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31.猫耳の男の子

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 まさかあんな効果が出るとはな。
 今度実験してみよう。

 10円玉召喚スキルの強化から一夜明け、俺はウキウキ気分で目が覚めた。
 子供の頃、新しいゲームを買ってもらって、早起きしてでもやりたくなってしまうような、そんなワクワク感に似ているかもしれない。
 もしショボかったとしても、チートスキルの強化なんてロマンしかないだろ。

 それはさておき、今日は何をするかな。
 やっぱり少しお金を稼げたからと言って油断せず、今日も懲りずに薬草採取といきますか。
 今のところ安全に安定して稼げるのがこれだからね。


 ―◇◇◇―


 そういや今まで考えたことなかったけど、俺が採取した薬草はどうなっているのだろうか?

 俺はアズーマ山までの道中、ニミノヤ村の中を歩きながらそんな益体もないことを考える。

 あんなに採っているのに、一度も使ったことがない。

 異世界特有のポーションになっているのか、キズ薬や漢方みたいなやつになっているのか。はたまた、薬草としてそのまま使うタイプか?

 運良くケガや病気をせずにこれまでやってこれたが、薬は一番最初に確認・購入するものだろう。RPGの基本だ。
 今日、薬草採取から戻ったら冒険者ギルドで聞いてみるか。

「中に入れてくれよ!!」

 何だ? 門の方から大声が聞こえる。
 トラブルでもあったか?
 俺はあんまり野次馬根性とかないんだけどなぁ……と言いつつ軽やかな足取りで門へと近付く。

「住民カードも入村料も持っていない者を村の中へ入れることは出来ん」

「中に姉ちゃんがいるはずだから、話せば入村料くらい払ってくれるって!! 何回言えばわかるんだよ!!」

 門番と小学生くらいの男の子が言い争っているようだ。
 言い争っているというよりは、男の子の方が一方的に喚いていて、門番の方はあまり相手にしてなさそうだが。

 あれ? あの子の頭、猫耳がはえてる?
 獣人なんて珍しいな。冒険者ギルド受付のライチさん以外では初めて見た。

 そういやあの子、姉ちゃんがこの村にいるとかなんとか言ってたような……
 まさか……な?

「ダメなものはダメだ。さっさと家に帰るんだな」

「あのー、すみません」

 俺は言い争っている二人に声をかける。
 決して面白そうだから他人のトラブルに首を突っ込んでみたくなったわけではない。そう、決して。

「なん……なんだお前か。もしかして、こいつの知り合いか?」

「いえ、全く知り合いではないのですが、もしかしたら知り合いの弟さんなんじゃないかなぁ、と思わなくもないと言いますか」

 自分で言ってて訳分かんなくなってきた。
 とりあえず男の子の名前から確認してみよう。
 ライチさんの弟だったら、レイシとかマンゴスチンとかランブータンとかいう名前かもしれないし。

「えっと……お名前を教えてもらってもいいかな?」

「お前誰だよ!! お前みたいなショボい人間に教える名前はない!!」

 カッチーン

 困ってるから助けてあげようと思って話しかけたのに……いやちょっと、ほんのちょっとだけ面白そうだから首を突っ込んでるところがあるのは否めないけども……いくらなんでも俺のハートにダイレクトに刺さる言葉を言わなくてもいいじゃないか。

「へー、ふーん、そういう態度とるんだ? 俺、お前の姉ちゃんと知り合いかもしれないんだけどなぁ。でも、こんな失礼な弟がいるような人じゃないし、人違いかもなぁ」

 いや、ライチさんはあくびとかしちゃう人だから、結構失礼か。ホントにライチさんの弟かもしれん。

「お前、姉ちゃんと知り合いなのか!? じゃあ、俺を姉ちゃんのところまで連れてってくれよ!!」

「いや、だからね、本当に君が俺の知り合いの弟かどうか確認したかったから、名前を尋ねたんだけどもね。それを拒否したわけだから、俺にはどうしようもないね」

 なんで俺がこんな失礼なやつの代わりに入村料100円払って、案内までしてやらにゃならんのじゃ。

「……! ず、ずりぃじゃねーか!! あとから姉ちゃんの知り合いだとか、色々条件付けやがって!!」

「いや、相手が誰であろうとも、どんなにショボい相手だろうとも、そんな喧嘩腰じゃうまくいかないよ。それじゃ、俺は忙しいからもう行くね」

「うぐっ…………ぇる……」

「ん? なんだって?」

「俺の名前はベル!! 姉ちゃんの名前はライチ!! これでいいんだろ!?」

 いや、いいんだろって……めっちゃ喧嘩腰じゃねーか。
 まだまだ子供だな。まぁ本当にまだ子供なんだけど。
 仕方ないここは大人の俺が大人の対応ってやつをしてやりますか。
 本当にライチさんの弟っぽいし。

「じゃあライチさんに確認してきてやるから、ベルくんはそこで大人しく待ってるんだぞ」

「中に入れてくれるんじゃないのかよ!! 使えねーなー」

 ピキッ
 いや、抑えろ俺。相手は子供じゃないか。
 無視だ、無視。

 俺は冒険者ギルドに向かって歩きだす。

「おい! 聞いてんのかよー!! 中に入れろよぉぉぉ…………」

 ベルくんの声が段々遠ざかっていく。
 なるべくゆっくり冒険者ギルドに向かおう。
 それくらいの意趣返しはいいよね?


 ―◇◇◇―
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