義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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水鏡に映る姿10

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◆◆◆◆◆

ルチアと共に家を出ると、青空はなく曇り空から雨が降っていた。草原は雨に濡れて土の匂いがした。

『急ごう、ライ!』

「そうだね。僕はあっちからきたから・・いや、こっちから来たっけ?」

『嘘だろ?今、迷子とかいうなよ?』
「ま、迷子です」

僕の言葉にルチアががっくりと肩を落とした。その肩に雨が降りしきる。僕は思いきってルチアの腕を取った。

『なんだ?』

「大丈夫。箱庭の家にたどり着いたのも、偶然だったから。僕は運がいいんだよ!」

『そこは偶然ではなく必然と言うべきだろ、ライ!不安しか感じないぞ』

「と、とにかく進まないと。箱庭が壊れる前に。ルチアが花びらになってっ・・」

僕はいいかけた言葉を無理やり飲み込んだ。でも、ルチアは少し笑って僕の言葉の続きを口にした。

『箱庭が崩壊するとき、僕の体は粉々に砕ける。そして、花びらとなって空を舞うんだ。綺麗な最期だね・・残酷なくらい』

「ルチア」

『だけど、ライまで巻き込むわけにはいかない。君は僕の『運命の番』だ。僕が守らないで誰がまもる!ライを守るのは、アルフレート兄上でも父上でもない。ルチア = ガーディナー、この僕だ!』

僕は涙ぐんでいた。

「ルチアに逢えて良かった」
『僕も逢えて良かった。さあ、ライ』
「うん!」

僕は降りしきる雨雲に向かって叫んでいた。力一杯叫んだ。

「水鏡、僕の声に応えて!僕はルチアと一緒に元の世界に帰る。道を開け、水鏡!」

突然稲妻が走り、激しい光と爆音が炸裂した。同時にメキメキと木が軋む音がして、僕とルチアは同時に背後を振り返った。

「箱庭の家が燃えてる」
『落雷か。まずいな、早くしないと』

僕とルチアは手を繋いで、雨に濡れた草原を走り出していた。

「水鏡、僕の声に応じて!」
『ライを返すから、道を開け!』

二人で必死に叫びながら走った。何度も転びそうになりながら、互いに支え合って走り続ける。そして、たどり着いた。地面が割れて水が噴出している。その周辺は霧が立ちこめていた。

僕たちは同時に声をあげていた。

『霧だ!』
「水鏡が応じた!」
『ライ、見つけたな!』
「一緒に行こう、ルチア!」
『奇跡が起こると思うか?』
「これは必然だよ、ライ。一緒行こう!」

僕の言葉にルチアは嬉しそうに微笑んだ。その笑みを見て確信した。ルチアこそが、僕の『運命の番』。情交を交わすことはない。だけど、魂が交わっている。

僕とルチアは手をぎゅっと握りなおして、水鏡が作り出した霧の世界に向かった。滑るようにして、草原を駆ける。目の前に深い霧が迫っていた。

「とびこむよ、ルチア!」
『ああ、ライ!』

僕は興奮したまま霧のなかに飛び込んだ。そして、気がつく。握りしめていたルチアの手がない。僕は慌てて踵を返す。霧から抜け出ると、地面に座り込んだルチアがいた。

「ルチア、どうしたの?」
『霧が僕を拒んだ。悪いな、ライ』
「何を、何を言ってるの、ルチア?」
『霧に手を突っ込んだ途端に凍りついた』
「!?」

僕はルチアの動かぬ左手を見て声をあげそうになった。そして、凍った左手に僕は考えなしに触れてしまった。

「あっ、ああっ!」
『大丈夫だ、ライ。痛みはない』

ルチアの左手が粉々に砕けて、小さな白い花弁に変化した。降りしきる雨に逆行して、花びらが空に飛んでいく。

『お別れだな、ライ。これは必然だ』
「嫌だ、ルチア!」

僕は座り込むルチアに抱きついていた。


◆◆◆◆◆




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