【本編完結】【R18】愛さないで

桃色ぜりー

文字の大きさ
69 / 80
秘密の花園

第26話 悲しき母の切望 2

しおりを挟む
 懐いてくれる子供達が可愛くて仕方がない。そう思えば思うほど、我が子への想いが強くなっていた。
 城内でエミーナに会うたびに、何度も何度も喉元まで出かかったが言えなかった。
 そんなある日の夜。
 子供達と寝ていると、遠くで馬の嘶きが聞こえた。
 起き上がったルティシアは、両脇で眠る三人の子供達を起こさぬように、そっと寝台から下りた。

「ルティシア様」

 生み月が近く、部屋にはもう一つ寝台が置かれ、夜にはファーミアも同室にいてくれた。
 ファーミアが近づいて、ルティシアを気遣って手を取る。

「ごめんなさい、起こしてしまって。お越しになられたのがセレス様なら、どうしてもお会いしたくて」

「ご一緒します。お子様方はぐっすり眠っていらっしゃいますから大丈夫ですわ」

 コクリと頷くと、ファーミアがルティシアにケープを羽織らせ、階下へ下りた。


「お久しぶりにございます、ルティシア様。お健やかなご様子で安心致しました」

「あなたとエミーナのおかげです」

 城に来ていたのはやはりセレスだった。愛妻家の彼は、三日おきに、妻に会う為と王から預かっている愛妾の様子を聞きに来ていた。
 話したいというルティシアに、セレス夫妻は夫婦の貴重な時間を快く割いてくれた。
 
「妊婦さんの夜更かしは体に障ります。早速、本題を伺いましょうか」

 向き合うと早々に促されたが、いざとなると、ルティシアは迷う。
 けれど部屋に戻って寝息を立てる子供達の存在と、温もりを感じると、きっとまた苦しくなる。それが分かっているから、もう言わずにはいられなかった。

「き、気を悪く……さ、されるかもしれませんが」

「そのようなことはありませんので、どうかお気になさらずおっしゃって下さい」
「そうよ、ルティシア。私達はあなたの味方よ。遠慮しないで」

 セレスとエミーナに励まされ、思い切って口にする。

「わ、私が以前に生んだ子が、今、どこにいるかご存知ですか?」

「知っていますよ。ですが、それをお知りになってどうなさる気です?」
 
 決して責めるような口調ではないが、後ろめたいルティシアは、寝衣の上から羽織っているケープの裾を掴んで、重くのしかかる罪悪感に耐えた。
 
「お、親だと……い、今更親だと名乗る気はありません。他人としてで構いませんから……あ、会わせて……ほ、ほんの少しで構いませんからどうか会わせてもらえませんか?」

 触れられなくてもいい。
 離れたところからでいい。
 生きて、元気に過ごしている姿を一目見たかった。

 言った。
 とうとう言ってしまった。
 我が子の幸せだけを願って手放すと決めた日から、どんなに会いたくなっても会わないと、心に固く誓ったはずなのに。
 子を想うあまりルティシアは自ら禁を犯そうとしていた。

 向かい側の椅子から、ふっと穏やかに笑い合う二人がいた。
 すぐ隣では、傍にいてくれるファーミアが、鼻をすすってぐずぐずと泣きだしている。
 どうして、彼らがそんな反応をするのかが、ルティシアには分からなかった。

「構いませんよ。では明日、お引き合わせいたします。ファーミア、ルティシア様をお部屋まで頼むぞ」

 あっさりと引き受け、しかも今日の明日と驚くほどの速さに、ルティシアはそんな早く会わせてもらえるとは思っていなかった。言い出しておいて、先方の都合も聞かずに、そんな簡単に決めてしまって良いものか。

「あ、あのっ」

「大丈夫よ、ルティシア、任せておいて」

 うろたえるルティシアをエミーナが宥める。

「ぐすんっ……承知いたしました、セレス様」

「ファーミア?」

 涙声のファーミアを怪訝に呼ぶと、感極まったように泣き出してしまう。

「ルティシア様がやっとそのように、お子様方のことを仰られるようになられまして、ファーミアは嬉しゅうございます」

 長年、ファーミアはルティシアの最も近くにいた。
 手放した我が子に、時折想いを馳せていたことも気づかれていたのかもしれない。
 ルティシアは、今更会いたがることを罪としか思っておらず、侍女や王の友人達の反応に、複雑になる。

「ごめんなさい、ずっと心配させていたのね」

「いいえ、私の事は良いのです。それよりも、きっと、お子様方も、お母上に会えるのをとても楽しみにしてらっしゃいますよ」

 ファーミアは人が良いからそう思うだけだ。
 子供たちが、喜んで会ってくれるわけがない。
 生まれてすぐ人に預けるような母親だ。恨まれて憎まれていても仕方がない。
 母親と名乗るつもりもない。今の生活に慣れているであろう子供達の心を、乱すようなことはしたくない。
 何も言えず、ルティシアはしばらくファーミアを抱きしめていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...