貧乏子爵家の僕が『聖女様』なんてあり得ない!

寝転 プリン

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6話 僕の両親、ちょっと過保護すぎません?

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 今日一日のことを思い出しながらうとうとしていると、馬車の対面に座っていたノックスが口を開いた。

「私の家系は代々王家に仕えていて、私は幼い頃から殿下の御姿を見てきました。ですが、殿下のあのような柔らかな表情を見たのは初めてです。レオナルド様との出会いが、殿下に良い変化を与えてくださったのですね」

 アルトが毒の訓練を始めたのは五歳だったと聞いたから、ノックスはそれ以降の殿下の姿を見てきたのだろう。ノックスが言っていることが本当なら、アルトは少なくとも十年は表情を殺して生きていたことになる。
 アルトから直接聞いたあの壮絶な過去がよみがえり、僕の胸は苦しくなるほど締め付けられた。

「僕の存在が少しでもアルト様の心の支えになっていたら嬉しいです。彼と僕は今日、友人になったので」

「それは良かった。これからも殿下のことを、よろしくお願いします」

 僕の言葉に、ノックスは優しく微笑んだ。学園の中庭で僕を糾弾した彼とは全くの別人のようだ。アルトが彼を護衛としてつけてくれて、本当に良かった。
 ノックスと他愛ない話をしていると、馬車は僕の家の前に到着して動きを止めた。
 そして、それと同時にバタバタと誰かが走ってくる音が聞こえてくる。

「レオォォォ!!帰りが遅いから心配したのよぉぉ!?」

「いったいこんな時間までどこに行ってたんだぁぁ!?」

 馬車から降りると、足音の主である僕の両親が勢いよく抱きついてきた。
 今まで僕には家の噂のせいで友人もいなかったから、こんなに遅く帰ってきたのは初めてのことだ。事前連絡もなく帰りが遅くなったことで、両親は僕のことを凄く心配していたはず。特に僕の両親は少々過保護なところがあるので、なおさらだろう。

「心配かけてごめんね、父さん母さん。見ての通り僕は元気だから、そろそろ離してくれないかな?ほら、ノックスもびっくりしちゃってるから…」

 護衛として僕のことを背後で見守ってくれていたノックスは、僕の両親の勢いに負けて目をぱちくりさせていた。馬車を降りる前になんとなく予想していたことだったから、ノックスにも伝えておくべきだったかなと反省する。
 両親は僕に怪我が無いかひとしきり確認したあと、ノックスの方へと向き直った。

「息子のことを送り届けてくれてありがとう。
 ――ところで、レオ。その馬車について質問しても良いか?」

 父さんはそう言いながら、ぷるぷると震える指先で馬車のとある部分を指さした。
 そして、そこには王族の紋章がしっかりと刻印されている。

「父さんの目が遂に老眼でおかしくなったのでなければ、それは王家の人間が使う馬車だと思うんだが…。レオは今そこから降りてきた…よな?」

「うん。色々と事情はあるんだけど、僕はさっきまで第二王子のアルト様の邸宅で過ごしてたんだ。だからこの馬車は、アルト様が用意してくださったものだよ」

 僕がそう言った瞬間、領地中に響き渡るような驚愕の声が両親から飛び出した。
 そりゃあそうだ。僕が両親の立場だったら、自分の息子がいきなり王家の人間と関わりを持って帰ってきたとなると、驚きのあまりその場で失神するかもしれない。
 両親が状況を理解できずに固まっている間に、僕はノックスへと帰宅を促した。

「今日は送り届けてくれてありがとうございました。両親への説明は僕だけで大丈夫なので、気を付けてお帰りください」

「承知しました。殿下の学園での護衛は主に私が任されているので、また明日には会えると思います。…私もレオナルド様と会えること、楽しみにしていますね」

 何がノックスの心を動かしたのか分からないが、ノックスはすっかり僕に懐いてくれたらしい。
 こうして僕はノックスと別れ、程なくして正気に戻った両親から質問攻めされることになったのだった。



 僕がある程度の事情を説明し終えたのは、すっかり夜も更けた頃。
 両親はまだ夢なのではと半信半疑だったけど、とりあえずは理解してくれたみたい。
 ようやく解放された僕が湯あみを終えてベッドへと潜り込むと、疲れもあったのかすぐに眠気が僕のことを襲ってきた。
 微睡む意識の中で、唯一の懸念点であるマリア様の顔が思い浮かぶ。フォーセット家にはもう、アルトが送った文書は届いているだろうか?
 両親への説明は無事に済んだけど、マリア様への説明もしなければならないと思うと憂鬱だ。
 だけど、彼女にとっても僕との婚約が解消されるのは良いことかもしれない。あれほど僕のことを嫌っているわけだし、僕の顔を見ずに済むというのは願ったり叶ったりだろう。
 ああ、でも…彼女の両親は僕の家の土地を狙って婚約を申し出てきたのだから、すぐには納得してくれないかもしれないな…。アルトがいったいどんな文書を出したのか、僕も詳しい内容は知らないし。
 そんなことをベッドの中で延々と考えていると、僕の眠気はついに限界に達してしまった。
 夢の世界へと落ちていく最中、明日のことは明日考えれば良いかと、僕は楽観的な考えに切り替えて眠りについたのだった。

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