【完結】RPGっぽい異世界に丸腰で!?~嫁のアニメが始まるまでに魔王を倒して帰ります~

後藤権左ェ門

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伝説の装備編

第二十四話「真実はいつもひとつ!とは限らない」

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 そこは何もない空間だった。
 地面も森も、光さえもない。
 しかし、何故か自分自身のことだけは認識できる。

「おーい! メイ、カイ、クヴァス、いないのかー!?」

 俺の声だけが虚しく響く。
 ここには俺しかいないようだ。
 さて、どこに最後の選択肢があるのだろうか。

「よくぞ参った、勇者マサヨシよ」

 突如として、誰もいないはずの空間に声が響く。
 いや、この声は脳内に直接響いているのかもしれない。
 よくわからない、感覚が曖昧だ。

 ふと気付くと知らず知らずの内に、膝をつき、震えているようだ。
 今まで30年以上生きてきて、こんな感情を抱いたことはなかった。
 だが、この感情はこれなんだと、本能的に理解させられる。

 これは……

 "畏怖"

 人知を超えた、人間なんかでは遠く及ばない存在に対する恐怖。

 なぜ声の主の姿が見えないのか。
 なぜ俺が勇者であると知っているのか。
 なぜ畏怖を感じているのか。

 その答えは簡単だ。

 "神" だから。

 ただそれだけ。

「そう怖がるでない。……これでは話も出来んな。恐怖を感じないよう、恐怖の感情ごと取り除いてやろう」

 その感情って戻ってきますか!?
 おぉ、いつものアホな俺が戻ってきた。
 ……誰がアホやねん!

「初めてやってみたが、我ながら上手くいったようだ」

 初めて……俺は今後、恐怖を感じられない体にされてしまったかもしれない……
 ……これでメイを怒らせても大丈夫だと、ポジティブに考えよう。

「勇者マサヨシよ、そなたは何故この世界に召喚されたか知っているか?」
「魔王を倒すためだと聞いています」
「ふむ、そのように聞いているか」

 王とメイに聞いたから、それで合ってるよな?

「あの、魔王を倒したら元の世界に戻れるとも聞いているのですが、それは本当ですか?」
「ふむ……本当とも言えるし、本当でないとも言えるな」

 ……なんじゃそりゃ。

「勇者マサヨシよ、そなたはこの世界の平和のために召喚されたのだ」
「それって魔王を倒すってことじゃ……?」

 さっきから同じことばっかり言ってね?
 神も年を取って偉くなると、同じ話ばかりするようになるのか?
 飲み屋での上司の武勇伝みたいな。

 『10個発注すればいいところを、間違えて10箱発注しちゃったけど、それを全部売り切ったんだ、どうやったと思う?』とかね。
 これは仕事の話だからまだ許せるけど、酷くなると『昔バイクを盗んだ』とか『5人相手に1人で勝った』とかしょうもないことしか言わないやつもいる。
 それ武勇伝じゃなくて、ただの犯罪ですから!! 残念!!

「かっかっかっ! それもそうだな。だが、世界を見て真実を見極めんとすることも、また乙というもの」

 マジでわからん。
 魔王を倒すことだけが、使命ではないということか……?

「そうだな、最後に『最後の選択』を課すとするかな」

 『最後の選択』は神から課されるのか。
 最後の名に相応しいな。

「それでは、『最後の選択』だ。この世では許されない罪を犯した悪いメイドの女と何も罪を犯していない良い犬。どちらか一方しか助けられないとしたら、そなたはどちらを助ける?」

 な、何の話だ……?
 メイドと犬……?
 メイとカイのことか?
 でも罪を犯したメイドって、どういうことだ?

「焦ることはない、この先も悩むがよい。この旅が終わりを迎えるその時まで――」

 "じっくりとな"

 ブゥンッ!

「早く行くわさ!」

 俺はたたらを踏んでいる。
 急な変化にバランスを失い、その場にズザーっと倒れ込む。

「ごっめーん! そんなに強く押したわさ?」
「えっ?」

 あれ? 俺、今まで神と……あれ?
 魔法陣を踏む前と、状況が全く同じで変わっていない。 
 ……もしかして、時間が進んでない……?
 神なら時間を止めるくらい、造作もないということか。

「マサヨシ様、何を鳩が豆を食ったような顔をしてらっしゃるんですか?」
「い、いや…………いやそれはただ鳩が飯食ってるだけだろ!」

 ゴゴゴゴッ!

「あ、何もしてないのに道が出てきたわさ」

 森が左右に割れ、1本の道が出現した。
 俺はそれを、ただ呆然と見ている。

「マサヨシ様、どうかされましたか?」

 メイが許されないような罪を犯した……?
 俺はぶるぶると頭を振り、自らの考えを振り払う。
 神もこの旅が終わるその時まで悩めって言ってたし、今結論を出す必要はないだろう。
 魔王を倒すその時まで、まだ時間はある。

 こうして俺達は最後の選択を突破(?)した。
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