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第33話 アンコウと最終奥義と
しおりを挟む村の人達の不幸な災害は終わった、今は復興作業の真っ最中だ
にいさん達の一団も到着して、出来る限りの物資を支給している
ユウメと護衛の人達が周囲を警戒しているが、付近に盗賊の気配はない。全て片付けたと思っていいだろう
オミのお蔭で息のあった重傷者は一命を取り止め、軽症者はアンリが治療中だ
エルナが炊き出しを配給して、落ち着いた村人達から順に火事によって焼けた家等の撤去作業が開始されている……非情な現実に挫けてる時間はないのだろう、強い人達だ……
立ち直れない人達もいる、その人達を弱いと言う気にはなれない……今も物言わぬ体となった肉親や知人であった人達の傍で涙を流している
俺が今やっている事はその人達の神経を逆撫でする事かもしれないが……木彫りの花を削り出しては二度としゃべる事はなくなった人達に一輪づつ抱かせている
火事や盗賊に荒らされて、花が見当たらない故だ……もう一つの、人が一人入るサイズの箱は既に人数分作り終えた
子供のサイズを作る必要がなかった事と、一桁で済んだのはオミがこの場にいた奇跡だろう……多いか少ないかは俺が判断する事じゃない
その後も比較的無事な家屋の扉の修理や戸棚、簡易家屋の作成等やる事は目白押しであっという間に夜になった
村唯一の宿に溢れだす人がいない程度には復旧出来たので、久しぶりのベッドにありつけた
今は盗賊退治と復興作業支援の礼を兼ねたささやかな酒宴が行われている……
故人を思って思い出を語り合い、涙と笑いを酒の力を借りて吐き出していく村人達。戻らない日々と明日を思って……
オミは酒豪だった、いつの間にか飲み比べが始まっていたが全員返り討ちにしている……
エルナの方も食べ比べが始まっていたが、こちらも無敵の独走状態だ……
あちこちで賑やかな歓声が出ている、バカ騒ぎで辛い事を思い出さない様にしている感じでもある
そんな宴の途中でにいさんとユウメが話しているのが目に入っていたのだが、話の内容が
「……そうだね、ユウメが僕を異性の知り合いではなく、兄さんと見ているのは分かってる。だから兄として忠告させて貰うけど……」
なんてヘタレへの説教がアルコールの力を借りて始まっていたので俺が聞くのはマナー違反だろう……もっと言ってやって!
俺とアンリは食事も終わり、俺は酒を、アンリはジュースを俺の膝の上で飲んでいる
俺の周囲に人はいない、最初の頃は礼に来る人達もいたが皆言い終わったらそそくさと戻っていく……
俺の悪人面の見た目と、盗賊達をほぼ皆殺しにしたのはこの村の全員が知っている。余りお近づきになりたくないのだろう……ぼっち寂しいけど、アンリがいるからぼっちじゃないもん!
そのアンリがうつらうつらと船を漕ぎだし、心なしか体温が上がって温かくなってきている
今日は負傷者の治療に張り切っていたしな、人への恐怖心以上に自分の出来る事を優先してしようとする辺り段々とトラウマの払拭は成功している様だ
後はアヴェスタの謎を解いて、安心させてやればもうアンリが怖がることはない生活になるだろう
明日は葬式・追悼式が終わったら出発だ
お疲れのアンリを早くベッドに連れて行ってやる事にしよう……
部屋はダブルを手配して貰う事になった、本来なら俺とユウメで泊まる事になったであろう事を考えるとやはりまだ未練が残るが仕方ない
なんせまだ復旧の間に合ってない家なき人々もいる、そんな中で恩人だからと俺達は個人部屋をそれぞれ宛がって貰っているのだから
護衛の人達は夜営で交代の見張り番をするので辞退していたが、俺達と商隊の人達の部屋はそれぞれ、宿の中でもランクの高い部屋を手配されている
家では不規則な俺とオミの睡眠事情なので、普段はユウメかエルナと一緒に寝てるアンリだが、俺が寝ると一緒に寝たがる
最初は俺も恥ずかしかったが今では慣れたもんだ、手際よく靴やミスリルローブを脱がせていき下着姿にしてベッドに寝かせる
この世界、パジャマや寝間着は上流階級の着衣らしい。俺も下着とパンツだけで寝ている
今日の戦闘でまた改良したい幾つかを思いつくが、アンリの睡眠の邪魔をしてはいけない
俺も寝ようと、腰のガンベルトを外すと
コンコンとドアをノックする音がした、どうやらユウメの様だ。気配察知は本当に便利である、ガンベルトをそのまま椅子に置きドアを開ける
「ああ、良かった。まだ起きてて……」
やはりそこには武器・防具を外して楽な恰好になっているユウメが立っていた。ほんのり顔が赤いのはユウメも少し酒を飲んでいるからだろう
「どうした?立ち話もなんだから、中に入らないか?」
「はい……そうします///」
二人してベッドに椅子替わりで腰掛ける、アンリがいなければ間違いなくこの場で押し倒していた所だが自重する
勢いで来て、言いたい事が纏まっていないのだろう。まだモジモジとして、迷ってるユウメを焦らせない様に静かに待つ……
「その……今日はどうしても気持ちだけは伝えておかなきゃいけないと思って……今までが恥ずかしくて、逃げてばっかりだったから……」
「まぁそれは、確かに俺が一方的に気持ちを伝えただけだしな……あそこまで逃げられるとも思っていなかったけど、そっちの気持ちの整理がつかなかったんだろ?」
「そんな事はないんだ!私の気持ちなんか……ずっと最初の方から決まっているんだ!……唯、その……振り向かせなきゃいけないと思っていたら、近づいて来てて、間合いが近くなり過ぎてて驚いたと言うか慌てたと言うか///」
剣士らしい独特の表現で気持ちを吐露していくユウメ、進んでいたら不意打ちに遭遇して一旦距離を取りたかったって事だろう
戦争は距離の取り合いである、そして恋愛は戦争だ
その点で俺は先制して優位を取っていた、有能であったと言えるだろう
ただ相手にトドメを刺す非情さに欠けていた、俺は無能である……トドメは刺せる時に刺して置かねばいけない!分かっちゃいるがユウメを大切にしたいと思うのも又事実だ
「私はアンコウさんに勝ちたいと思っているんだ……兄さんには恋愛に勝ち負けなんかないって言われて……自分でも分かっているんだ、憧れが自分の物になる事に嬉しくてはしゃいで……怖がってるだけだって事に……」
夫婦になったので殿から呼び捨てにしてくれと言ったけど、さん付け止まりであるのは俺への幻想がまだ距離感になっているのだろう
正直そんな憧れられるような事をした覚えはないのだが、確かに強さはこの世界でも大事な基準だしな!俺の転生前の世界でも財力や容姿は立派な選定基準だ、こう治安が悪い世の中じゃ強さも大事な要因なのは間違いない
「こんな事じゃオミとエルナに笑われるのも分かってるんです……一番お姉さんなのに、心配ばかりかけちゃって……」
「気にしなくていいんじゃないか?ユウメはユウメだろ……それに……」
「……それに?」
「俺もユウメに憧れてるからな、だから大姉さんには伝えなきゃいけないと思ったんだ。ユウメの大切な人の前で、ユウメの大切な人になりたいっていう誓いをな……大姉さんの強さも、器量の大きさも尊敬できるし」
「私をですか……?」
「おお、何だったら言っていこうか?まず、何度倒れても立ち向かってくる不屈の精神でしょ。次にしっかりと俺等の事見てて、駄目な事はちゃんと駄目だって言ってくれる所だろ。次に……」
「やめて下さい死んでしまいます……恥ずかしくて//////」
「まぁそんな訳だから、今までなし崩しでなぁなぁで済ませてきた事に一気にケジメを付けようとしてんだからしょうがないさ。それ位、こっちで我慢すりゃいい事だからユウメは気にせず距離感を取り戻せばいいさ、焦る事じゃない。話してくれてありがとな!」
「そんな事は!……それよりも……やっぱり我慢してるんですか……?//////」
「そこに食いつくの!?そりゃ!//////」
「……なにをがまんするの……?」
「「!?!?」」
ぬわぁ!?起きとったんかワレェ!?
ごめんね、アンリ!お休みの所騒いじゃって……お父さん勢いでラブコメっちゃってたよ!確か、転生前はいいオッサンだったのにね……仕方ないね
「そそそ、そんな訳だからあ、あ、アンコウさん///!わわわ、私の気持ちは決まってるんだけどもう少しお時間を頂けませんでしょうかというお願いを奉り敬つり願えませんでしょうかと云々//////」
「ででで、ですな///!急いては事を子孫汁と……仕損じると古来より申しますからな!じっくりねっとりしっぽりとお待ちしております所存で御座いましておくれやして彼云//////」
「ユウメちゃんもいっしょにおねんねするの?」
「「ヴェッ!?」」
「わ~い!3にんでねんね♪みんなでねんね♪」
アンリ先生、どうしてその様な発想を思い至られたのでしょうか!?俺の我慢するという決意が死んでしまいます!
とっくに限界突破してるけど踏み止まれてるのはアンリ先生がおられるからなんですよ!!これ以上どうしろって言うんですか!?
……が、駄目っ!!俺もユウメもアンリの手を振りほどけない!圧倒的!圧倒的吸引力!!
ユウメも覚悟を決めたのか服を脱ぎ始めた……この世界にブラジャーなんか存在しない、タンクトップ型の下着姿になったユウメが目の前にいる……あかんて、これはあかんて!
「し……失礼しましゅ//////」
「はやく♪はやく♪」
噛んでるユウメに、容赦ないアンリに、俺……これが……
これが伝説のリア充最終奥義『親子3人川の字になって寝る』で、あるか!!いやいや寝れねーよ!?
「ふたりともおふとんからおちちゃうよ?」
「そ・・・それはね!?//////」
「ああ、アンリが狭くないかなーって//////」
二人ともアンリに手を握られて繋がってはいるが、ベッドの限界まで離れている
大人二人に子供が一人なので其処まで離れられないのだがせめてもの無意味な抵抗を続けている……
「せまくないよ!もっとこっちきて!」
「「……はい//////」」
アンリが俺の腕枕に頭を乗せ、ユウメの顔に触れそうなギリギリの位置に俺の手が置かれる
5歳児の身体を隔てた先には無防備な姿のユウメがいる……誰か、ここは天国なのか地獄なのか教えてくれ……
ニコニコ顔のアンリが幸せそうなので天国なのだろうが、下半身が地獄なんだ……
「えへへ~アンコウちゃんとユウメちゃんのおむねが、いっぱいドキドキしてる~」
俺とユウメに交互に抱きつくアンリが顔を俺達の胸に埋めていく、ちょっとそれ羨まし過ぎませんかね?
何度か動いて満足したのか、再びアンリの身体が温かくなりだす。呼吸が寝息に変わりつつある……
こうなった時のアンリは最高の抱き枕である、適温で程よい抱き心地が眠気を誘う
一緒に寝たふりをするがユウメの顔が近い、多分今まで史上最高に近い
今、目を開けたら俺の理性が死ぬ!ここはアンリの体温を感じて無心になって寝るのみだ!
幸いアンリの体温が上がるにつれ、俺の眠気も上がって来る
良かった……さすがアンリだ、この最終局面をなんとか乗り切れそうだ……このまま意識の全てを手放そう………
……ちゅっと頬に触れる感覚がある……ほっぺたかよ……まぁ、いい……ここは俺が手本を見せてやるべきだろうアンリあったかい
我慢してる所にそれをされたら……戦争しかっ!戦争しかないだろうがっ!アンリあったかい
やはりこう云うのは最初が肝心なのである、男として上手くリードせねば如何のであるアンリあったかい
だから!動け、動け、動け、動け、動いてよ!!今動かなきゃ何にもならないんだ!だから、動いてよォ!!……すやぁ~……
翌朝、猛烈な自己嫌悪と共に何故俺はアンリにこうも弱いのかと自問自答し、哲学を始めるが二人の幸せそうな寝顔を見てるとどうでも良くなったので俺も二度寝した
次こそはアンリが寝た後で、勝負を決めねばならんのだが……ハードル高いなぁ、それ……
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