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第一章 『隠された出会い』

CHAPTER.7 『真理は全体である』

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誉が生姜焼きを食べていると、プロ子は突然、思い出したように言った。

「惣一、だっけ? ……ちょっと、マズいかもね」

誉は少し顔を顰めた。

「マズいとか飯食ってる時に言うな。それに何が?」
「だって今日の誉の行動見られたんでしょ?明日絶対学校で聞かれるよ?」
「まぁ確かに?まぁバレそうやったらダッシュで逃げるわ」
「隠し通してよ。危険に巻き込みたくないでしょ?」

呑気そうに生姜焼きを頬張る誉にプロ子は釘を刺す。

「それは厳しいかもなぁ、アイツ俺より頭良いし嘘ついてもバレる時とバレん時、半々って感じやから」

惣一は俺みたいに相手を観察して嘘の動作を見つけるっていうよりも、徹底的に矛盾を探し出して嘘を見抜くからキツイかも、と誉は付け足した。

「それに、アイツはそういうタイプじゃないで」
「そういうタイプって?」
「危険に巻き込まれた時に、人を恨んだりするようなタイプ。どっちかっていうと、俺とおんなじでゲーム感覚で参加しそうやけどなぁ」

分かってない、といった風にプロ子は首を横に振った。

「それでも、気軽に話していいことじゃないの」

誉は、ついさっき帰り道にプロ子が言っていたことを思い出して、ここまで惣一に教えることを反対する理由に気付いた。

「未来への影響か」
「そ、バタフライエフェクト。聞いたことくらいあるでしょ。風が吹けば桶屋が儲かるとか」

バタフライエフェクト、ほんの少しの行動が、想像も出来ないぐらい大きくなる。特に、時間が干渉するとその度合いは大きくなるものだ。

「でも、そこまで気にする?たった一人やで?」

そう言うと、彼女はちょっと考えるように口をつぐんでから、またこう言った。

「……それでも、ダメなの。理由は教える訳にはいかないけど」
「ふぅーん、ま、良いよ。そっちにも教えていいことと、教えたらあかんことがあるもんな。テキトーに誤魔化しとくわ」
「うん、ありがとう」
「あ、そういや俺が学校行ってる間、プロ子は何してんの?絶対暇やろ」
「暇じゃないよ!未来に影響が出ないように、色んな痕跡を消し回ってるんだから」

えっへん、と胸を張って彼女はそう言った。

「あ、じゃあさ。ついでにちょっと調べて欲しいことあんねんけど」

誉はプロ子が居ない間にナキガオから聞いた話を思い出した。

「学校で不審者が~って先生が言うてたからさ。さっきナキガオにちょっとカメラ使って調べてもらってん」
「あー、あのモニター町中の監視カメラと繋がってたもんね」
「そうそう。んで、確かに不審者みたいなんが毎晩、夜に歩いてんねん」
「それがどうしたの?もしかして、人外種族だった?」

プロ子は真剣に身を乗り出してそう聞く。

「いや……それは分からんねんけど。すっごい変なこと言うねんけどさ、出てくる不審者、毎回毎回違う人やねん」

そう言った誉に彼女は当然の疑問をぶつけた。

「それ、普通に帰宅中の人とかじゃなくて?」
「違う、明らかに様子が普通じゃないねん、全員。そんでな、同じ方向に向かってて。街の外れの方に」
「……なるほど、それは普通じゃないね。分かった、大舟に乗ったつもりで待ってて」

懸念を一つ解消出来た誉は、食器を片付けて、今日の疲れを癒してくれるお風呂に向かった。



「あぁ~、しんどかった」

入浴を済ませた誉は、ベッドに仰向けに寝転がった。部屋の電気はついてないが、月明かりで十二分に部屋は明るかった。

「そういやさ、次のターゲットは?」

誉は、椅子に座ってくるくると回っているプロ子を見た。

「もう次?」
「もう次や、出来るだけ早く準備しておきたいしな」
「ま、それもそっか。ところでさ、誉は漫画とか好き?」

突然、脈絡も無くそんなことをプロ子は聞く。

「まあ有名所は結構知ってるけど?」
「なるほどね、次はね、そんな創作によく出てくるやつ。そう、それは魔法!」

徐々にテンションが上がってきたプロ子は、指をくるくる回して魔法をジェスチャーする。

「あーね、もう今更驚かんよ。まぁ最初からあんま驚いてないかもやけど」

誉は少し胸が高鳴るのを感じていた。魔法と言えば男のロマンだ。

「うん、でしょうね。あと、次は個人じゃなくて団体丸ごとだよ。その団体の名は『全魔女ソルシエールズ 魔法啓蒙会エクレレサンティカ』通称SESセス
「なんか、ガチな名前やな」
「彼女らは、あ、主に魔女で構成されてるから彼女ら、ね。彼女らは魔法こそが至上として、魔法が使えないのは可哀想だ!と言って大虐殺をしたり、魔法が使えない人間は劣等種だ!って言って奴隷とすることを大真面目に目標としたり、未来で社会問題となったグループなの」

誉は未来でも差別問題があることに少し呆れた。

「それで作戦は3日後を考えてるけど、大丈夫? 」
「いや、まぁ大丈夫やろ。明日にでもゆっくり考えるわ」
「うん、おやすみ」
「おやすみぃ。……あ、コンセントそこやで」
「ありがと。ってあれ?誉、スマホ付きっぱだよ?」

部屋の電気が消えたおかげでプロ子は誉のスマホの画面が付いたままベッドに置かれてることに気づいた。

「あ、ほんまやな。ありがとう。んじゃおやすみ」



 早朝、まだ街も眠っている頃に誉は起きた。
部屋の隅で体育座りをしているプロ子は、スリープモードなのか、目を瞑ってじっとしたまま起きる様子は無い。
プロ子の背中からは黒いコードが延びていて、コンセントの方に続いていた。しかしそれがただ、コンセントの方に延びているだけということに誉は気付いた。
そして誉は、プロ子を起こさないようにゆっくり、ゆっくり部屋を出て、『Emi』と登録されている人物に電話をかける。
30分ほど話したのち、誉はまたゆっくりと部屋に入って眠りについた。

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