没落するなら俺んとこへ来い

alunam

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第一章・俺も没落するけど心配するな

4.嫌われている男、悪役の令嬢をプロデュース 前編

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 運命かみに喧嘩を売る嫌われ者あくまの囁き。
そいつを俺が言ってしまう、少し前に溯る。



 結局、いつも通りの乙女ゲームイベントに巻き込まれる俺は……いつだって傍観者だ。やれやれと溜め息をつきながら、時間だけが過ぎていくのを但、只管に待つ。日々、繰り返される寸劇は見飽きた程だが、それ故に違いや変化があると、すぐに勘づいてしまう。

「婚約者が居る方に、無遠慮にも図々しく近付く神経の無さに呆れかえりますわね……それを注意もしない友情の欠片も無い連中にも、それに気付かない本人も問題ですわね……」

 相変わらずなレージョの、全方位に向けてトゲを含んだ物言いが刺さりにいく。言ってる事は至極真っ当な話だが……正論言ってれば世の中上手く回るようだったら、世界はもう少し馬鹿正直に歴史を紡ぐってもんだ。

 特に、恋の病なんて年頃特有の熱病に浮かされた……こっちがむず痒くなる位に真っ直ぐな連中にはな。

「レージョ・アステリオン公爵令嬢。確かに私達は親の決めた婚約者同士だが……」

「そうですよ、アステリオン嬢。勝手に決められた婚約などではなく、真に想い合う二人を邪魔するような真似はお止しなさい。」

「レージョさん。言いたいことは分かるけど、もうちょっと言い方を選んだ方が……」

「そんな……無神経だなんて酷い!」


 いやいやお前等、やってる事も言ってる事も好き放題だな!封建制の下で、上位者である親の決めた事に逆らっといて言うことがそれかよ!まだ、事なかれ主義のセナの言うことの方がマシだわ!ローインに至っては、図星突かれて逆ギレしてる様にしか聞こえない……

 まだ民主主義の考えで育った俺の方が、封建制度ってこんなもんだよなー位にしか思ってなかった俺の方が!お前等よりも、この文化に適応してると実感出来るわ!恋愛至上主義とか、頭ん中にスイーツ(笑)でも詰まってんのかお前等!?って、ここ恋愛ゲームの世界だったわ。恋愛するのが至上目的だもんな……
 恋愛における無理を通せば道理が引っ込む様に出来た世界で、生まれと立場に誇りと責任を持つレージョの貴族らしい意見は、常に劣勢へと変わっていく。

 但でさえ女一人に対して、相手は男三人と女一人。いつしか糾弾していた側が、される側になっていく程度には、口数の違いが口論における不利になるのを否めない。無茶苦茶な意見であっても、道理を引っ込める事が出来る場合なんかは、特にな……更に、無理の中にちょっとした道理のスパイスが含まれれば、それは決定的なトドメになった。

「レージョ・アステリオン、私は王子として常により良い選択をせねばならない。常に頂点に立ち、常に民へと威光を示す、一番上の立場に居なくてはいけない。それは‥…自分の妃となる者であってもだ」

「ッ!?」

「より優れている者同士がよりよい種を残す。それが我々、高貴なる者達に架せられた十字架だ。だから私は、レージョきみではなく、ローインかのじょを選んだ。何故なら私は王族で、彼女は君よりも優秀だからだ」

 その時までは、イジメたイジメてないのくだらない水掛け論をやっていたと思ったら、決別の言葉は唐突に放たれた。
『浮気男の言い訳』に含まれた『王子としての考え』を聞いたレージョが、絶句する程の物言い。圧倒的に有利な上位者の立場から宣言された、下位の者は下位だから‥…お前は劣っているから駄目なんだと断言された言葉。
 安全な立場から、多数に助けられて言い出した言葉で……孤独にも己の尊厳を守ろうと奮闘する者を踏みにじった。これが虐めじゃなければ、何なんだろうな‥…



 だが、『仕方ない』『諦めなくてはいけない』。何故なら、相手は王族。封建制社会の頂点。
ヒエラルキーのトップに立つ者を支えるのが、下に位置する者達の勤めだ。踏みにじられても文句は言えない。言うにはリスクが高すぎる構造をした世界。
 そこでミハエルはトップに居て、レージョはその下の位置にいる。この二人は、この世界に置いて限り無く頂点に近い位置に君臨している血族だ。だが今、この二人だけの世界では、ミハエルが上、レージョが下でしかない。
 そのミハエルから断言されたレージョ。自分よりも下に居たはずの侯爵令嬢ローイン・プリスゲンよりも劣っていると、公衆の面前で断言されたレージョ。
 己が誇りを守るための戦いは、より汚される結果となって幕を閉じた。

 仮にも婚約者だった女に対して、余りにも無慈悲な言葉。それを聞いたレージョが走り去って行くのを、ただ傍観している俺。
 そんなレージョを気にもとめず、選ばれたローインはミハエルと二人だけの世界に酔っている。それを祝福する周囲のお花畑な取り巻き連中を、ただ傍観するだけの俺。
 これがただの、ローインがミハエル・シュナイダーのルートで確定したイベントに入った証だと知っている俺は‥…




『レージョの方が嫁確定キターーーー!』

 って、喜んでたんだ。『おいおい、レージョの涙はどうしたんだ』って?‥…だって、レージョがこの位で泣くような珠かよ!背中に般若のオーラを纏って去っていったのを確認したよ。声なんか掛ける雰囲気でも、追っ掛ける勇気も持てないよ!
 レージョと俺が手を組む事になるのは……この次の日である、学園の休日での出来事となる。
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みんなの感想(1件)

NBakibu
2020.06.09 NBakibu

続きを期待しております。

解除

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