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お別れの銀河鉄道
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◆◆◆◆◆
列車に乗ってどこまでも行けたらいいのに。
きらきらと星の輝く駅で降りる為、僕は座席から立ち上がる。横に座る大好きな先輩が、星の輝く駅で降りようとしたからだ。
でも、先輩は微笑んで僕に話しかける。
『お前は駄目だ』って。
先輩の言葉と同時に、僕の体は時が止まったように動かなくなってしまう。僕の目の前を通り、先輩は星の輝く駅で列車を降りてしまった。
僕が動けるようになるのと同時に、列車の扉が閉じてしまった。あわてて列車の窓を全開にして、僕は先輩の名を叫んでいた。
「あずさ先輩っーーーーーーーー!!」
ホームに立つ先輩がゆっくりと振りかえる。そして、柔らかに微笑み僕に告げる。
『お前は生きろよ』って。
「・・・?」
僕は先輩の言葉が理解できなかった。
不意に目の前が輝きだし、僕は眩しくて目を開いていられなくなる。目を瞑ると同時に、列車が発車して車内が揺れた。僕はバランスを崩して、座席に倒れ込んだ。
列車が走り出し、車窓のホームが流れ出す。車両には僕以外誰もいない。不意に寂しさが募って、僕は泣き出していた。
涙がぽたぽたと、握り締めた拳に落ちてゆく。急に疲れを感じて、僕はシートに横たわり目を閉じた。
あずさ先輩と一緒に行った鉄道サークルの合宿はすごく楽しかった。
行きは8人だった。
・・でも、帰りは。
◇◇◇◇
眠りから覚める。
気が付くと、僕は真っ白な天井をぼんやりと見上げていた。
病院だ。
看護師さんが側にいて、僕の顔を覗き込んでいる。黒い瞳で僕を見つめたまま、首からかけた携帯電話を器用に操作する。
しばらくすると、病室にお医者さんが現れた。お医者さんは僕を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。そして、言葉を紡ぐ。
「覚えているかな?ホテルの送迎バスが・・崖に落ちた事を?」
あぁ、そうなんだ。
そうなんだね。
バスが崖に落ちてしまった。
僕は奇跡的に軽症で済んだ。
サークルの仲間はバスと共に潰れた。あとに残ったのは、僕とあずさ先輩。先輩の足は半分潰れていたけど、意識はあった。救助が来るまで、僕は先輩の手を握りしめ続けた。
でも。
僕は泣きだしていた。
大好きだった仲間たち。
そして、大好きなあずさ先輩。
先輩。あずさ先輩。
『お前は生きろよ』
はい。
僕は生きています。
僕だけが生きています。
涙が止まりません。あずさ先輩、どうかこの涙を止めてください。
不意に蒸気機関車の汽笛の音がして、僕ははっとした。病室の窓からは、SL山口号が走っているのが見えた。
あずさ先輩が大好きだった蒸気機関車。
僕は何時もの習慣でカメラを探していた。お医者さんがいぶかしそうに僕を見つめている。僕は必死にお医者さんに話しかけていた。
「先生・・カメラ、カメラが欲しいです」
「カメラ?ああ、君は電車が撮りたいの?」
「はい。撮りたいです」
「ちょっとまってね。君、買ってきてくれる?」
「はい、先生」
看護師さんが病室を後にする。しばらくすると、看護師さんが売店で使い捨てのカメラを買ってきてくれた。僕は先生に心配されながらも、病室の窓から写真を撮った。
泣きながら、SL山口号の写真を撮った。
だって、あずさ先輩や鉄道サークルの皆が、大好きな蒸気機関車に乗っているように思えたから。
カメラのシャッターを押すたびに、心が癒されていく気がして。僕は使い捨てカメラのシャッターを空押しになっても、写真を撮り続けた。
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列車に乗ってどこまでも行けたらいいのに。
きらきらと星の輝く駅で降りる為、僕は座席から立ち上がる。横に座る大好きな先輩が、星の輝く駅で降りようとしたからだ。
でも、先輩は微笑んで僕に話しかける。
『お前は駄目だ』って。
先輩の言葉と同時に、僕の体は時が止まったように動かなくなってしまう。僕の目の前を通り、先輩は星の輝く駅で列車を降りてしまった。
僕が動けるようになるのと同時に、列車の扉が閉じてしまった。あわてて列車の窓を全開にして、僕は先輩の名を叫んでいた。
「あずさ先輩っーーーーーーーー!!」
ホームに立つ先輩がゆっくりと振りかえる。そして、柔らかに微笑み僕に告げる。
『お前は生きろよ』って。
「・・・?」
僕は先輩の言葉が理解できなかった。
不意に目の前が輝きだし、僕は眩しくて目を開いていられなくなる。目を瞑ると同時に、列車が発車して車内が揺れた。僕はバランスを崩して、座席に倒れ込んだ。
列車が走り出し、車窓のホームが流れ出す。車両には僕以外誰もいない。不意に寂しさが募って、僕は泣き出していた。
涙がぽたぽたと、握り締めた拳に落ちてゆく。急に疲れを感じて、僕はシートに横たわり目を閉じた。
あずさ先輩と一緒に行った鉄道サークルの合宿はすごく楽しかった。
行きは8人だった。
・・でも、帰りは。
◇◇◇◇
眠りから覚める。
気が付くと、僕は真っ白な天井をぼんやりと見上げていた。
病院だ。
看護師さんが側にいて、僕の顔を覗き込んでいる。黒い瞳で僕を見つめたまま、首からかけた携帯電話を器用に操作する。
しばらくすると、病室にお医者さんが現れた。お医者さんは僕を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。そして、言葉を紡ぐ。
「覚えているかな?ホテルの送迎バスが・・崖に落ちた事を?」
あぁ、そうなんだ。
そうなんだね。
バスが崖に落ちてしまった。
僕は奇跡的に軽症で済んだ。
サークルの仲間はバスと共に潰れた。あとに残ったのは、僕とあずさ先輩。先輩の足は半分潰れていたけど、意識はあった。救助が来るまで、僕は先輩の手を握りしめ続けた。
でも。
僕は泣きだしていた。
大好きだった仲間たち。
そして、大好きなあずさ先輩。
先輩。あずさ先輩。
『お前は生きろよ』
はい。
僕は生きています。
僕だけが生きています。
涙が止まりません。あずさ先輩、どうかこの涙を止めてください。
不意に蒸気機関車の汽笛の音がして、僕ははっとした。病室の窓からは、SL山口号が走っているのが見えた。
あずさ先輩が大好きだった蒸気機関車。
僕は何時もの習慣でカメラを探していた。お医者さんがいぶかしそうに僕を見つめている。僕は必死にお医者さんに話しかけていた。
「先生・・カメラ、カメラが欲しいです」
「カメラ?ああ、君は電車が撮りたいの?」
「はい。撮りたいです」
「ちょっとまってね。君、買ってきてくれる?」
「はい、先生」
看護師さんが病室を後にする。しばらくすると、看護師さんが売店で使い捨てのカメラを買ってきてくれた。僕は先生に心配されながらも、病室の窓から写真を撮った。
泣きながら、SL山口号の写真を撮った。
だって、あずさ先輩や鉄道サークルの皆が、大好きな蒸気機関車に乗っているように思えたから。
カメラのシャッターを押すたびに、心が癒されていく気がして。僕は使い捨てカメラのシャッターを空押しになっても、写真を撮り続けた。
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