義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)

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喪失3

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◆◆◆◆◆

僕は父上に必死にいい募る。

「父上がルチアを死なせた訳ではありません。だから、自分を責めないで、父上!」

「しかし・・」

「父上、霧の先に広がる世界は空想の世界なのです。僕たちはそこを『箱庭』と呼んでいました。そこに存在する藤原雷は、実体を持ちません。意思はあっても実体はないのです。だから、父上の胸の中で消えたルチアも実体はなくて・・」

父上が僕の背を撫でてそっと微笑んだ。

「心配しなくても大丈夫だ、ルチア。それより、顔色が悪い。邸に戻り休んだ方がいい。体調が良くなったら、いくらでも話を聞く」

「父上、もう少しだけ」
「ルチア」

僕は右手の手のひらをゆっくりと開いた。そこには、ルチアの欠片である白い花びらが三枚あった。

「これだけしか掴めませんでした、父上」
「これは?」
「ルチアの欠片です」
「ルチアの欠片・・」

「ルチアは父上の腕の中で逝きたいと望みました。箱庭の崩壊は藤原雷の肉体の限界を意味していました。ルチアは今回の箱庭の崩壊が、病弱な藤原雷の死に直結すると分かっていたみたいです。だから、父上の胸に抱かれ死にたいと望んだのです」

「私に抱かれて死にたいと・・ルチアはそう望んでくれたのか」

「この白い花びらは、ルチアが父上を愛した証です。父上、ルチアの気持ちを受け取ってくださいますか?」

「勿論だ。二枚は君が持ち一枚は私が持とう。それでいいかい、ルチア?」

「僕はルチアから沢山愛情を注いで貰いました。だから、全部父上が・・」

「いや、私は・・ライにも持っていて貰いたい。ルチアの欠片を。だが、もしもルチアの想いがライの心を縛り付けるなら・・強制はしない。私が三枚とも貰おう」

「いえ!本当は欲しかったのです!あの、でも、しばらくは父上が三枚とも持っていていただけますか?失くした大変だから」

「そうだね。では、今は三枚とも預かろう。ルチアが・・ライが失わないように、懐中時計に細工して花びらを納めてもいいかもしれないね」

僕は頷いて父上に花びらを渡した。ルチアの欠片を渡して安堵したのか、急に涙が溢れてきた。

「・・父上」
「ルチア、やはり休むべきだ」

「さっき、霧の中で藤原雷の最期を見ました。雷の体は病に負けてしまいました。きっと、ルチアの魂は宿る肉体を喪って、異世界の空に昇華したと思います」

「ルチアの魂は死んだ。異世界にも、もう存在しない。そういうことかな?」

「僕の想像です。でも、たぶん・・」
「そうか」

「僕の話・・荒唐無稽でしょ?でも、本当の話なんです、父上。嘘じゃなくて、ルチアが本当に僕の『運命の番』だったんです。信じてくれますか、父上?」

「ライはルチアの『運命の番』だ。それを疑う事はない。だが、どうも・・君をライと呼ぶのはしっくりこない。やはり、ルチアと呼んでよいだろうか?」

「勿論です、父上」
「お帰り、ルチア」

父上はルチアの欠片である花びらを手のひらに納めて、僕を強く抱き締めてくれた。


◆◆◆◆◆

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