1 / 3
その男について
しおりを挟む
何故俺の人生はこうまでになってしまった。
少なくとも15歳のあの日までは裕福とはいかずとも、人として十分幸せに過ごせていたはずだ。そう、あの日を境に全てが変わってしまった……。
彼はアダルトビデオの撮影を終え、スタジオ裏の楽屋のソファーに腰を下ろすと、持っていたセブンスターの箱から煙草を一本取り出し手慣れた様子で火をつけた。
ここで一服をしながら自分の人生について思いふけることがここ最近の彼の日課となっていた。ただ、一つだけ、思い出さないでおこうとしている思い出がある。だか、彼はまた今日もあの日の夜のことを思い浮かべてしまった。
彼の両親が多額の借金を抱えていることを彼自身が知ったのは、両親が蒸発し家に帰ってこなくなった時だった。いや、彼は普段の食事や身につけている貧相な服から薄々察してはいたのだ。
1週間経っても両親は帰ってこなかった。食事もなく、空腹に耐えながらただひたすら座って時間を浪費する日々。その間、彼は、おれは捨てられたのか…と、疑念とよぶにはあまりにも確信的仮説を立てたせいで、不安と絶望が胸中を渦巻いていた。
さらに3日たったある日、インターホンがなった。両親が帰ってきたかもと期待に胸を膨らました彼が玄関のドアをあけると、そこに立っていたのは、見るからにまともな人間ではないとわかる雰囲気を漂わせる、屈強な体つきをした男達だった。その時、彼の疑念は確信に変わった。叫び声を上げる間も無く、彼は車に乗せられ、連れ去られてしまった。
車から降ろされ、最初に目にしたものは、 「 ガチムチカーニバル 」 と書かれた看板が掲げられた4.5階建ての比較的小さなビルだった。
当時、同年代の子供より比較的勘のよかった彼は、自分の置かれている境遇とこれから行われるであろう地獄の諸行について簡単に想像することができた。さらに、自分に拒否権はなく、拒めばこの男達に東京湾にでもに沈められるであろうことも理解してしまった。その日彼は5人の相手をし、新たな人生の始まりを告げた。
こうして今まで30年間、ゲイ専門のアダルトビデオの男優として生活をしていた彼は、今日もいくら残っているかもわからない借金の返済の為に様々な男優と共演し、仕事が終われば一日わずかの日給をもらい家路に着くという不毛極まりない生活を続けていた。
ちなみに、受け専門で仕事をし続けた彼は、攻め専門の男優達からかなりの好評であった。出演したビデオも、40代とは思えないそのルックスと80センチを優に超えるその息子を使うことなく受けに徹するその姿勢が視聴者に受け、飛ぶように売れた。
本人は知らないが、おそらく彼の出演したアダルトビデオの売り上げは合計5億を超えており、ゲイビデオ好きなら知らぬものはいない、と言えるほどの知名度と人気を誇っていた。
そんな彼が最近頭を悩ませていたのが、その自慢の愚息の具合についてだった。何がどうまずいのかというと、熱いのだ。
まるで、発熱剤を下着の中に入れているかのように陰部が熱を発し、彼を苦しめていた。原因はわからない、が、心当たりはあった。彼は30年間射精を一度もしていなかった。と、言うより、できなかったのだ。彼はこれまで何千人と男の相手をしてきた。だが、今まで一度もプレイ中に勃起をしたことがなかった。
何度か彼のその愚息を買われ、女優との共演の依頼もあったのだが、その時ですら勃起をしなかったのだ。なので、受け専門で仕事をしていた、というよりは受けしか仕事が出来なかったのだ。
長年の異常な性交により自分の感性が壊れてしまったのか。彼は性的興奮というものがわからなくなっていたのだ。
しかし、今までは不便を感じなかったのでそのままでよかったものの、生活に支障をきたすなら話は別だ。発熱の原因がそれだとするならばなんとしても射精をしなければならなかった。だが、彼にはその方法がいくら考えても思いつかなかったのだ。
明日病院で診てもらうか…結局思いついた策は至極普通極まりないものだった。
「 そろそろ潮時か…… 」
一人、自分を慰めるかのようにそう呟くと持つ部分が無くなるほど短くなった煙草を灰皿に擦り付けると、おもむろに立ち上がった。
少なくとも15歳のあの日までは裕福とはいかずとも、人として十分幸せに過ごせていたはずだ。そう、あの日を境に全てが変わってしまった……。
彼はアダルトビデオの撮影を終え、スタジオ裏の楽屋のソファーに腰を下ろすと、持っていたセブンスターの箱から煙草を一本取り出し手慣れた様子で火をつけた。
ここで一服をしながら自分の人生について思いふけることがここ最近の彼の日課となっていた。ただ、一つだけ、思い出さないでおこうとしている思い出がある。だか、彼はまた今日もあの日の夜のことを思い浮かべてしまった。
彼の両親が多額の借金を抱えていることを彼自身が知ったのは、両親が蒸発し家に帰ってこなくなった時だった。いや、彼は普段の食事や身につけている貧相な服から薄々察してはいたのだ。
1週間経っても両親は帰ってこなかった。食事もなく、空腹に耐えながらただひたすら座って時間を浪費する日々。その間、彼は、おれは捨てられたのか…と、疑念とよぶにはあまりにも確信的仮説を立てたせいで、不安と絶望が胸中を渦巻いていた。
さらに3日たったある日、インターホンがなった。両親が帰ってきたかもと期待に胸を膨らました彼が玄関のドアをあけると、そこに立っていたのは、見るからにまともな人間ではないとわかる雰囲気を漂わせる、屈強な体つきをした男達だった。その時、彼の疑念は確信に変わった。叫び声を上げる間も無く、彼は車に乗せられ、連れ去られてしまった。
車から降ろされ、最初に目にしたものは、 「 ガチムチカーニバル 」 と書かれた看板が掲げられた4.5階建ての比較的小さなビルだった。
当時、同年代の子供より比較的勘のよかった彼は、自分の置かれている境遇とこれから行われるであろう地獄の諸行について簡単に想像することができた。さらに、自分に拒否権はなく、拒めばこの男達に東京湾にでもに沈められるであろうことも理解してしまった。その日彼は5人の相手をし、新たな人生の始まりを告げた。
こうして今まで30年間、ゲイ専門のアダルトビデオの男優として生活をしていた彼は、今日もいくら残っているかもわからない借金の返済の為に様々な男優と共演し、仕事が終われば一日わずかの日給をもらい家路に着くという不毛極まりない生活を続けていた。
ちなみに、受け専門で仕事をし続けた彼は、攻め専門の男優達からかなりの好評であった。出演したビデオも、40代とは思えないそのルックスと80センチを優に超えるその息子を使うことなく受けに徹するその姿勢が視聴者に受け、飛ぶように売れた。
本人は知らないが、おそらく彼の出演したアダルトビデオの売り上げは合計5億を超えており、ゲイビデオ好きなら知らぬものはいない、と言えるほどの知名度と人気を誇っていた。
そんな彼が最近頭を悩ませていたのが、その自慢の愚息の具合についてだった。何がどうまずいのかというと、熱いのだ。
まるで、発熱剤を下着の中に入れているかのように陰部が熱を発し、彼を苦しめていた。原因はわからない、が、心当たりはあった。彼は30年間射精を一度もしていなかった。と、言うより、できなかったのだ。彼はこれまで何千人と男の相手をしてきた。だが、今まで一度もプレイ中に勃起をしたことがなかった。
何度か彼のその愚息を買われ、女優との共演の依頼もあったのだが、その時ですら勃起をしなかったのだ。なので、受け専門で仕事をしていた、というよりは受けしか仕事が出来なかったのだ。
長年の異常な性交により自分の感性が壊れてしまったのか。彼は性的興奮というものがわからなくなっていたのだ。
しかし、今までは不便を感じなかったのでそのままでよかったものの、生活に支障をきたすなら話は別だ。発熱の原因がそれだとするならばなんとしても射精をしなければならなかった。だが、彼にはその方法がいくら考えても思いつかなかったのだ。
明日病院で診てもらうか…結局思いついた策は至極普通極まりないものだった。
「 そろそろ潮時か…… 」
一人、自分を慰めるかのようにそう呟くと持つ部分が無くなるほど短くなった煙草を灰皿に擦り付けると、おもむろに立ち上がった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる