パウー掌編集

さく

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雑多な未分類掌編共(単発完結シリーズ)

お題「獣耳」

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 昔々、遠い遠いどこかの国。
 象のような王様がいると言われた国。

 その国の王様はたいそう体が大きかった。
 いつもは温厚だが、怒らせると怖い。
 象に例えられる理由はいくつもありました。

 ある日、床屋のジョンが宰相に呼び出されました。

「君は街一番の床屋で、また、おしゃべり好きと聞いている」
「はっ」
「国王の髪の毛をそなたに切って欲しい」
「そんな恐れ多い。私めでよろしいのでしょうか?」

 その問いかけに、宰相は無言で頷きます。

「そなたでなければならぬ。また、国王は気難しい性格故、ゆめゆめ失礼なきよう」
「ははっ」

 宰相はジョンを王様の元へと案内します。
 ジョンはこの上ない名誉と感じましたが、少しだけ不安も感じました。

(昔話で読んだことがあるな。王様の耳はロバの耳だっけ。まさか、ロバの耳なんてことはないよね)

 でも、ロバの耳なんて可愛らしいではないか。そう思って、宰相の後をついていきました。
 そこには大きくて豪華な扉があり、それを開けると、奥に王様らしき衣装を身にまとった男が座っておりました。

「王様。ジョンを連れて参りました」
「うむ。大義であっぱうっ」

 ぱう?
 よく見ると、王様の耳はとてもとても大きく、まるで象の様でした。

(王様の耳は象の耳!)

 想像していた以上の耳の大きさにジョンはびっくりしました。
 よく見れば、ぶらりと垂れ下がる鼻も普通の人に比べると大きいのです。

「苦しゅうないぱう」

 王様の語尾が「ぱう」というのはやはり象の鳴き声なのだろうかと思うと、ジョンは思わず吹き出しそうになるのをぐっとこらえます。

「そなたに、ちん……ちんの髪を切って欲しいぱう」
「ぼふっ」

 その長い鼻をぶらりとさせて、王様が言うと、ジョンは我慢出来ずに吹き出してしまいます。

「こほん」

 宰相が一つ咳払いをしました。

「そなた、ちんをみていま笑ったぱう?」
「めっそうもございません」

 ジョンは大慌てでした。

「では今の音はなにか」
「今のはため息でございます。王様のりりしいお姿をみて、ため息をついたのです」

 しどろもどろに苦しい言い訳をするジョンをみて、宰相は肩をふるわせています。
 ジョンはとてもまずい事になったと思いました。

「早速ですが、御髪を整えさせて頂きます」

 ジョンは商売道具を取り出し王様の髪の毛を整えていきます。

 ジョンは最初から最後まで無言でした。
 しゃべったら、きっとまた吹き出してしまう。
 そう思ったからです。

 仕事を終えると、王様は仕上がりを見て

「大義であっぱう」

 と満足げに一言言いました。

 ジョンは一礼して、部屋を出ると、大きく息を吐き出しました。

「そなたはおしゃべり好きと聞いたのだが、無言でしたな」
「そんな、私めのような平民が王様に声をかけるなど」

 ジョンはそういうのが精一杯でした。

「さようか。これは褒美である」

 そういってジョンに金貨一枚を渡しました。

 * * *

「笑わなかったではないか」

 大きな耳とぶらりとした象の鼻を取り外し、王様は不満そうに宰相にいいました。

「人選をあやまりました。ジョンは真面目すぎました」
「しかし、あの言い訳は流石に無理があったと思うが」
「申し訳ありません、私のほうが笑いをこらえるのに必死でございました」
「これでは、ハロウィンの仮装で子供達に喜んで貰えないのう。別の仮装を考えるかの」

 そういって、自分の顎を撫でました。
 象の様な王様のいる国。
 王様の性格や見た目だったのか。
 この時の戯れのせいだったのか。

 象と呼ばれていた本当の理由は誰も知りません。
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