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第一部
1-1 マンチニールの毒 ①
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◆◆◆◆◆
庭園に見事に茂ったマンチニールの木を見て、ラフィールはうっとりとした表情を浮かべた。
「見ろ、ロスト!素晴しい光景だな。最凶の毒を持つマンチニールが庭園の一角を侵略している。最高にゾクゾクするだろ?」
ラフィールがとろとろの瞳で相棒のロストに話しかけると、首輪付きの悪魔はひょいと肩を上げて応じる。
「いや、ゾクゾクとかしねーから」
「そうか?」
「毒の樹木を見てゾクゾクする奴なんてお前くらいだ。この邸の主を見てみろ。マンチニールの木に興奮しているラフィールを見て青褪めているぞ」
「え?」
ロストの言葉に驚いてラフィールが背後を振り返ると、邸の伯爵夫人が引き攣った笑みを浮かべていた。
「ああ、セギュール伯爵夫人。その様なお顔をなさらないで下さい。私が今すぐに貴女の悩みを解決いたしますので、どうぞご安心ください」
ラフィールが伯爵夫人に一礼すると、彼女はわずかに頰を染めて応じた。
「勇者の孫であるラフィール様が来てくださったのだもの、私は何も心配はしておりませんわ」
「それはよかったです」
少年のように無邪気な笑みを見せるラフィールに、セギュール夫人は好感を抱いた。男装姿でどこにでも現れる勇者の孫は、随分と変わり者だと王都の人々は噂する。
「この植物はやはり異世界から来たものかしら?昨日はなかったのに、一晩で樹木が茂ってしまって…」
「マンチニールは植民地にも自生していますが、一夜にして樹木ができたのならば…おそらくは異世界産かと思われます」
「やはりそうなのね…」
「どなたか被害に遭われましたか?」
「庭師の息子が亡くなったわ。りんごの実だと勘違いして食べてしまったのよ。随分と苦しんで亡くなっなって気の毒だったわ」
「そうでしたか。では、早々に駆除して被害を増やさないようにしないと駄目ですね」
王城内でも男装姿で闊歩するので、ラフィールは異質な存在だ。でも、ラフィールを侮るものはただのバカ者だとセギュール夫人は思う。
少なくとも庭園の一角を外来植物に侵略された身としては、平身低頭で勇者の孫を迎えるしかない。
「よろしくお願いしますね」
セギュール夫人の言葉にラフィールは頷くとテキパキと指示を出す。
「お任せください。マンチニールの駆除作業には私とロストが当たりますので、邸の皆様はどうぞ室内でお待ち下さい。作業が終わりましたら、お声掛け致します」
セギュール夫人はその言葉に従い、使用人や庭師に邸に入るように命じて自らも自室に戻る。彼らを礼儀正しく見送ったラフィールは、再び顔を緩ませてスキップしながらマンチニールの木に近づこうとした。
「待て、ラフィール!」
「待てないよ、ロスト!最強猛毒のマンチニールの樹だよ!芳醇に香るりんごの様な果実をひとかじりするだけで、喉の灼熱感と引き裂かれるような痛みに悶絶して…喉は腫れ上がり圧迫感と激痛から水分も摂取できずに死ぬ……なんて酷い植物なんだ…最高だ……」
首輪付きのロストは主であるラフィールの変態ぶりに呆れ顔を浮かべた。だが、厄介なことに主が死ぬと飼われている悪魔のロストも死ぬことになるので気が気でない。
ロストはラフィールを抱き寄せると、勝手に動かないように注意する。
「ラフィール、勝手に動くな。俺が植物を枯らすまでは、マンチニールの木には近づくなよ」
「もちろん近づかないよ。もしも雨が降ったらマンチニールの樹液が雨に溶けて地面に降り注ぐからね。その雨に濡れただけで肌が焼き爛れてすごく痛いらしい……ん、試したいな。ロスト、雨を降らせて」
「馬鹿だろ?俺は魔王じゃね~んだよ。雨なんか降らせられるかよ。まあ、その魔王も今は人間に封印されて何もできないがな」
ロストに抱き寄せられたラフィールは特に嫌がる風もなく、悪魔の腕の中で大人しくしている。その事がロストには不思議であった。首輪付きの悪魔とはいえ、こんなにも気を許す人間はそうはいない。
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庭園に見事に茂ったマンチニールの木を見て、ラフィールはうっとりとした表情を浮かべた。
「見ろ、ロスト!素晴しい光景だな。最凶の毒を持つマンチニールが庭園の一角を侵略している。最高にゾクゾクするだろ?」
ラフィールがとろとろの瞳で相棒のロストに話しかけると、首輪付きの悪魔はひょいと肩を上げて応じる。
「いや、ゾクゾクとかしねーから」
「そうか?」
「毒の樹木を見てゾクゾクする奴なんてお前くらいだ。この邸の主を見てみろ。マンチニールの木に興奮しているラフィールを見て青褪めているぞ」
「え?」
ロストの言葉に驚いてラフィールが背後を振り返ると、邸の伯爵夫人が引き攣った笑みを浮かべていた。
「ああ、セギュール伯爵夫人。その様なお顔をなさらないで下さい。私が今すぐに貴女の悩みを解決いたしますので、どうぞご安心ください」
ラフィールが伯爵夫人に一礼すると、彼女はわずかに頰を染めて応じた。
「勇者の孫であるラフィール様が来てくださったのだもの、私は何も心配はしておりませんわ」
「それはよかったです」
少年のように無邪気な笑みを見せるラフィールに、セギュール夫人は好感を抱いた。男装姿でどこにでも現れる勇者の孫は、随分と変わり者だと王都の人々は噂する。
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「やはりそうなのね…」
「どなたか被害に遭われましたか?」
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「そうでしたか。では、早々に駆除して被害を増やさないようにしないと駄目ですね」
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少なくとも庭園の一角を外来植物に侵略された身としては、平身低頭で勇者の孫を迎えるしかない。
「よろしくお願いしますね」
セギュール夫人の言葉にラフィールは頷くとテキパキと指示を出す。
「お任せください。マンチニールの駆除作業には私とロストが当たりますので、邸の皆様はどうぞ室内でお待ち下さい。作業が終わりましたら、お声掛け致します」
セギュール夫人はその言葉に従い、使用人や庭師に邸に入るように命じて自らも自室に戻る。彼らを礼儀正しく見送ったラフィールは、再び顔を緩ませてスキップしながらマンチニールの木に近づこうとした。
「待て、ラフィール!」
「待てないよ、ロスト!最強猛毒のマンチニールの樹だよ!芳醇に香るりんごの様な果実をひとかじりするだけで、喉の灼熱感と引き裂かれるような痛みに悶絶して…喉は腫れ上がり圧迫感と激痛から水分も摂取できずに死ぬ……なんて酷い植物なんだ…最高だ……」
首輪付きのロストは主であるラフィールの変態ぶりに呆れ顔を浮かべた。だが、厄介なことに主が死ぬと飼われている悪魔のロストも死ぬことになるので気が気でない。
ロストはラフィールを抱き寄せると、勝手に動かないように注意する。
「ラフィール、勝手に動くな。俺が植物を枯らすまでは、マンチニールの木には近づくなよ」
「もちろん近づかないよ。もしも雨が降ったらマンチニールの樹液が雨に溶けて地面に降り注ぐからね。その雨に濡れただけで肌が焼き爛れてすごく痛いらしい……ん、試したいな。ロスト、雨を降らせて」
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