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2章
希望への絶望
しおりを挟む「よお、」
声が、聞こえる。
「久しぶりだな。」
僕は...いったい何をしているんだろう。
「まさかここでお前に会うことになるとはな。」
そうだ、僕はこの声を知っている。
「湿気た顔しやがって、このまま死ぬ気か?」
僕の魔封具''炎刄''に眠る人格だ。
「...だが安心しろ、お前は死なねえ。」
基本的にイイヤツだとは思う...口は悪いけど。
「お前は今、あのレトロファネスとかいう奴に心臓潰されて死の瀬戸際を彷徨ってる...ムカつくことにな。」
そういえば...ここはどこだろう。
「ここが気になるか?無理もねえな、ここで会うのは初めてだ。」
周りには炎があちらこちらで渦巻いているというのに、不思議と空気は澄んでいて、居心地も悪くない。
「ここは俺の...いや、炎刄の中だ。」
なんとなく見覚えがある。
「お前の精神世界は今や崩壊しちまってる、お前自身が死を受け入れようとしてやがるのさ。」
遠い昔に、この情景を見たような気がする。
「だから、お前の精神をこっちに寄越した。崩壊に巻き込まれたら身体が無事でも心はそうはいかねえからな。」
何百年、何千年も前...そんな記憶がある訳もないのに。
「俺は、自ら進んでこの剣に心を宿した。この話は前にもしたが、その所以までは話していなかったな。」
炎刄、お前の記憶なのか...?
「俺は、愛する女性を殺めた。」
らしくないじゃないか、そんな悲しそうな顔をするなんて。
「厳密に言えば、その女性は自らの命を犠牲に俺の命を救った。」
あそこに見える人影は...。
「俺は絶望した。自分の運命を呪ってやった。だが、それを受け入れる他にできることなんてなかった。」
どうしてあの人は泣いているんだろう。
「俺は願った。この惨劇が2度と繰り返されないよう。」
女の人を...抱えてる。
「そして俺は...炎刄となった。贖罪のつもりでもあった。」
炎刄、ここはまさか...。
「炎刄は王族に代々伝わる魔封具となった。俺の遺言通りに。」
そうだ、マリーは?
「俺は王族の守り神になることで子孫たちを護ろうとした。」
僕は確か...レトロファネスと戦っていたんだ。
「お前らが俺のような思いをする必要はないからな。」
僕は敗けたのか?
「だが、何度やっても結果は同じだった。」
マリーは、マリーは無事なのか?
「俺の孫も、そのまた孫も、そのまた曾孫も...お前の親父もだ。」
ここで僕が敗けたら駄目なんだ、絶対に。
「何度も護ろうとした。何度も戦いから遠ざけようとした。何度も...強くさせないようにした。」
魔獣を従える魔人を倒さないと、もっと被害が広がってしまう。
「だが、変わらなかった。神の血の呪いからは逃げられなかった。」
国を、みんなを護らなきゃ。
「皆戦い、強くなり、そして大切なものを失った。」
...ああ。
「そして皆、その度に炎刄を手放した。そこで初めて戦いから遠退いた。」
炎刄、お前の思いが少しずつ、流れ込んできたよ。
「...今度こそは、お前こそは護ろうと思った。だが、やはり無駄だった。」
...
「お前は死なない。それこそが神の血の呪い。神の血を継ぐ者の運命。」
そうか。
「護るべきものに護られて、生き永らえる。」
お前は僕を認めていなかったんじゃないんだな。
「次に目が覚めた時、お前は絶望するだろう。」
認めてくれていた。
「それでお前がどうするかは...お前次第だ。」
その上で、僕が強くなるのを否定していたんだな。
「...俺は、それ以上お前が悲しむ姿を見たくはない。」
僕を、護るために。
「できれば、もう戦場には来るな。」
だけど、僕がやらなくちゃ。
「こんなこと言わなくたって、お前の先祖たちはそうしたがな。」
炎刄、
「...時間か。」
ありがとう。
「今伝えた全てのことを理解するのは、おそらくお前の意識が戻ってからだ。」
もう一度、力を貸してくれ。
「最後に、言っておく。」
勝たなきゃ。
「済まなかった、トラゴ。」
...
「こっちこそ、ごめん。」
「もう、後には戻れないんだ。」
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