義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
110 / 119

水鏡に映る姿11

しおりを挟む
◆◆◆◆◆

「ルチア、返事をしてくれ!ルチア!私の元に帰ってきてくれ、ルチア!」

「ケルスティン、一度霧から出ろ!お前の姿も外からは見えない!」

『王の書庫』の半分は、水鏡が発した濃い霧で覆われていた。ケルスティンはルチアが霧に覆われた直後に息子の後を追った。クリストフェルも学友の後を追おうとして、ギリギリで踏みとどまった。

「くそ、俺は国王だ!危険に身を晒すことは、許されない!」

クリストフェルはぎりぎりと唇を噛みしめて、自身の無力を呪った。暴君となるかも知れぬこの身だが、王国の為に捨て身にはなれない。『ゲームの駒』として生涯を捧げると誓った時から。

「ケルスティン!俺の元にもどれ!!」

霧の中で必死に息子を探すケルスティンの自由が、クリストフェルには羨ましかった。

「冷静になれ、ケルスティン!」

彼は怒りをぶつけるように、濃い霧に向かって威圧を放っていた。威圧が霧の一部を吹き飛ばした。薄まった霧の隙間から学友の姿が見えた。

「ケルスティン!」

クリストフェルは再び威圧を放って霧を蹴散らすと、露の中からケルスティンが飛び出してきた。ケルスティンは傷だらけの姿で、呆然とした眼差しをクリストフェルに向けついた。

「うっ、まて・・ケルスティン。威圧を放ったのは霧を蹴散らすためで、お前を傷付ける意図はなかった」

「この傷は霧にやられたものだ。それより、クリストフェル。威圧で霧を蹴散らしたとは本当か?霧の内部で何度も威圧を放ったが、霧は晴れなかったが?」

「・・全身が傷だらけだ、ケルスティン。ルチアは自ら望んで水鏡の霧にのまれた。ならば、自ら帰ることも可能なはずだ。水鏡の霧はルチアのみの通行を許した。お前の全身の傷が霧によるものなら、ケルスティンは水鏡の許可を得られなかったのだろう。とにかく、少し落ち着け」

クリストフェルが全て語ると、ケルスティンは無言で近づいてきた。そして、クリストフェルをおもいっきり殴った。

「ぐっ!」

クリストフェルは反動で床に膝をつきそうになったが耐えた。怒りを覚えてきつい眼差しでケルスティンを見たが、すぐにその気持ちは霧散した。

「私の無関心が息子の命を奪った。もう二度と同じ過ちはしない!クリストフェル、外部からなら、威圧で霧を蹴散らせたと言ったな?ならば、威圧を放ち続けて霧を薄めてくれ。私はもう一度霧の中に入る。お前の助けが必要だ、クリストフェル」

「そんな不安そうな顔をするな。調子が狂う。分かった。お前とライが戻るまで、威圧を放って霧を蹴散らす。必ずライを見つけろ、ケルスティン!」

不意に、ケルスティンが笑みを浮かべた。その笑みに何度絆された事か・・そんな事を考えていたクリストフェルに、ケルスティンが偉そうに命じる。

「必ず、ルチアと共に戻る」
「分かった」

「私とルチアが霧を抜けたら、クリストフェルは水鏡を破壊してくれ」

「は?」
「破壊しろ」

「いや、あれは国の宝で、代々受け継がれてきたものだ。そう簡単に破壊できるわけがないだろ!」

「ルチアと私と水鏡。大切なものを選べ」

「くそ!お前とライを選ぶ。早く行け」
「感謝する」

ケルスティンが踵を返して濃い霧に突っ込んでいく。クリストフェルは威圧を放ちながら学友の背中を見送った。


◆◆◆◆◆






しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。 しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。 ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。 しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。 ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。 しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!? 弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

処理中です...