言葉狩り

月歌(ツキウタ)

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言葉狩り

言葉狩り

「この単語、取り下げていただけますか?」

淡々とした声が、会議室の空気をさらに冷やす。
白手袋をはめた係官が、原稿の一行を指していた。赤線が引かれている。

“自由になりたかった”

その一文が、引っかかったらしい。

「“自由”は、今月から使用制限対象になっています」

片瀬悠は、一瞬だけ目を閉じた。睫毛がわずかに震え、紙の上に視線を落とす。

――三度目だった。

“希望”が最初で、“祈り”が次。
そして今日、“自由”も奪われた。

「読者の不快感を誘発する表現です。過去にトラウマのある方、あるいは社会的不平等を想起する方もおられると……」

その後に続く説明は、遠い水音のように聞こえていた。

「じゃあ、何なら書ける」

思わずそう漏らすと、係官は少しだけ困った顔をした。

「具体性のない形容詞が安全です。“すてき”、“よい”、“やさしい”など。
物語としては“日常的で中立的な感動”が望まれます」

悠は、笑ってしまいそうになった。
けれどその笑いは喉の奥で詰まり、苦い沈黙に変わった。

数日後、編集部から送られてきた“最新 禁止語一覧”には、新たに“母”、“恋”、“革命”、“孤独”、“戦争”、
そして、“沈黙”の二文字が加えられていた。

その夜、彼は原稿を一枚だけタイプした。

白紙の画面に、ただ一言。

「書くことが、できない」

その原稿は翌朝、システムにより自動削除された。
理由は――“敗北を連想させ、読者に不安を与えるおそれがあるため”。

書くことが、できない。
でも、それでも彼は思い続ける。

言葉を奪われても、
沈黙の奥に、まだ物語はある。
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