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第十話

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◆◆◆◆◆

大介は僕を愛育寮の二階の自室に連れ込むと、憮然とした顔をしていた。 

「大介、顔色悪い。目の下に隈ができてるよ?」
「一睡もしていないからな」
「心配かけたね。ごめんね、大介」

大介はいらいらした顔で、僕から視線をそらせた。落ち着きなく部屋を歩き回る大介は、意を決したように僕を見た。

「部屋で休んでるはずのお前が、無断で外出して・・そのまま、朝帰りだ。しかも、黒のベンツで送られてくるんだから、心配しない方がおかしいだろ?」

「ごめん・・」
「凛、あいつは川原だろ?刑務所仲間の・・」

僕は静かに頷いた。大介が顔を歪めて口を開く。

「どうしてだ、凛?お前はあいつに言い寄られて、嫌がっていたじゃないか?それが・・どうしてあいつと朝帰りなんだよ!」

僕は大介から視線を逸らせた。大森社長を殺した事を、彼に告白するわけにはいかない。彼をこんな問題に巻き込みたくない。大介は僕の大事な幼馴染だから・・。

「大介、僕の体はおかしくなってしまったんだ。大森社長に殴られて・・無理やり犯されてすごく嫌だった。でも、苦痛で辛かったのに・・体の熱が去らなかった。あいつから逃げ帰って、昨日この部屋で休んでいたけど・・体がどうしようもなく火照って堪らなかった」

「凛・・?」

「僕には男の体が必要なんだよ。誰かに抱かれないと、体の火照りが静まらないんだ。どうしようもなく、辛くて・・苦しくて。でも、お前に抱いてくれなんて頼めないだろ?恋人のいる奴に、こんな事頼めないもんな」

大介は大きく目を見開いて僕を見つめる。僕は言葉を続ける。

「だから・・川原に頼った。あいつの目的は僕の体だけで、僕の目的も男の体だけ。俺たちの利害は一致している。僕はこれからも、彼と寝ると思う。ただ、互いに体だけを目的に」

「お前は、馬鹿か!」

大介は怒りに震える手で僕の両肩を掴んだ。

「凛、川原は堅気の人間じゃないだろ?やくざなんだろ?そんな奴と、体が目的だけで付き合うって異常だろ!お前は・・凛はこれからはまともに生きていくって、俺に宣言したばっかりだろ?どうなってるんだよ、お前は!!」

「大介、ごめん」
「・・凛、川原とは手を切れよ。抱いて欲しいなら・・俺が抱く」

僕はびくりと震えて大介を見つめた。

「本気なのか?」

「ああ、本気だ。やくざと関係を持つよりずっと安全だろ?」

僕はゆっくりと首を振った。

「駄目だよ、お前は。駄目だ・・大介」
「どうしてだ?」

「お前と寝たら、体だけの関係では治まらない気がする」

「凛?」

「とにかく、お前は駄目。お前は僕の上司で幼馴染のままでいてよ。僕は川原と寝ても、囲われるつもりはないから。このまま仕事を続けさせて欲しいんだ。お前が僕と一緒の部屋で寝るのが気持ち悪いなら・・どこか近くでアパートを借りる。愛育寮には迷惑かけないから、大介」

「凛、お前は馬鹿だ。おお馬鹿だ!」
「大介!」

僕は大介に抱きしめられていた。彼が深いため息を付く。

「仕事は続けろよ。お前が嫌じゃないなら、今まで通りここの部屋で俺と同居しろ。ただし、もしも愛育寮に危険が及ぶような事があれば、速攻にやめてもらうからな!」

「うん、分かってる・・ありがとう、大介」

「それと、もう一つ条件がある。男と寝た後には俺に治療させろ」

「え??」

僕は驚いて大介を見た。大介が真剣な顔で僕を見つめている。治療って・・どこの治療?

「覚えてるか?中学の時に指の骨が折れてたのに、お前は一週間治療もしないで放っておいただろ。俺が気づいて慌てて病院に連れて行ったけど、危うく指が一生ひん曲がったままになるところだったんだぞ!」

「そういえば、そんなこともあったかな?」

「あったんだよ。熱があっても黙ってるし。お前は、自分の体を蔑ろにしすぎなんだよ。だから、俺が面倒をみるよ」

「でも、治療って?」
「昨日は、川原と寝たのか?」
「うん、まあね」

「だったらズボンを脱いで、四つん這いになれよ。薬を塗ってやるから」

「ちょっと待って。自分で治療ぐらいできる!」

大介が僕を睨みつける。

「それが、できないから心配してるんだろ!」
「でも、でも、なんかそれって変態くさいよ?」

「お前!俺の心配を変態って言葉で片付けるつもりなのか?酷くないか?」

「でも、その・・おかしいよ。やっぱり幼馴染の領域を超えている。たぶん」

「問題ない」
「えー??」

「その条件を飲んだら、今まで通り働かせてやる。だから、治療させろ」

一度言い出すと結構頑固なんだよな、大介は。僕は諦めてズボンを脱ぎ始めて、ちょっと手を止めた。

「なあ、大介。一応、寝室の方に移動してもいいか?この部屋じゃ、突然誰かが入ってきたらやばすぎるだろ?」

大介がようやく現実に引き戻されたのか、さっと顔を赤める。

「確かにそうだな。じゃあ、寝室でしよう」

大介はさっさと寝室に入ってしまった。僕が入る頃には布団が一組敷かれていた。

「布団は必要なのか、大介?」

僕は顔を赤めながらも、ズボンを脱ぎ四つん這いになった。大介が、無遠慮に下着を下ろす。外気に触れた尻がびくりと震えた。

「おい、川原って・・巨根なのか?」

僕は思わず脱力しそうになった。

「だ、大介!」
「わ、悪い。でも、結構切れてるぞ・・尻が。血も滲んでるし。こんなセックスして、内臓とかに傷が付かないのか?」

僕は羞恥心に体が火照ってきた。

「おい、大介。解説はいいから治療してよ!」
「そうだった。」

大森社長に犯されたときに病院でもらった塗り薬が残っていた。大介はそれを取り出した。

「つけるぞ?」

ぐちゅりと冷たい感触が蕾の周辺を撫でる。

「ひぃや・・あっ」
「中も塗るぞ?」
「大介・・もういいよ・・ああ!」

指がぐぶりと音を立てて沈む。僕は堪らず顔を布団に押し付けた。

「やぁ・・大介、もういいから。やめてよ」

しばらく薬を塗り込んでいた指が、静かに蕾から引き抜かれる。

「あっ・・つう!」
「終わり!」

大介にお尻を軽く叩かれて、僕はびくりと撥ねた。僕は慌てて下着を履くとズボンを掴んだ。大介は、手を拭うとそのまま寝室を出て行こうとする。恥ずかしいだろ、これは。

「大介・・」
「仕事ができそうなら後で降りてこいよ。それと、これは治療だからな。変態プレイじゃないからな!」

大介は真っ赤な顔をしながら、部屋を出て行った。どうやら、大介もそうとう恥ずかしい思いをしたようだ。僕はため息を付きながらもズボンを履く。大介・・他人からみたら、かなりの変態行為だと思うよ。

さて・・。

仕事の前にするべき事があった。携帯を取り出すと、僕は厚子に電話を掛けた。厚子はすぐに電話に出た。

「厚子さん。今どこ?」
「竹内さんなのね。今、私ホテルにいるの。あの、浩二はどうなりましたか?」

声が震えているな。

「大阪湾に沈めたよ。君の部屋も綺麗になったけど、あの部屋で寝泊りする気にはなれないだろうね?」

「・・沈んだんだ。大阪湾に浩二がいるんだ」

不安定な声。

「厚子さん。仕事が終わったら、そのホテルに行くよ。構わない?」

「来てくれるの?」

「行くよ。だから、ホテル名と号室教えて。あっちゃんは一人じゃないからね」

「うん・・うん・・」

彼女は泣き出していた。今すぐ駆けつけたいけど、さすがにまた仕事を抜け出すのはまずい。

「待っていてね、厚子さん」
「待ってる。だから、本当に来てね、竹内さん」
「じゃあ」

僕は辛い思いを押しとどめて電話を切った。しばらく電話を見つめていたが、僕は立ち上がっていた。とにかく今は、普段どおりの生活を心がけないと駄目だ。僕は、階下におりると仕事に取り掛かった。


◇◇◇


仕事を終えると僕は、電車に乗って目的地に向かった。近鉄難波駅を降りると、僕は彼女の泊まってるホテルに向かった。扉をノックすると、すぐに厚子は顔を出した。彼女は憔悴した顔をしていた。

「竹内さん・・」
「厚子さん。凛でいいよ。凛って呼んでよ」

僕が彼女の頬をそっと撫でると、厚子は少し俯いて表情を隠した。大粒の涙が彼女の眼から溢れ出す。

「厚子さん、もう大丈夫だから。心配ないよ」
「でも、でも・・凛さん。私は!」

「社長は君を殴り続けたんだろ。きっと酷い言葉も投げかけて、君を縛りつけたんじゃないか?僕にしてきたように」

「浩二は酷い人だった。でも、愛してたの。愛した時があったの」

「そうだね。でも、他人を傷つけ続けた人だよ。君が刺さなくてもいつか誰かに殺されていたよ」

「私は人殺しよ」
「そうだね」

震える彼女を僕はベットの端に座らせた。

「捕まりたくないの」
「うん。分かるよ」
「普通の生活が送りたい」

暴力に怯える事も無く。違法の店で稼いだお金を男に巻き上げられる事も無く。

「できるよ、これから」
「本当に?」
「できるよ」

僕は彼女をそっと抱きしめた。あっちゃんが僕の胸の中で震えていた。

「凛さん、私を裏切らないで」
「裏切らないよ」

彼女はゆっくりと首を振る。そして口を開く。

「確証が欲しいの」
「確証?」

「凛さんが私を裏切らない確証。だって、凛さんには私を庇ったってなんのメリットも無いもの。私を裏切らないなんて信じられないから」

彼女が僕を抱き返す。

「抱いて」
「え?」

「抱いて男女の関係になって。私を安心させて。私には、この体しかあなたに与えられないから」

「駄目だよ、あっちゃん!」

厚子は涙ぐんでいた。震えて僕にしがみ付く体。

「お願い。怖いの、一人は怖いの。抱いてよ、凛さん。何でもするから、私を裏切らないで」

抱いて欲しいの?それで、君は安心できるの

「あっちゃん」

妹と同じ名前の女性を僕は抱けるだろうか?僕に女性が抱けるのかな?僕は厚子をベットに優しく押し倒した。

「あっちゃん、今回だけだよ?抱くのは一回だけ。それでいいね?」

だって、これで何度も彼女を抱いたら、僕はまるで彼女を脅して犯してるみたいで後ろめたいよ。僕は彼女に唇を寄せた。

「あっちゃん」

僕は初めて女性を抱いた。

「あぁあ・・あん・・・・りんさん・・・・」

初めて女性の喘ぎ声を聞いた。柔らかい感触。いい香り。濡れて温かい体内。

「あっちゃん・・」

僕は、厚子の中に精を放出していた。
僕の初めての女性。守りたい。

この人の為に、僕は僕自身の人生を売った。男に抱かれて、喘ぐ道を選んだ。それでも、厚子の前では男でいさせて。

お願いだから。



◆◆◆◆◆




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みんなの感想(4件)

るか
2023.09.23 るか

見つかりました!どうしても読みたかったのでここまで粘っちゃいました笑
ご丁寧にありがとうございます!
これからも応援しております!

月歌(ツキウタ)
2023.09.23 月歌(ツキウタ)

とても嬉しくて励みになります。
拙い小説ですが楽しんでいただけると幸いです(〃ω〃)💕

解除
るか
2023.09.23 るか

何回もすみません、Twitterには行けてるのですがリンクがわからなくて、、、
使い慣れてないものですみませんがなんとか教えてもらうことできますか?。゚(゚´ω`゚)゚。

月歌(ツキウタ)
2023.09.23 月歌(ツキウタ)

こちらこそ、ごめんなさい。
Twitterの固定📌ツイートを開いて頂くと、ツリーの最後に小説家になろうへのリンクが張ってあります。そこから飛んでもらうと作品群あります。男女のAIイラストのツイートが小説家になろうへのリンク🔗です。

よろしくお願いします☺

解除
るか
2023.09.20 るか

探しても見つからないのですがURLとかありますか?

月歌(ツキウタ)
2023.09.20 月歌(ツキウタ)

ごめんなさい💦
アルファポリスから小説家になろうに直接リンクを貼るのは禁止だった様に思うので。

Twitterのアドレスを乗っけておきます。

先の感想をいただき、Twitter内のポストにリンクを貼りました。すぐに見つかるかなと思います。よろしくお願いします☺💕


https://twitter.com/tukiuta33

解除
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