パウー掌編集

さく

文字の大きさ
28 / 149
雑多な未分類掌編共(単発完結シリーズ)

お題「片眼鏡」

しおりを挟む
 時計は午前一時を回っていた。

 流石に、終電が終わるこの時間では、繁華街とはいえ人はまばらだ。
 大体の人間は朝まで飲み屋やカラオケ屋で時間を潰すのだろう。

 自分はというと、自宅まで徒歩の予定だ。
 30分くらい歩けばつくし、面倒になったら途中タクシーを拾ってもいい。
 そう思いながら、駅とは逆方向に歩いていると目の前にあからさまな酔っ払いがふらふらと千鳥足で先行していた。
 あそこまで酔っ払ってたら、流石に駅前まで戻ってタクシーとかつかまえるなりした方が良いんではないか?
 と、考えていると、目の前の男がふと立ち止まり、路地の向こうを睨むようにじっと見つめている。

 何かあるのだろうか?

 ふっと、彼の足が路地の方を向く。
 興味をそそられた私は、その場所に行き、彼の見ていたであろう、路地の向こう側を見る。
 そこには先ほどの酔っ払いが立ち止まっていた。
 彼越しに白いテーブルが見えるので、露天か占いだろうか?
 しかし、なぜ、こんな深夜の人気の無い処で……。と、不審に思っていたら、その男が急に振り向いた。
 その右目にはアンティークな片眼鏡が装着されている。
 彼は俺を見るなり、眉間にしわをよせ、詐欺だの何だのと怒鳴り声を上げた。
 その片眼鏡をテーブルの上に置くと、私を睨みつけながら、横をすり抜け、去って行く。

 普段なら、そんなトラブルがあるような処には行く気は起きないが、その先にいる人物があからさまにうさんくさい「魔女」のような老婆であり、私はそちらの方に興味がそそられてしまった。

「婆さん、こんな時間に何やってるんだ?」
「何ってお前、商売だよ」
「さっきの男が詐欺とか怒鳴ってたけど、変なモノ売ろうとしてたんじゃないのか?」
「とんでもない。あいつには価値が解らなかったのさ」

 そう言って老婆は肩をすくめた。

「ふむ。さっきの男が詐欺っていってたのはその眼鏡かい?」
「おや、あんた意外と見る目があるね。そうさ。こいつは魔法の眼鏡でな」

 老婆はさももったいぶった言い方をして鷹揚に両手を広げる。
 妙に様になっているポーズに感心しながら、老婆の声に耳を傾ける。

「これはな。モノが透けて見える、魔法の眼鏡さ」

 私は心底がっかりした。
 あの男はきっと相当酔っ払っていて、その言葉を真に受けて、装着し、俺を見た瞬間に詐欺だと気づいたのだろう。
 馬鹿な話だ。

「婆さん、あのな……」
「まぁまぁ、お前さんの言いたいことはわかる。まぁ、こっちに来なさい」

 私の声を遮って、老婆は私を手招きする。

「いいか、この布をおまえさんの手にかぶせる。で、その眼鏡で、布を見てくれ」

 ここまで来たら少し付き合ってやっても良いか、と左手に被された布をその眼鏡をつかってみた。

「まじかよ……」

 意図せず出たその声に老婆はにんまりと笑う。
 布の下の手が見える。
 グーパーすると、ちゃんと眼鏡越しに見える手も連動してグーパーする。
 どうなってんだこれ。

「すげえな、婆さん」

 と、老婆をみると、老婆の服は着けたままだ。

「ん? 婆さんは普通に服着て見えるぞ?」
「かっかっか、お前さん、わしの裸がみたいのかぇ? 相当まにあっく・・・・・、という奴じゃな?」
「いや、そんな趣味はないが……」
「まぁ、なんだ。わしも知らん男に裸なんぞ見せたくないのでな、その眼鏡を遮断する布をつけておる」
「そんなのもあんのかよ」
「当然じゃ。打ち破るモノがなければ世にだせんだろうが」

 ずいぶんとごもっともなことを言う老婆である。

「どうじゃ? 気にいったら買わんか? 五万でいいぞ?」

 ずいぶん安いな。

 詐欺にしてはずいぶん手が込んでいる。
 手品であると考えるのであれば、五万はちょっと高いがおひねりの一つでもあげたいくらいの見事さだ。
 そこでふと、気になる事があった。

「なぁ、婆さん、さっきの布は売ってくれないのか?」
「ほ? 遮断するやつかえ? あれは高いぞい」
「いや、そっちじゃない。最初手にかけてくれた、布のほうだ」

 その言葉を発した瞬間、老婆の雰囲気が急に変化した。

「ほう。おぬし、なかなか面白い事をいうのう」
「まぁな。試したいことがあるんだ」

 その言葉に、老婆はやや感心した顔をしながら先ほどの布を取り出し、テーブルの上にのせる。

「どう試すのか興味が出てきたのでな、目の前で使ってみなされ」

 俺はまくっていた長袖を伸ばし、その上に、布をかぶせる。
 そして、眼鏡を覗く。
 つぎに、片膝をあげて布をかぶせて眼鏡を覗く。

「驚いたな、想像と違う」
「どう違うのかい?」
「てっきり、この布だけを透き通すのかと思ったんだが、まさか腕も足も見えるとはな」

 その言葉にニヤリと老婆が微笑む。

「お前さんは中々やるね」
「で、布の値段がべらぼうにたかいのだろう?」

 老婆は満足そうに頷く。

「そうじゃな。この品物は所詮悪用しかできんからな」

 いや、そんなこといって、私がこのままとんずらしたらどうするつもりなんだろうか。
 そう思うもなんか、抜けている目の前の老婆の思惑がさっぱり解らなかった。
 ふと、手に持った布を目の前に持ってくる。

「ふあ!? やめろ! みるな!!」

 ん? あれ?
 布越しに見えたのは、老婆ではなく、年端もいかない女の子であった。

「なんだ?? あ。そういうことか!?」

 私はおそらくそうであろう事実を思い付いて、その眼鏡と布をテーブルの上に置く。
 老婆は顔を真っ赤にしながらこちらを睨むと、そそくさと眼鏡と布を回収する。

「それどこから持ってきたのかはわからないけど、あんまり『おイタ』をすると、魔女の先生に怒られちゃうんじゃないか?」

 私が意地悪く言うと、ぼふん。という音と煙とともに、目の前の老婆とテーブルがかき消えていた。
 しかし、耳には

「この、えっち! 変態! ロリコン!」

 という罵声だけを残して。

 本当に魔女だったのかよ。
 あの小さな魔女に悪いことしたなぁ、と私はぽりぽりと頭をかいていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...