10 / 12
夢の花は真夜中に花開く。
8.【受け視点】
しおりを挟む
コクリ、と思わず喉が鳴る。
じっと見つめてくる薄紅の瞳に囚われそうになったフィオは、思わず先生の口を両手で塞いでふるふると首を振った。
「……っ、先生が僕を番だと思ってるのは分かりましたけど…っ!」
うろっと視線を彷徨わせて、ソファの背もたれに何となく視点を合わせて言葉を紡いだ。
「でも、あの日先生がデザイナーの人と一緒に寝ていた事は事実ですよね?僕は獣人です。番だけが欲しいと思ってます。でも先生は違う。誰とでも寝れる人なんて、僕は欲しくない」
例え好きだと思っていても。
誰とでも枕を交わすような人を望みたくはない。僕は、僕を見てくれるただ一人だけが欲しいんだ。
続く言葉を飲み込んで、逸した視線もそのままにぐっと奥歯を噛み締めた。
すると、その沈黙を散らすようにクスっと先生が密やかに笑った。
「ねぇ、フィオ。それはヤキモチ?」
「え?」
何を言われたのか分からなくて、思わず視線を先生に向けると、凄く嬉しそうに破顔する美しい顔が視界に飛び込んできた。
「アレは私の友人です。私が貴方に求愛したいのだと相談したら、インテリアデザイナーとしてアドバイスをくれたんです」
「ア……アドバイス?」
「そう。そのアドバイスに沿って、あの日の前日、壁と天井の色を塗り直してたんです。でもアレが塗料を派手に床に溢してしまって、ベッドまで塗料が飛び散ったんですよ。ま、どうせ捨てるベッドだし、夜中まで塗りの作業をして、雑魚寝よりマシって言うことでその汚れたベッドで二人で爆睡してしまったんです」
「…………なんで二人とも服を着ていなかったんですか?」
「塗料まみれの服のまま寝たくはなかったから」
「……………」
「信じられない?」
「…………正直に言えば。」
小さな声でフィオが答えると、先生は喉の奥で笑った。
「フィオもナスカや他の仲間たちと、夏、湖に服も着ずに飛び込んで遊んでますよね?」
「え、だって幼馴染、だし?」
「でよすね。幼馴染で獣人同士。決して番う相手じゃないんでしょうね。でも私は、その姿に凄く嫉妬をしましたよ。それと同じ事では?」
「嫉妬………?」
「ええ。素肌を無防備に晒す貴方にも、それを間近で見る彼らにも。激しく苛立ち、嫉妬していました」
「…………」
「同じように、素肌を晒していてもアレと私がどうにかなる事など、絶対に有り得ない。でも貴方にはそうは見えなかった。誤解を持たせるような場面を作り出したことは私が悪いのですが。お陰で貴方にも嫉妬をしてもらえたのは、嬉しい誤算ですね」
ーーーー本当だろうか?
つい疑いの気持ちが湧き上がる。
ーーーー本当に、先生の言葉を信じていいの?
逡巡する思いは、信じたいという気持ちの裏返し。悩むフィオを黙って見つめていた先生は、徐ろにソファ前のローテーブルに積み上げられた紙束から一枚の姿絵を取り出した。
「はい」
渡されたそれを受け取る。視線を落とすと、そこにはあの日先生とベッドを共にしていた特徴的な色彩を持つ男性とにこやかに微笑む女性、そしてその女性に抱かれた赤子の姿が描かれていた。
「信じてくれますか?」
パクリと口を開けたフィオは、何も言葉を発する事ができなくて再び口を噤む。
「ねぇ………」
キシッとソファが軋む。にじり、と距離を詰めてく先生に圧倒されて、限界まで上半身を反らすと呆気なくバランスを崩してソファに倒れ込んでしまった。
閉じ込めるように顔の両サイドに腕を付いて、先生はうっとりと呟いた。
「私は貴方が欲しいんです。お願い、『うん』と言って?」
貪欲に求めてくるその瞳を躱す術を持たないフィオは、もう逃れられない。
じっと見つめてくる薄紅の瞳に囚われそうになったフィオは、思わず先生の口を両手で塞いでふるふると首を振った。
「……っ、先生が僕を番だと思ってるのは分かりましたけど…っ!」
うろっと視線を彷徨わせて、ソファの背もたれに何となく視点を合わせて言葉を紡いだ。
「でも、あの日先生がデザイナーの人と一緒に寝ていた事は事実ですよね?僕は獣人です。番だけが欲しいと思ってます。でも先生は違う。誰とでも寝れる人なんて、僕は欲しくない」
例え好きだと思っていても。
誰とでも枕を交わすような人を望みたくはない。僕は、僕を見てくれるただ一人だけが欲しいんだ。
続く言葉を飲み込んで、逸した視線もそのままにぐっと奥歯を噛み締めた。
すると、その沈黙を散らすようにクスっと先生が密やかに笑った。
「ねぇ、フィオ。それはヤキモチ?」
「え?」
何を言われたのか分からなくて、思わず視線を先生に向けると、凄く嬉しそうに破顔する美しい顔が視界に飛び込んできた。
「アレは私の友人です。私が貴方に求愛したいのだと相談したら、インテリアデザイナーとしてアドバイスをくれたんです」
「ア……アドバイス?」
「そう。そのアドバイスに沿って、あの日の前日、壁と天井の色を塗り直してたんです。でもアレが塗料を派手に床に溢してしまって、ベッドまで塗料が飛び散ったんですよ。ま、どうせ捨てるベッドだし、夜中まで塗りの作業をして、雑魚寝よりマシって言うことでその汚れたベッドで二人で爆睡してしまったんです」
「…………なんで二人とも服を着ていなかったんですか?」
「塗料まみれの服のまま寝たくはなかったから」
「……………」
「信じられない?」
「…………正直に言えば。」
小さな声でフィオが答えると、先生は喉の奥で笑った。
「フィオもナスカや他の仲間たちと、夏、湖に服も着ずに飛び込んで遊んでますよね?」
「え、だって幼馴染、だし?」
「でよすね。幼馴染で獣人同士。決して番う相手じゃないんでしょうね。でも私は、その姿に凄く嫉妬をしましたよ。それと同じ事では?」
「嫉妬………?」
「ええ。素肌を無防備に晒す貴方にも、それを間近で見る彼らにも。激しく苛立ち、嫉妬していました」
「…………」
「同じように、素肌を晒していてもアレと私がどうにかなる事など、絶対に有り得ない。でも貴方にはそうは見えなかった。誤解を持たせるような場面を作り出したことは私が悪いのですが。お陰で貴方にも嫉妬をしてもらえたのは、嬉しい誤算ですね」
ーーーー本当だろうか?
つい疑いの気持ちが湧き上がる。
ーーーー本当に、先生の言葉を信じていいの?
逡巡する思いは、信じたいという気持ちの裏返し。悩むフィオを黙って見つめていた先生は、徐ろにソファ前のローテーブルに積み上げられた紙束から一枚の姿絵を取り出した。
「はい」
渡されたそれを受け取る。視線を落とすと、そこにはあの日先生とベッドを共にしていた特徴的な色彩を持つ男性とにこやかに微笑む女性、そしてその女性に抱かれた赤子の姿が描かれていた。
「信じてくれますか?」
パクリと口を開けたフィオは、何も言葉を発する事ができなくて再び口を噤む。
「ねぇ………」
キシッとソファが軋む。にじり、と距離を詰めてく先生に圧倒されて、限界まで上半身を反らすと呆気なくバランスを崩してソファに倒れ込んでしまった。
閉じ込めるように顔の両サイドに腕を付いて、先生はうっとりと呟いた。
「私は貴方が欲しいんです。お願い、『うん』と言って?」
貪欲に求めてくるその瞳を躱す術を持たないフィオは、もう逃れられない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
387
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる