お別れの銀河鉄道と+α

月歌(ツキウタ)

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あずさ先輩

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◆◆◆◆◆



人見知りで友達がいないから、教室ではいつも一人で本を読んでる。

「えっ、それって‥万引きじゃ‥」
 
一人は楽だけど、それじゃ駄目だって周りの大人が言う。だから勇気を出して、クラスメイトに声を掛けた。

「万引きじゃねーよ。ただの遊び。あそこの駄菓子屋の婆さん目が悪いんから、楽勝だって。ばっとやってこいよ」

「でも‥」

クラスの人気者で友達が沢山いる子。僕は別に本気で友達になれるとは思ってないし、形だけでよかった。

「俺らの仲間になりたいって言ったのお前の方だろ?言ったからには根性見せろよ、ボッチ。なぁ、皆もそう思うだろ?」

「ボッチくん、早くしろよ」
「ビビってんの?ださ」

なのに、こんな事になるなんて。

「あ、でも。学校の先生に‥バレたら。その、親に電話されて」
「うざ!まじ、ウザい!」
「あ、あの‥」

「俺ら小学生だから、バレても謝ればいいだけ。万引きなんて単なるイタズラだろ。まあ、中学でやったらDQNだけどさ。小6だから大丈夫」

全然大丈夫じゃない。小6も中学生も変わんないのに。万引きも犯罪だし。やりたくない。やりたくない。

ガツ

「いたっ!」
「鈍いな~、ボッチ。なあ、皆も蹴ってみろよ。超弱いから」
「www」
「www」

「あっ、やめ‥」

蹴られた。脚を蹴られた。

「嫌なら駄菓子屋行って万引きしてこいよ。ズルは駄目だからな。俺らが監視してるから、ビビって婆さんに金を渡すなよ、ボッチ‥ん?」

皆の視線が僕の後ろに向けられる。僕はビビって後ずさって、背中に誰かの体が当たる。振り返ると中学の制服を着た男の子がいた。

「悪いけど万引きとかやめてくれる?駄菓子屋のばぁちゃんは、俺の祖母だから‥マジで迷惑。それと、忠告するけど一ヶ月前から監視カメラつけてるから、そろそろ担任から声掛けあると思うぞ?それでも、まだ万引きするならバカ揃いだな」

「う、嘘だ!」

僕を蹴ったクラスメイトが顔色をかえながら叫んだ。そんな彼を置いて仲間が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

クラスの人気者がボッチになった瞬間、僕は思わず笑ってた。それを隠したくて両手で顔を覆った。

「お、覚えてろ!」

覚えてろ?ダサい。覚えてろって。クラスの人気者が走り去る気配がした。あいつの名前なんだっけ?まあ、いいか。

「おい、足大丈夫か?」
「‥大丈夫」
「泣いてるのか?」

笑ってる。違うや。泣いてる。僕は泣いてた。怖かったのか。怖かったんだ。

「あー、名前は‥ボッチじゃないよな?俺の名前は山崎あずさ。名前教えてくれるか?」

僕は顔を覆っていた両手をおろして、『あずさ』という名の中学生を見た。涙で潤んで霞んでたけど、あずささんはすごく大人で格好良くみえた。

「石川のぞみ‥です」
「のぞみ?女みたいな名前だな」
「父さんが電車が好きで」

「同じ!」
「え?」

「俺の名前も電車からとられてんだよ。『あずさ』とか女みたいな名前、迷惑だよな?お前、名前でからかわれたことあるだろ?」

僕が頷くとあずま先輩がからりと笑った。先輩?なんだか、あずま先輩って呼び名がしっくりきて、これからはそう呼ぼうと思った。

また会えるかはわからないけど。



◆◆◆◆◆
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