でもわからない。ただ俺と晋太の話ばかりする辻村に、何故か腹が立って………

 気付けば口走っていた。


「…辻村……」

 近くに感じた彼のぬくもり、匂い、存在全てを思い出そうとするかのように、右手を固く握りしめた。



―――

 どのくらいそうしていただろう。近くにあった携帯が震えている事に気付いて目を開ける。手に取って見ると、裕からの着信だった。


「もしもし?」
『あ、僕だけど。今大丈夫?』
「あぁ。」
『あのさ、ちょっと出てこれない?』
「いいよ。どこに行けばいい?」
『じゃあ、いつものとこで。待ってるから。』
「わかった。30分くらいで行く。」

 通話を終えると起こしていた体を再びベッドに沈ませ、一度大きく深呼吸をする。


「うしっ!行くか!」

 気合いを入れて起き上がると、身仕度をして家を出た。



―――

「そろそろ連絡くる頃かなって思ってたよ。」
「何それ、予想してたって事?」

 俺の言葉に裕が笑い混じりに返してくる。さっき運ばれてきたビールにちびちび口をつけながら、俺も笑った。


「だってさ、辻村が何かあった時に相談するのってお前くらいじゃん。」
「ふふ。辻村君に何かしたっていう自覚はあるんだ。」
「なっ!!………つぅか、聞いたんだろ?あいつに。じゃなきゃ俺に連絡くる訳ねぇじゃん、こんなタイミングで。」
「まぁね。」

 じとりと睨むと、裕は意味ありげに微笑みながらワインを一口飲んだ。


「……辻村君、泣いてた。」
「は……?」

 まるで『このワイン美味しいね』とでも言ったかのようなナチュラルな一言。だけど俺は顔が強張るのを感じていた。


「今、何つった?」
「だから辻村君泣いてた。ライブ終わった後、楽屋で。」

 消え入りそうな声で『マジか……』と呟く。ビールのジョッキを持つ手がちょっと震えていた。


「僕がどうしたのっていくら聞いても泣いて答えないんだもん。だから実は僕、君達二人に何があったのか知らないんだ。まさか無理矢理襲ったとかじゃないよね?」
「んな事してねぇよ!!」
「そう、良かった。まぁ仲本君の事だから?大丈夫だとは思ったけど、一応ね。」

 ニヤリと片方の口端を上げて笑われ、俺はがくりと肩を落とした。


「でも無理矢理襲ったっていうのもあながち間違いじゃねぇのかもな。」
「え?」
「だってさ、自分の気持ち押し付けただけだもん。あいつの事何も考えてやれねぇで、何が大事な人だよ。ずっと笑ってて欲しいのに、幸せになって欲しいのに、俺が泣かせてちゃ意味ねぇじゃんか……」
「仲本君……」

 裕の手がそっと肩にかかる。俺はガバッと顔を上げると、裕に掴みかかった。


「あいつは、辻村は優しいから……きっと俺の事気にすると思うんだ。次の仕事の時もどんな顔して会ったらいいかとか、悩むと思うんだ。本当は俺なんかと会いたくないとか思っても、そんな事絶対言うやつじゃない。俺にはわかる。俺とあいつは正反対だけど、根っこは似てるから……」
「ちょ……っと、仲本君?落ち着いて!」

 裕から逆に肩を揺さぶられて、ハッと我に返る。俺は一瞬躊躇した後、改めて裕の方に向き直った。


「俺……抜けるわ。」
「……は?」
「あいつに嫌な思いはさせたくない。俺がいなくなれば、全て丸く収まる。だから……」
「バカじゃないの!!」
「……!」

 裕の大声に、俺の全てが動きを停止した。きっと心臓も一瞬止まったに違いない。

 再び動き出した鼓動に安堵のため息をもらしながら、俺は裕を見た。


「……そんなバカな事、冗談でも言って欲しくないよ。」
「……………」
「晋太と浩輔が聞いたら、こんな一喝じゃ済まないからね。それに辻村君には殴られるだろうし。」
「……だろうな…」

 俺はうっかりそんな光景を想像して、短く嘲笑った。


 俺が『STAR』を辞める。それはずっと考えていた事だった。辻村に言ってしまった後から、今の今までずっと……

 自分の気持ちを封印してまであいつの側にいたかった。俺とあいつを繋ぐたった一本の糸が他でもない、『STAR』だから。

 だけど言ってしまった。だったらもう俺は辻村と一緒にはいられない。離れるしか道はない。

 ずぅっと、そう思っていた。覚悟を決めようと思った。俺にはもう、そこしか逃げ道はないと。だけど……


「俺、やっぱりこれからもずっと『STAR』でいたい。あいつを好きになるずっとずっと前から、『STAR』と一緒に、お前らと一緒に生きてきたんだから。」

 目に涙が滲んでくる。裕も瞼を真っ赤にしながら、俺を見ていた。


「そうだよ。僕たちの絆、軽く思わないでくれる?それに前も言ったけど、僕たち仲本君がいないとダメなんだから。」
「ふはっ!胸張って言う事かよ。」

 俺が笑うと、裕も涙を流しながら笑った。


「あのさ、仲本君。」
「ん?」
「優しいイコール、弱さじゃないよ。」
「え……?」

「辻村君は優しいよ。だけど仲本君が言うように、そんなに柔じゃないと思う。ちゃんと結論を出して、仲本君に答えを返してくれると思うよ。」

 裕からそっと目を逸らすと、すっかりぬるくなったビールが力なく泡を吹き出している。俺は目をつぶった。辻村の顔が蘇る。


 笑った顔、怒った顔、滅多に見せない泣いた顔、悔しげに唇を噛みしめている顔……色んな表情が浮かんでは消えていく。

 そして今日の、驚きと戸惑いと迷いがない交ぜになった顔を最後に、映像は途切れた。


「……迷い?」

 目を開けながら、何故か唐突に出てきた単語に首を傾げる。


「仲本君?」

 裕が声をかけてくるが、お構い無しに上着を手に取ると席を立った。


「裕、悪い!俺帰るわ。ここ払っといて。」
「え?あ……仲本君!」

 ズボンのポケットから携帯を取り出すと、目的の番号を呼び出しながら店を出た。


「もしもし?あ、俺だけど……」――



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