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秘密の花園
第26話 悲しき母の切望 2
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懐いてくれる子供達が可愛くて仕方がない。そう思えば思うほど、我が子への想いが強くなっていた。
城内でエミーナに会うたびに、何度も何度も喉元まで出かかったが言えなかった。
そんなある日の夜。
子供達と寝ていると、遠くで馬の嘶きが聞こえた。
起き上がったルティシアは、両脇で眠る三人の子供達を起こさぬように、そっと寝台から下りた。
「ルティシア様」
生み月が近く、部屋にはもう一つ寝台が置かれ、夜にはファーミアも同室にいてくれた。
ファーミアが近づいて、ルティシアを気遣って手を取る。
「ごめんなさい、起こしてしまって。お越しになられたのがセレス様なら、どうしてもお会いしたくて」
「ご一緒します。お子様方はぐっすり眠っていらっしゃいますから大丈夫ですわ」
コクリと頷くと、ファーミアがルティシアにケープを羽織らせ、階下へ下りた。
「お久しぶりにございます、ルティシア様。お健やかなご様子で安心致しました」
「あなたとエミーナのおかげです」
城に来ていたのはやはりセレスだった。愛妻家の彼は、三日おきに、妻に会う為と王から預かっている愛妾の様子を聞きに来ていた。
話したいというルティシアに、セレス夫妻は夫婦の貴重な時間を快く割いてくれた。
「妊婦さんの夜更かしは体に障ります。早速、本題を伺いましょうか」
向き合うと早々に促されたが、いざとなると、ルティシアは迷う。
けれど部屋に戻って寝息を立てる子供達の存在と、温もりを感じると、きっとまた苦しくなる。それが分かっているから、もう言わずにはいられなかった。
「き、気を悪く……さ、されるかもしれませんが」
「そのようなことはありませんので、どうかお気になさらずおっしゃって下さい」
「そうよ、ルティシア。私達はあなたの味方よ。遠慮しないで」
セレスとエミーナに励まされ、思い切って口にする。
「わ、私が以前に生んだ子が、今、どこにいるかご存知ですか?」
「知っていますよ。ですが、それをお知りになってどうなさる気です?」
決して責めるような口調ではないが、後ろめたいルティシアは、寝衣の上から羽織っているケープの裾を掴んで、重くのしかかる罪悪感に耐えた。
「お、親だと……い、今更親だと名乗る気はありません。他人としてで構いませんから……あ、会わせて……ほ、ほんの少しで構いませんからどうか会わせてもらえませんか?」
触れられなくてもいい。
離れたところからでいい。
生きて、元気に過ごしている姿を一目見たかった。
言った。
とうとう言ってしまった。
我が子の幸せだけを願って手放すと決めた日から、どんなに会いたくなっても会わないと、心に固く誓ったはずなのに。
子を想うあまりルティシアは自ら禁を犯そうとしていた。
向かい側の椅子から、ふっと穏やかに笑い合う二人がいた。
すぐ隣では、傍にいてくれるファーミアが、鼻をすすってぐずぐずと泣きだしている。
どうして、彼らがそんな反応をするのかが、ルティシアには分からなかった。
「構いませんよ。では明日、お引き合わせいたします。ファーミア、ルティシア様をお部屋まで頼むぞ」
あっさりと引き受け、しかも今日の明日と驚くほどの速さに、ルティシアはそんな早く会わせてもらえるとは思っていなかった。言い出しておいて、先方の都合も聞かずに、そんな簡単に決めてしまって良いものか。
「あ、あのっ」
「大丈夫よ、ルティシア、任せておいて」
うろたえるルティシアをエミーナが宥める。
「ぐすんっ……承知いたしました、セレス様」
「ファーミア?」
涙声のファーミアを怪訝に呼ぶと、感極まったように泣き出してしまう。
「ルティシア様がやっとそのように、お子様方のことを仰られるようになられまして、ファーミアは嬉しゅうございます」
長年、ファーミアはルティシアの最も近くにいた。
手放した我が子に、時折想いを馳せていたことも気づかれていたのかもしれない。
ルティシアは、今更会いたがることを罪としか思っておらず、侍女や王の友人達の反応に、複雑になる。
「ごめんなさい、ずっと心配させていたのね」
「いいえ、私の事は良いのです。それよりも、きっと、お子様方も、お母上に会えるのをとても楽しみにしてらっしゃいますよ」
ファーミアは人が良いからそう思うだけだ。
子供たちが、喜んで会ってくれるわけがない。
生まれてすぐ人に預けるような母親だ。恨まれて憎まれていても仕方がない。
母親と名乗るつもりもない。今の生活に慣れているであろう子供達の心を、乱すようなことはしたくない。
何も言えず、ルティシアはしばらくファーミアを抱きしめていた。
城内でエミーナに会うたびに、何度も何度も喉元まで出かかったが言えなかった。
そんなある日の夜。
子供達と寝ていると、遠くで馬の嘶きが聞こえた。
起き上がったルティシアは、両脇で眠る三人の子供達を起こさぬように、そっと寝台から下りた。
「ルティシア様」
生み月が近く、部屋にはもう一つ寝台が置かれ、夜にはファーミアも同室にいてくれた。
ファーミアが近づいて、ルティシアを気遣って手を取る。
「ごめんなさい、起こしてしまって。お越しになられたのがセレス様なら、どうしてもお会いしたくて」
「ご一緒します。お子様方はぐっすり眠っていらっしゃいますから大丈夫ですわ」
コクリと頷くと、ファーミアがルティシアにケープを羽織らせ、階下へ下りた。
「お久しぶりにございます、ルティシア様。お健やかなご様子で安心致しました」
「あなたとエミーナのおかげです」
城に来ていたのはやはりセレスだった。愛妻家の彼は、三日おきに、妻に会う為と王から預かっている愛妾の様子を聞きに来ていた。
話したいというルティシアに、セレス夫妻は夫婦の貴重な時間を快く割いてくれた。
「妊婦さんの夜更かしは体に障ります。早速、本題を伺いましょうか」
向き合うと早々に促されたが、いざとなると、ルティシアは迷う。
けれど部屋に戻って寝息を立てる子供達の存在と、温もりを感じると、きっとまた苦しくなる。それが分かっているから、もう言わずにはいられなかった。
「き、気を悪く……さ、されるかもしれませんが」
「そのようなことはありませんので、どうかお気になさらずおっしゃって下さい」
「そうよ、ルティシア。私達はあなたの味方よ。遠慮しないで」
セレスとエミーナに励まされ、思い切って口にする。
「わ、私が以前に生んだ子が、今、どこにいるかご存知ですか?」
「知っていますよ。ですが、それをお知りになってどうなさる気です?」
決して責めるような口調ではないが、後ろめたいルティシアは、寝衣の上から羽織っているケープの裾を掴んで、重くのしかかる罪悪感に耐えた。
「お、親だと……い、今更親だと名乗る気はありません。他人としてで構いませんから……あ、会わせて……ほ、ほんの少しで構いませんからどうか会わせてもらえませんか?」
触れられなくてもいい。
離れたところからでいい。
生きて、元気に過ごしている姿を一目見たかった。
言った。
とうとう言ってしまった。
我が子の幸せだけを願って手放すと決めた日から、どんなに会いたくなっても会わないと、心に固く誓ったはずなのに。
子を想うあまりルティシアは自ら禁を犯そうとしていた。
向かい側の椅子から、ふっと穏やかに笑い合う二人がいた。
すぐ隣では、傍にいてくれるファーミアが、鼻をすすってぐずぐずと泣きだしている。
どうして、彼らがそんな反応をするのかが、ルティシアには分からなかった。
「構いませんよ。では明日、お引き合わせいたします。ファーミア、ルティシア様をお部屋まで頼むぞ」
あっさりと引き受け、しかも今日の明日と驚くほどの速さに、ルティシアはそんな早く会わせてもらえるとは思っていなかった。言い出しておいて、先方の都合も聞かずに、そんな簡単に決めてしまって良いものか。
「あ、あのっ」
「大丈夫よ、ルティシア、任せておいて」
うろたえるルティシアをエミーナが宥める。
「ぐすんっ……承知いたしました、セレス様」
「ファーミア?」
涙声のファーミアを怪訝に呼ぶと、感極まったように泣き出してしまう。
「ルティシア様がやっとそのように、お子様方のことを仰られるようになられまして、ファーミアは嬉しゅうございます」
長年、ファーミアはルティシアの最も近くにいた。
手放した我が子に、時折想いを馳せていたことも気づかれていたのかもしれない。
ルティシアは、今更会いたがることを罪としか思っておらず、侍女や王の友人達の反応に、複雑になる。
「ごめんなさい、ずっと心配させていたのね」
「いいえ、私の事は良いのです。それよりも、きっと、お子様方も、お母上に会えるのをとても楽しみにしてらっしゃいますよ」
ファーミアは人が良いからそう思うだけだ。
子供たちが、喜んで会ってくれるわけがない。
生まれてすぐ人に預けるような母親だ。恨まれて憎まれていても仕方がない。
母親と名乗るつもりもない。今の生活に慣れているであろう子供達の心を、乱すようなことはしたくない。
何も言えず、ルティシアはしばらくファーミアを抱きしめていた。
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