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しょーじ

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2章

戦友

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 「なあ、アルバート。」

 神殿の前に立つその男は俺の名を呼んだ。容姿も声も、戦友にそっくりだ。ただ違うのは、何故か騎士団の制服を脱ぎ捨て、この俺と対峙しているということ。

 俺があいつを最後に見たのは一年前だったか。あいつが魔人との戦いに敗れ、見るも無惨な姿で戻ってきたあの日を、俺はどうしても忘れることができないでいる。
 ガナディアの騎士にしては珍しく、あいつは肉弾戦に特化していた。当然ながら魔封具の扱いにも精通してはいたが、それに至ってもあいつ本人の破壊力の手助けにしかならなかったようなものだ。だが、それが命取りになった。

 あいつを殺した魔人の能力は、端的に言えば''物理攻撃の完全な無効化''だった。俺はそれを聞いたとき、まさにあいつを殺すためにいたようなものじゃないかと思った。事実、奴らはこちらの戦力の分析などはとうに終わっていて、あの忌々しい魔人があいつと当たるのは必然だった。
 その魔人も - さっき俺が灰にしてやったが。

 正直に言って、あいつがここにいるなんておかしなことだ。俺はあいつが運ばれてきて、骨となり、埋葬されるところまでこの目にしっかりと焼き付けていた。
 だが目の前にいるこの男の声にはどこか懐かしさを感じる。偽者などではないと、そう俺の魂に語りかけてくる。あいつが、生きていたんだと。
 しかし全て俺の望み通りという訳じゃない。この、目の前の男は俺の味方じゃない。その証拠に、魔人共に連れられ、今この瞬間俺と対峙し、剣を抜かんという目をこっちに向けている。あの目はそういう目だ。

 俺はこの戦友と殺し合いをしなきゃならないのか。この剣を抜き、鍔迫り合いを繰り広げなきゃならないのか。そして終いには、あいつの命にこの手でピリオドを打たなきゃならないのか。

 嫌だ。

 俺はあいつを殺したくはない。あいつに殺されたくもない。ガキの頃から一緒で、騎士団のトップに上り詰めた仲だった。
 キサラが死んで、お前が死んで...とうとう俺は後がなくなったと思った。死ぬ気なんてさらさらなかったが、俺はお前らに支えられていたんだとようやく気づいたんだ。
 お前はいったい何を考えているんだ。何を思い、何がお前をそうさせているんだ。答えてくれ、あの3人でお互いを鍛えあった昔のように。

「なあ、デニス。」
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