兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します

月歌(ツキウタ)

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クリムゾン

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◆◆◆◆◆

魔王の部屋を後にすると、僕はクリムゾンに声を掛けた。

「クリムゾン、少し新鮮な空気を吸いたい。庭園を散策してから部屋に戻っても構わない?」

「俺は魔王から、アムールの護衛を命じられた。もちろん、供をするさ」

僕はクリムゾンの顔をちらりと見て、ちょっと意地悪な言葉を口にした。

「あれー?僕は魔王の花嫁だよ?敬語で話さなくていいの?丁重に扱うようように、デッドリー兄上に言われてなかった?」

「ふん。幼馴染に敬語なんて使えるかよ。だが、魔王様は怖いから二人きりの時だけため口でいく。別に構わないだろ、アムール?」

僕とクリムゾンの関係は幼馴染とはいえない。最初はクリムゾンの事を『おじさん』と呼んでいたな、などと不意に思い出す。

「構わないよ、クリムゾン。長い付き合いだしね。それにしても、奇妙な縁だね。クリムゾンは今回も魔王の五番目の花嫁の護衛を務めるんだよね?」

「ああ、そうなるだろうな」

クリムゾンの生家であるクローバー家は、魔王の花嫁の世話役や護衛を務める一族だ。

僕の母上はサキュバスの家系の生まれで、先代魔王の五番目の花嫁に選ばれた。そして、僕の母上の護衛を務めたのがクリムゾンである。

「アムールの母上は美しい方で、五番目の花嫁ながら先代魔王に愛された。子が生まれた時には、お二人はそれはもう大いに誕生を喜ばれたことか」

「その息子が魔力を殆ど持たないと分かった途端に、母上への風当たりが強くなったよな。魔界も世知辛い。魔王の一番目の花嫁とその息子のデッドリー兄上が庇ってくれてなかったら、僕は完全にグレてたと思うよ」

「俺もアムールを精一杯庇ったつもりだが、感謝の言葉はないのか?」

「それは仕事の一貫だろ?」

「確かにな。しかし、アムールが魔王の花嫁に選ばれるとは考えもしなかった。兄弟で花嫁に選ばれるとは、なかなか複雑な立場だな、アムール?」

僕はクリムゾンに視線を向けた。僕の成長期が終わり現在の姿になると、クリムゾンは『おじさん』と呼ばれる事を嫌った。なので、幼馴染ということで手を打った。

それにしても、クリムゾンは全く老ける様子がないな。イケおじになると思ったのに若々しいままだ。

「五番目の花嫁に選ばれたけど、デッドリー兄上と僕の関係は変わらないよ。まあ、たまには・・寝所に呼ばれるかもだけど」

「寝所に呼ばれる事を期待しているのか、アムール?」

「っ!」

僕はクリムゾンの足を蹴った。だけど、僕の足の方が確実に痛かった筈だ。くそ!

「寝所に呼ばれても、デッドリー兄上と話をするだけだよ、クリムゾン。一度も僕が寝所に呼ばれなければ、他の花嫁になめられるからね。五番目の花嫁にも気を使ってくれる、優しい魔王なの!」

「優しい魔王は誉め言葉ではないよ、アムール?」

僕はクリムゾンの皮肉を聞き流して、兄上に関する気になる事を口にした。

「デッドリー兄上は吸血鬼の家系だから、吸血衝動は仕方がないけど・・勇者を食事にするのは危なくないか?勇者は魔王の天敵だよ、クリムゾン?」

僕の質問にクリムゾンは肩を竦めた。


◆◆◆◆◆
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