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秘密の花園
第25話 悲しき母の切望 1
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「あにうえ、あにうえ、これがいい」
「いいよ」
「あにうえ、お腹の赤ちゃんも聞いてるのかな?」
「聞いてるよ。だからゆっくり読むね」
「ありがとう、リシャウェル。私も聞かせてもらうわね」
「うん」
昼食後、長椅子にルティシアは座っていた。隣にはマルクスとリシャウェルがいる。
マルクスは金髪の髪に碧眼、リシャウェルは黒髪に同じく碧眼を持っていた。二人とも整った愛らしい顔をしている。リシャウェルが童話の本を持ち、読んでくれるようだ。
ちょこんと隣に座るマルクスの体温が、服越しに伝わってくる。
温かい存在自体がもう可愛らしく、気づけば我が子に想いを馳せていた。
ルティシアはこれまで四人の男児を産んできた。無事に生きて成長していれば、長男は十五歳、次男は十歳、三男は七歳、四男は四歳になっている。
アージェスの話だと、皆、孤児院からすぐに里親に引き取られて元気にしているとのことだ。
想起のたびに、胸が苦しく、辛く悲しくなったが、後悔はしていない。無理に手元において、彼らに何かあったときのことを考えると、心底手離して良かったと納得していた。けれど、こうして子供達に囲まれていると、我が子と過ごすことのできるエミーナが無性に羨ましくなった。何より、マルクスとリシャウェルの髪と瞳の色が、ルティシアが手放した息子達と同じ色をしていたからだ。
無意識に手が伸びて、柔らかな髪に触れ、小さな頭を撫でた。
撫でているうちにマルクスが振り返って、ルティシアにぺたりと抱きついてくる。
懐いてもらえるといっそう愛おしく、小さな背を優しく撫でた。
アルドリス家の今回の恒例行事には、エミーナと使用人の他に、子供達は五人いた。
成人を過ぎた娘が二人と、三人の幼児達だった。
使用人たちと一緒に、大勢で昼食を取った後、エミーナは二人の娘と使用人を連れて、管理の為、敷地内の確認作業に向かった。
男児の中では最年長のロベルトは、料理番を連れて朝から狩りに出ている。なんでも近くで鹿が獲れるらしく、夕食にルティシアに振舞いたいと、張り切っていた。
残る二人の子供達は、昼食を終えるといつの間にかどこかへ行っていた。
エミーナは下の二人がいなくなっても特に気にする様子もなく、「すぐに戻ってくるわよ」と、楽観的に言い残して管理の仕事に行ってしまった。
流石、肝が据わっている。
それにしても活発な子供たちだ。男の子というのはそういうものだろうか。
ルティシアは子供たちのことが心配になりつつも、ファーミアと談話室に移動した。侍女がお茶の用意をしにいく間、しばらく一人でいた。
そこへ二人の子供たちがやってきたのだ。
リシャウェルの音読は幼く拙いが、新鮮で癒されるようだった。
穏やかな時間が過ぎていく。
「読むのが上手ね。とっても聞きやすかったわ。ありがとう」
物語を最後まで読んでくれたリシャウェルにお礼を言うと、無言で椅子から下りた。
どうしたのかと怪訝に思っていると、マルクスがいる反対側に来て、ルティシアの膝に甘えるように頭をつけた。
もう片手で、労わるようにリシャウェルの頭を撫でてやる。
「頑張って読んでくれてありがとう、立派な兄上だわ」
「あらあら、お戻りになったと思ったら、もうお昼寝されているんですか?」
戻ってきたファーミアが声をかけると、リシャウェルが体を起こした。
「バカだな、こんなとこで寝ないよ。僕はもう七歳だぞ」
ルティシアの鼓動がトクンと跳ねる。
私の赤ちゃんと同じ歳。
「そうですか、失礼しました。でも、マルクス様は眠ってらっしゃるようですね。オリオンを呼んでお部屋に運んでもらいましょう」
「やだっ、ルルといる」
やってきたオリオンが抱き上げようとすると、寝ていた思われたマルクスが目を覚まして嫌がる。ルティシアの膝にしがみついて離れない。
「そ、その名前誰から聞いたの?」
アージェスがつけたルティシアの愛称だ。
王宮を離れて一週間が過ぎ、ガーネット城の生活に慣れてきた頃だった。しばらく会っていないアージェスが、急に身近に感じられた。
教えてくれたのはリシャウェルだった。
「ああ、ロベルト兄上だよ。ルティシアって言いにくいって」
「そ、そうね」
「僕もルルって呼んでいい?」
「え、ええ」
「ルルのお部屋へ行こうよ」
マルクスが目を擦りながらルティシアの手を掴む。
「僕も今日はルルのお部屋で寝る」
反対の手をリシャウェルが掴み欠伸をした。
いつの間にか二人の子供の間では、お昼寝をルティシアの部屋で一緒にすることになっているようだ。
「あなた達が良いならどうぞ」
「今日は、ではなく、今日も、ですけどね」
ファーミアが笑って訂正した。
エミーナは管理の仕事が忙しいのか、一つの部屋に長時間いることが少ない。
子供達はそんな母親を気にすることもなく、広い城で思い思いに過ごしているようだった。
もっぱら下のリシャウェルとマルクスは一緒にいることが多く、何かとルティシアの傍にきて一緒に過ごしていた。
ルティシアが使っている寝台は、大人が四人ほど横になれそうなほどの大きさがある。
一人で寝るには広すぎる寝台に、午睡どころか、夜もなぜか子供達がもぐりこんできて、いつの間にか一緒に寝るようになっていた。ルティシアにしても、誰かがいる方が安心で、どちらが子供なのかと内心で苦笑しながら彼らと添い寝した。
「いいよ」
「あにうえ、お腹の赤ちゃんも聞いてるのかな?」
「聞いてるよ。だからゆっくり読むね」
「ありがとう、リシャウェル。私も聞かせてもらうわね」
「うん」
昼食後、長椅子にルティシアは座っていた。隣にはマルクスとリシャウェルがいる。
マルクスは金髪の髪に碧眼、リシャウェルは黒髪に同じく碧眼を持っていた。二人とも整った愛らしい顔をしている。リシャウェルが童話の本を持ち、読んでくれるようだ。
ちょこんと隣に座るマルクスの体温が、服越しに伝わってくる。
温かい存在自体がもう可愛らしく、気づけば我が子に想いを馳せていた。
ルティシアはこれまで四人の男児を産んできた。無事に生きて成長していれば、長男は十五歳、次男は十歳、三男は七歳、四男は四歳になっている。
アージェスの話だと、皆、孤児院からすぐに里親に引き取られて元気にしているとのことだ。
想起のたびに、胸が苦しく、辛く悲しくなったが、後悔はしていない。無理に手元において、彼らに何かあったときのことを考えると、心底手離して良かったと納得していた。けれど、こうして子供達に囲まれていると、我が子と過ごすことのできるエミーナが無性に羨ましくなった。何より、マルクスとリシャウェルの髪と瞳の色が、ルティシアが手放した息子達と同じ色をしていたからだ。
無意識に手が伸びて、柔らかな髪に触れ、小さな頭を撫でた。
撫でているうちにマルクスが振り返って、ルティシアにぺたりと抱きついてくる。
懐いてもらえるといっそう愛おしく、小さな背を優しく撫でた。
アルドリス家の今回の恒例行事には、エミーナと使用人の他に、子供達は五人いた。
成人を過ぎた娘が二人と、三人の幼児達だった。
使用人たちと一緒に、大勢で昼食を取った後、エミーナは二人の娘と使用人を連れて、管理の為、敷地内の確認作業に向かった。
男児の中では最年長のロベルトは、料理番を連れて朝から狩りに出ている。なんでも近くで鹿が獲れるらしく、夕食にルティシアに振舞いたいと、張り切っていた。
残る二人の子供達は、昼食を終えるといつの間にかどこかへ行っていた。
エミーナは下の二人がいなくなっても特に気にする様子もなく、「すぐに戻ってくるわよ」と、楽観的に言い残して管理の仕事に行ってしまった。
流石、肝が据わっている。
それにしても活発な子供たちだ。男の子というのはそういうものだろうか。
ルティシアは子供たちのことが心配になりつつも、ファーミアと談話室に移動した。侍女がお茶の用意をしにいく間、しばらく一人でいた。
そこへ二人の子供たちがやってきたのだ。
リシャウェルの音読は幼く拙いが、新鮮で癒されるようだった。
穏やかな時間が過ぎていく。
「読むのが上手ね。とっても聞きやすかったわ。ありがとう」
物語を最後まで読んでくれたリシャウェルにお礼を言うと、無言で椅子から下りた。
どうしたのかと怪訝に思っていると、マルクスがいる反対側に来て、ルティシアの膝に甘えるように頭をつけた。
もう片手で、労わるようにリシャウェルの頭を撫でてやる。
「頑張って読んでくれてありがとう、立派な兄上だわ」
「あらあら、お戻りになったと思ったら、もうお昼寝されているんですか?」
戻ってきたファーミアが声をかけると、リシャウェルが体を起こした。
「バカだな、こんなとこで寝ないよ。僕はもう七歳だぞ」
ルティシアの鼓動がトクンと跳ねる。
私の赤ちゃんと同じ歳。
「そうですか、失礼しました。でも、マルクス様は眠ってらっしゃるようですね。オリオンを呼んでお部屋に運んでもらいましょう」
「やだっ、ルルといる」
やってきたオリオンが抱き上げようとすると、寝ていた思われたマルクスが目を覚まして嫌がる。ルティシアの膝にしがみついて離れない。
「そ、その名前誰から聞いたの?」
アージェスがつけたルティシアの愛称だ。
王宮を離れて一週間が過ぎ、ガーネット城の生活に慣れてきた頃だった。しばらく会っていないアージェスが、急に身近に感じられた。
教えてくれたのはリシャウェルだった。
「ああ、ロベルト兄上だよ。ルティシアって言いにくいって」
「そ、そうね」
「僕もルルって呼んでいい?」
「え、ええ」
「ルルのお部屋へ行こうよ」
マルクスが目を擦りながらルティシアの手を掴む。
「僕も今日はルルのお部屋で寝る」
反対の手をリシャウェルが掴み欠伸をした。
いつの間にか二人の子供の間では、お昼寝をルティシアの部屋で一緒にすることになっているようだ。
「あなた達が良いならどうぞ」
「今日は、ではなく、今日も、ですけどね」
ファーミアが笑って訂正した。
エミーナは管理の仕事が忙しいのか、一つの部屋に長時間いることが少ない。
子供達はそんな母親を気にすることもなく、広い城で思い思いに過ごしているようだった。
もっぱら下のリシャウェルとマルクスは一緒にいることが多く、何かとルティシアの傍にきて一緒に過ごしていた。
ルティシアが使っている寝台は、大人が四人ほど横になれそうなほどの大きさがある。
一人で寝るには広すぎる寝台に、午睡どころか、夜もなぜか子供達がもぐりこんできて、いつの間にか一緒に寝るようになっていた。ルティシアにしても、誰かがいる方が安心で、どちらが子供なのかと内心で苦笑しながら彼らと添い寝した。
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