[兄弟愛]深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
5 / 7

ワレリー兄上とリナト

しおりを挟む
◆◆◆◆◆

ワレリー兄上の厳しい言葉に、リナトが反論しようとした。僕は口論に発展する事を嫌い、兄上の元に駆け寄った。

「ワレリー兄上、お疲れ様です。馬車の音が聞こえず、帰宅された事に気がつきませんでした。ごめんなさい、兄上。ところで、何時もよりお早いお帰りですね?」

僕が早口で声を掛けると、兄上は僕の意思を察したようで穏やかな表情を浮かべた。

「ただいま、マーシャ。今日は同僚と共に仕事で郊外に出ていてね。帰りは同僚と辻馬車に乗って帰ってきた」

「辻馬車ですか!?」
「マーシャは乗ったことがないかな?」
「ないです。乗りたいです」

「あまり推奨は出来ないが、護衛をつけてなら辻馬車に乗っても構わないよ。ただし、王都から出ては駄目だからね」

「色々、体験したいです。邸から出られるだけで、僕には大冒険です」

昔は屋敷の一室に閉じ込められて、庭に出ることさえ許されなかった。時には、両手足を拘束されベッドに縛られた。外の世界に憧れ続けた日々。

「マーシャ?」
「僕は幸せです、兄上」
「・・そうか」

「ところで、ワレリー兄上が持っている箱には、もしやお菓子が入っているのでは?よい薫りがします~」

「同僚と昼食を食べた店で、焼き菓子を売っていてね。クッキーとスコーンを買ってきた。今から一緒に食べないかい?」

「食べます~!」
「リナトも食べるだろ?」
「俺は・・あー、はい、食べます」

突然ワレリー兄上に声を掛けられたリナトは、返答に困りつつも矛先を納める事にしたようだ。でも、表情は不機嫌なままだ。

「使用人がもうすぐ紅茶を持ってきます。ここで食べましょう、兄上」

「そうだな」

テーブルを囲むソファーに皆が適当な距離を保ち座った時に、タイミングよく使用人が現れた。事前にワレリー兄上が図書室に来ていた事を知っていたようで、紅茶は四人分用意されていた。

「焼き菓子を買ってきた」
「承知しました、ワレリー様」

使用人は兄上から箱を渡されると、皿の上に綺麗に盛り付けてくれた。

「美味しそう~!いただきます!」
「俺も食べるか」
「・・・」

僕とワレリー兄上は、さっそく菓子に手をつけた。兄上は美丈夫な見た目には似合わず、部類の甘党である。なぜ太らないのか疑問だ。僕は孕み子だからなのか、太りやすい。まあ、食べるけど。

「美味いな」

「美味しいです。リナトも食べなよ。このクッキー最高に甘いよ!」

「最高に甘いって・・褒め言葉なのか?」
「褒め言葉だよ。はい、あーん」
「えっ、いや。え?」

「あーん」

リナトの口元に、わざとクッキーをぶつけてみた。さあ、食べなさい!育ち盛り!



◆◆◆◆

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...