ぶっかけヒーロースペルマン

zono1589

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その男について

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何故俺の人生はこうまでになってしまった。
少なくとも15歳のあの日までは裕福とはいかずとも、人として十分幸せに過ごせていたはずだ。そう、あの日を境に全てが変わってしまった……。
彼はアダルトビデオの撮影を終え、スタジオ裏の楽屋のソファーに腰を下ろすと、持っていたセブンスターの箱から煙草を一本取り出し手慣れた様子で火をつけた。
ここで一服をしながら自分の人生について思いふけることがここ最近の彼の日課となっていた。ただ、一つだけ、思い出さないでおこうとしている思い出がある。だか、彼はまた今日もあの日の夜のことを思い浮かべてしまった。

彼の両親が多額の借金を抱えていることを彼自身が知ったのは、両親が蒸発し家に帰ってこなくなった時だった。いや、彼は普段の食事や身につけている貧相な服から薄々察してはいたのだ。
1週間経っても両親は帰ってこなかった。食事もなく、空腹に耐えながらただひたすら座って時間を浪費する日々。その間、彼は、おれは捨てられたのか…と、疑念とよぶにはあまりにも確信的仮説を立てたせいで、不安と絶望が胸中を渦巻いていた。
さらに3日たったある日、インターホンがなった。両親が帰ってきたかもと期待に胸を膨らました彼が玄関のドアをあけると、そこに立っていたのは、見るからにまともな人間ではないとわかる雰囲気を漂わせる、屈強な体つきをした男達だった。その時、彼の疑念は確信に変わった。叫び声を上げる間も無く、彼は車に乗せられ、連れ去られてしまった。

車から降ろされ、最初に目にしたものは、 「 ガチムチカーニバル 」 と書かれた看板が掲げられた4.5階建ての比較的小さなビルだった。
当時、同年代の子供より比較的勘のよかった彼は、自分の置かれている境遇とこれから行われるであろう地獄の諸行について簡単に想像することができた。さらに、自分に拒否権はなく、拒めばこの男達に東京湾にでもに沈められるであろうことも理解してしまった。その日彼は5人の相手をし、新たな人生の始まりを告げた。


こうして今まで30年間、ゲイ専門のアダルトビデオの男優として生活をしていた彼は、今日もいくら残っているかもわからない借金の返済の為に様々な男優と共演し、仕事が終われば一日わずかの日給をもらい家路に着くという不毛極まりない生活を続けていた。
ちなみに、受け専門で仕事をし続けた彼は、攻め専門の男優達からかなりの好評であった。出演したビデオも、40代とは思えないそのルックスと80センチを優に超えるその息子を使うことなく受けに徹するその姿勢が視聴者に受け、飛ぶように売れた。
本人は知らないが、おそらく彼の出演したアダルトビデオの売り上げは合計5億を超えており、ゲイビデオ好きなら知らぬものはいない、と言えるほどの知名度と人気を誇っていた。


そんな彼が最近頭を悩ませていたのが、その自慢の愚息の具合についてだった。何がどうまずいのかというと、熱いのだ。
まるで、発熱剤を下着の中に入れているかのように陰部が熱を発し、彼を苦しめていた。原因はわからない、が、心当たりはあった。彼は30年間射精を一度もしていなかった。と、言うより、できなかったのだ。彼はこれまで何千人と男の相手をしてきた。だが、今まで一度もプレイ中に勃起をしたことがなかった。
何度か彼のその愚息を買われ、女優との共演の依頼もあったのだが、その時ですら勃起をしなかったのだ。なので、受け専門で仕事をしていた、というよりは受けしか仕事が出来なかったのだ。
長年の異常な性交により自分の感性が壊れてしまったのか。彼は性的興奮というものがわからなくなっていたのだ。


しかし、今までは不便を感じなかったのでそのままでよかったものの、生活に支障をきたすなら話は別だ。発熱の原因がそれだとするならばなんとしても射精をしなければならなかった。だが、彼にはその方法がいくら考えても思いつかなかったのだ。
明日病院で診てもらうか…結局思いついた策は至極普通極まりないものだった。

 「 そろそろ潮時か…… 」 
一人、自分を慰めるかのようにそう呟くと持つ部分が無くなるほど短くなった煙草を灰皿に擦り付けると、おもむろに立ち上がった。
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