【本編完結】【R18】愛さないで

桃色ぜりー

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秘密の花園

第27話 悲しき母の切望 3

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 翌朝、朝食後、ルティシアは談話室で寛いでいた。そこへセレスやってきて、廊下には部屋に向かって複数の足音が聞こえてきた。
 子供たちは散り散りになっているであろうと想像していた。当然こちらから会いに行くものと考えていた。セレスはわずかな時間で子供たちを連れてきたのか、再会はあまりにも唐突だった。
 高く響く小さな足音が部屋に近づく。
 鼓動が高鳴り、膝に置いた手でドレスの裾を掴んだ。
 部屋の扉が叩かれエミーナが開いた。

 現れたのは、ロベルトとリシャウェル、マルクスの三人だった。 

「え?」

 先刻まで食事室で会話をしていただけに、ルティシアは息が止まりそうになった。

「リシャウェルです、母上」

「兄のロベルトです」

「マルクスだよ」

 年長のロベルトが名乗るとルティシアに近づき、頬に口づけた。

「……あ、あなた達が?」

「正真正銘、あなたがお生みになられたお子たちです」

 セレスが断言した。
 
「僕、証拠を持ってるよ。はーい」
 
 マルクスがそう言ってなにやら布をルティシアの手に持たせる。

「母上、僕も持ってますよ」
「僕もだよ」

 リシャウェルとロベルトが、布が置かれた手に、同じような大きさの布をそれぞれが乗せてくる。

「うわぁ、やめてよっ。僕のがどれかわからなくなるじゃない」
「裏側を見れば大丈夫だよ。マルクスのは口ばしのところに青い糸が飛び出してるやつだろ。僕のは足のところの糸が浮いてるやつだよ。リシャウェルのは羽のところに大きな結び目ができてる」
「わあ、本当だ」
「へぇ、同じじゃないんだぁ」

 そこには、刺繍された青い鳥が描かれている。

「あ、青い鳥……」

「そうだよ。母上が僕達の幸せをお月様にお願いしてくれたんでしょう?」

「ど、どうして……」

 ルティシアは子供を身篭るたびに、青い鳥を刺繍しては、月明かりの降り注ぐ庭に埋めてきた。

「申し訳ありません、ルティシア様。私が掘り返して、陛下にお渡ししていたのです」

 ファーミアが泣いて謝罪した。

「へ……へい……か……に」

 ファーミアは初めて出会ったときからルティシアを見ても嫌な顔をせず、快く傍にいてくれた。いつだってルティシアの味方でいてくれた。そのファーミアに王には黙っていて欲しいと頼んでいたのだ。土に埋めるルティシアに、ファーミアはせっかく刺繍したのにもったいないと言って、不満そうにしていた。だがまさか、一度埋めたものを密かに掘り返していたとは。
 しかも、それを陛下に渡し、陛下が子供達の手に持たせるとは。

 どうしてそんなことを……。
 ファーミアも、アージェス様も。
 
 ただ、幸せになってもらいたい一心で刺繍した。
 
「ごめんなさい。そんなことしかできなくて、なのに今更母親だなんて……ごめんなさいっ。許してもらおうなんて思っていないの。恨まれてもいいから、どうしても、どうしてもあなた達に会いたくて、会いたくて。ごめんなさい」

「母上……」 
「泣かないで母上」
「ははうえ」 

 俯いて声と手を震わせ、涙を流すルティシアに、三人の息子達がひしと抱きついてくる。

 ああ、こんな母なのに……。

 触れ合う温もりと確かな存在。
 身を引き裂かれるような思いで、何度も何度も、不幸にするからと己に言い聞かせて手放した日が蘇ってくる。
 泣き濡れるルティシアは、申し訳なさで頭を下げられる限り下げた。

「……ごめんなさい。こんな母でごめんなさい」

「母上っ、母上っ」

 母を労わるように三人の子供達が呼ぶ。

「僕達なら大丈夫だよ」

 そう言ってロベルトがルティシアの身体を起こさせると、頬に口づけた。

「仲直りの印だよ。許してあげるから母上も僕のほっぺにキスして」

 ルティシアの手を掴むと、自分の頬に宛てる。
 強引なところが父親に似ていて、ルティシアの頬が思わず緩む。
 促されて、ルティシアはロベルトの頬に口づけた。
 僕も僕もとせがまれて、リシャウェルとマルクスの頬にも口づけた。
 これで許されるとは思っていないけれど、それでも明るく無邪気な子供達に苦しい胸の内が和らいでいく。
 
 それにしても、まさかこんなにも身近にいるとは思いもしなかった。


「孤児院に入れられなかったのですか?」

「親友の子を孤児院になど入れられません。例え、怒りをかい、裏切り者とそしられたとしても、私にはそんな薄情なことはできなかった」

 ルティシアは両手で顔を覆った。
 奇跡だ。こんな奇跡はない。

「ああ、お二人に育ててもらえていたなんて、なんてこの子達は幸せなのかしら。なんと、なんとお礼を言ったらいいのか」

 エミーナが歩み寄ってルティシアを抱きしめる。

「あなたの気持ちは充分伝わっているわよ。私もこの子達をあなたに会わせられる日が来て、どんなに嬉しいか。信じていたのよ。あなたがいつか自分から言い出してくれるのを。でもこれだけは言わせて、この子達の幸せは、本当の親であるあなたの元にいることなのよ。大丈夫。今からでも遅くない。この子達の幸せを願ったあなたはこの子達の立派な母上よ。胸を張って。今度は必ず、この子達があなたを守ってくれるから」

「うん、任せてよ。僕が母上を守ってあげる」
「僕も、僕も」

 ロベルトが言うと、リシャウェルとマルクスも応えた。

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