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第一部
1-5 テレンス・セラフィーニ
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◆◆◆◆◆
ヘルマンス王国の王立学園に通うテレンスは、寮生活を選ばず自宅から通学している。父親のアルバンからは人脈を作るために寮生活を勧められたが、初めて父の意見に従わなかった。
「ラフィール、喜んでくれるかな」
学園からの帰宅途中に人気のケーキ屋に寄ったテレンスは、ニコニコしながらケーキボックスを眺める。
「テレンス様…まずいです」
「不味くはないだろ。行列ができるパティスリーのケーキだぞ?」
従者で護衛のナトリがケーキにケチをつけたので、テレンスはすぐに反論した。
「いえ、ケーキの味の話ではございません。どうやら、お父上のアルバン様が戦場よりご帰還されたようです。セラフィーニ家の紋章入りの馬車が邸に入るのも見ましたので…」
ナトリの言葉にテレンスは目を見開く。そして、慌てて口を開いた。
「え、父上が帰ってきたのか!それは嬉しいけど…まずいな。王立学園への行き来を徒歩で済ませている事がバレてしまう。父上から馬車で通学するように約束させられたのに」
「馬車通学をしましょうと、私は何度も進言しましたよ?あぁ、私までアルバン様に叱られる……」
「愚痴ってる場合じゃないだろ。今すぐに馬車を用意できないか、ナトリ?」
テレンスの無茶振りにナトリは呆れ顔で答える。
「諦めてください、テレンス様」
「だったら、今日だけ徒歩通学したって事でごまかせないかな?」
テレンスの言葉にナトリは首を振って応じる。
「テレンス様が徒歩通学していることは、邸の皆が知っています。アルバン様に尋ねられれば、皆が『テレンス様は徒歩通学を満喫されています!』と答えるでしょう。主に嘘は付けませんので」
「あー、もう。融通が利かないな。でもまあ、皆に罪はない。父上からの手紙を偽造して『徒歩通学の許可』を得たと伝えたからな」
「その偽造に加担した私は確実にアルバン様に罰せられますね…」
「それについては諦めろ」
テレンスはそう答えながらため息をつく。テレンス自身は当初王立学園の寮生活を受け入れるつもりでいた。だが、いとこのラフィールが花嫁学校に行かずに仕事を始めてしまったので、テレンスは寮生活を選ばずに彼女のそばにいる事を決める。
「心配なんだから…仕方ない……」
悪い虫がつくどころか首輪付きの悪魔と契約して、サクサクと仕事をこなすラフィール。
でも、しっかり者だがどこか弱い部分がラフィールにはあると、テレンスは思っていている。それ故に彼女から離れられずにいた。
「よし、父上に怒られに行くぞ!」
「急ですね」
「遅くても早くても叱責されるなら、早いほうがいいだろ?」
テレンスは足早にセラフィーニ家の門扉を通り、守衛室の前を走り抜けた。そして、アルバンの乗る馬車の横に駆け寄る。
「父上」
テレンスが馬車に声を掛けると、ちょうど扉が開き父親が現れた。アルバンはラフィールをお姫様抱っこしていた。
「やあ、テレンス。久しぶりだね」
「父上?え、父上?なぜ、ラフィールを抱っこしているのですか?もしや、ラフィールは怪我をしたのですか!?」
「落ち着け、テレンス」
アルバンの言葉にハッとしたテレンスは、ケーキボックスを従者のナトリに手渡すと身を整えた。そして、テレンスは父親に一礼して言葉を発する。
「アルバン父上、おかえりなさい」
「ただいま、テレンス」
アルバンは息子の言葉に鷹揚に頷くと、邸に共に入るようにテレンスを促した。テレンスは頷き返して、父親と共に邸の中に入っていく。
◆◆◆◆◆
ヘルマンス王国の王立学園に通うテレンスは、寮生活を選ばず自宅から通学している。父親のアルバンからは人脈を作るために寮生活を勧められたが、初めて父の意見に従わなかった。
「ラフィール、喜んでくれるかな」
学園からの帰宅途中に人気のケーキ屋に寄ったテレンスは、ニコニコしながらケーキボックスを眺める。
「テレンス様…まずいです」
「不味くはないだろ。行列ができるパティスリーのケーキだぞ?」
従者で護衛のナトリがケーキにケチをつけたので、テレンスはすぐに反論した。
「いえ、ケーキの味の話ではございません。どうやら、お父上のアルバン様が戦場よりご帰還されたようです。セラフィーニ家の紋章入りの馬車が邸に入るのも見ましたので…」
ナトリの言葉にテレンスは目を見開く。そして、慌てて口を開いた。
「え、父上が帰ってきたのか!それは嬉しいけど…まずいな。王立学園への行き来を徒歩で済ませている事がバレてしまう。父上から馬車で通学するように約束させられたのに」
「馬車通学をしましょうと、私は何度も進言しましたよ?あぁ、私までアルバン様に叱られる……」
「愚痴ってる場合じゃないだろ。今すぐに馬車を用意できないか、ナトリ?」
テレンスの無茶振りにナトリは呆れ顔で答える。
「諦めてください、テレンス様」
「だったら、今日だけ徒歩通学したって事でごまかせないかな?」
テレンスの言葉にナトリは首を振って応じる。
「テレンス様が徒歩通学していることは、邸の皆が知っています。アルバン様に尋ねられれば、皆が『テレンス様は徒歩通学を満喫されています!』と答えるでしょう。主に嘘は付けませんので」
「あー、もう。融通が利かないな。でもまあ、皆に罪はない。父上からの手紙を偽造して『徒歩通学の許可』を得たと伝えたからな」
「その偽造に加担した私は確実にアルバン様に罰せられますね…」
「それについては諦めろ」
テレンスはそう答えながらため息をつく。テレンス自身は当初王立学園の寮生活を受け入れるつもりでいた。だが、いとこのラフィールが花嫁学校に行かずに仕事を始めてしまったので、テレンスは寮生活を選ばずに彼女のそばにいる事を決める。
「心配なんだから…仕方ない……」
悪い虫がつくどころか首輪付きの悪魔と契約して、サクサクと仕事をこなすラフィール。
でも、しっかり者だがどこか弱い部分がラフィールにはあると、テレンスは思っていている。それ故に彼女から離れられずにいた。
「よし、父上に怒られに行くぞ!」
「急ですね」
「遅くても早くても叱責されるなら、早いほうがいいだろ?」
テレンスは足早にセラフィーニ家の門扉を通り、守衛室の前を走り抜けた。そして、アルバンの乗る馬車の横に駆け寄る。
「父上」
テレンスが馬車に声を掛けると、ちょうど扉が開き父親が現れた。アルバンはラフィールをお姫様抱っこしていた。
「やあ、テレンス。久しぶりだね」
「父上?え、父上?なぜ、ラフィールを抱っこしているのですか?もしや、ラフィールは怪我をしたのですか!?」
「落ち着け、テレンス」
アルバンの言葉にハッとしたテレンスは、ケーキボックスを従者のナトリに手渡すと身を整えた。そして、テレンスは父親に一礼して言葉を発する。
「アルバン父上、おかえりなさい」
「ただいま、テレンス」
アルバンは息子の言葉に鷹揚に頷くと、邸に共に入るようにテレンスを促した。テレンスは頷き返して、父親と共に邸の中に入っていく。
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