男装女子は異世界で外来植物を駆除しながらスローライフ満喫中

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
2 / 7
第一部

1-2 マンチニールの毒 ②

しおりを挟む
◆◆◆◆◆

「魔王も気の毒だよね。彼は異世界との扉を閉じていただけで、特に悪いことはしていなかったのに。魔物は人間を襲って食べるけど、魔王が封じられてもまだ食べてるしね」

「まあ…そうだな」

「お祖父様は魔王を封印して英雄になったけど、わりと周囲に迷惑かけてるよな…」

勇者の孫が英雄を辛口評価するのが面白くて、ロストは笑いを噛み締めながら尋ねた。

「例えば?」
「例えば…とは?」

「勇者は周囲にどんな迷惑をかけているんだ?」

「ああ、その事ね。例えば、このマンチニールの木もそう。魔王が封じられて異世界との扉が開きっぱなしだから、あっちの世界の植物がこの世界に転移してくるようになっただろ?」

「確かにな。でも、ラフィールは外来植物を駆除する仕事を王国から依頼されてる訳だから…じいさんが仕事を作ってくれたともいえなくないな」

「それな!性格の悪い奴は私に聞こえるように悪口言うんだよね。勇者の孫が美味しい仕事を独占してるとか…マジで腹立つ」

ラフィールは膨れっ面になりながら、さらに言葉を発する。

「あとは、魔王が封印されてから、人間同士の争いが増えたよね。我が国も戦争してるしさ。まあ、大国だから今のところ生活に影響はないけどさ…。やっぱり共通の敵が必要なんだよ人間は。ロスト、魔王の代わりする?」



ラフィールのいたずらっぽい言葉に、ロストは頭突きで返事した。

「いたぁーーー!」

「ふん。俺が魔王に成り代わろうとすれば、お前は敵に回るだろうが」

「それはそうだろ」

ロストは呆れ顔でラフィールを抱き上げると、庭園の真ん中にあるガゼボに移動した。そして、ガゼボのベンチにラフィールを座らせる。

「さて、そろそろ仕事に取り掛かろう。ラフィール、手袋を外す許可をくれ」

「ロスト、手袋を外す事を許す」

ラフィールの言葉にロストは一礼すると、両手の白い手袋を取った。その指先は禍々しい暗黒の色をしている。

「美しいな」

闇色の指先を見つめてラフィールが甘いため息を漏らす。ロストは呆れて肩を竦めた。

「この手を見て美しいと言うのはお前だけだ、ラフィール」

「皆は見る目がないだけだ。私はロストが私を主に選んでくれたことに感謝している…お前を信頼している」

ラフィールが笑ってそう言うので、ロストは見えない鎖を手に取り揺らしながら呟く。

「信頼しているならこんな鎖をつけることはないだろ。首輪付きの悪魔に掛ける言葉ではないな」

ロストにそう言い返されて、ラフィールは苦笑いを浮かべた。

「首輪を外せば魔界に帰ってしまうだろ、ロスト。それでは私は困るのだ。商売ができなくなる。さあ、仕事に掛かってくれ。マンチニールの樹をその手で枯らしてくれ。他の植物には触れるなよ。細心の注意を払え。あ、マンチニールの実を一つ取っといてくれない?ちょっと実験を……」

「全部枯らす!」

ラフィールはロストに一刀両断にされて、ベンチで項垂れる。その姿を見てにやりと笑ったロストがマンチニールの木に向かい歩き出した。

ロストはマンチニールの木の下に来ると、その樹木に手をあてがった。じわじわと黒い闇が広がり急激に樹木の勢いが削がれる。ギシギシと軋みだすマンチニールの木は断末魔の声を上げながら闇に覆われ崩れ落ちた。

枯らすというよりは闇に食われるって表現が正しいな…そんな事を思ってロストが黒く結晶化した樹木の残りを見ていると、背後から声がかかり飛び上がる。

「そんなに驚くことないだろ?」

「危ないから近づくなって言っただろ、ラフィール!」

「結晶化したらもう危険はないだろ?それにしても、結晶化した樹木は美しいな。これを宝石として売り出せないかな?」

ロストはラフィールの言葉を無視して、マンチニールの黒い結晶をガツガツと蹴って粉々に潰した。塵芥になったマンチニールの欠片は毒性を失いそのまま土に還る。

「あ~、もったいない」

「勿体ないじゃね~よ。勇者の孫が金にガメついとか…情けない」

「え~、美味しいものたべたいしさ。そうだ!帰りにケーキ屋さん寄ろうよ」

「ん…ケーキは悪くないな」
「でしょ?」
「じゃ帰り支度をするか」
「はい、手袋」

ラフィールが白い手袋を差し出したので、それをひょいとつまんでロストは手にはめる。闇色の指先が消えるのを見ていたラフィールは、ロストの肩に触れて不意に真顔で呟いた。

「ロスト」
「なんだ?」
「マンチニールの花言葉を知ってる?」
「知るわけないだろ」

「なら教えてあげる。マンチニールの花言葉は【虚偽】だよ」

「虚偽ねぇ」
「シュールだろ?」
「シュールだな」

魔王の息子が勇者の孫の鎖付きってのもシュールだが、その事はラフィールにも内緒だ…ロストはそう思いつつ、ちょっと笑ってラフィールの肩を抱く。


◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...