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第二章 『トリプルナイン』

CHAPTER.28 『アイデアの価値は使うことにある』

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校門の前で、制服姿の誉はプロ子とスマホとにらめっこしていた。

「うーん、これ本人かなぁ。作ったばっかのアカウントやし」
「でも『武器屋』が襲われたのは事実なんだよ」

画面に映っているのは『笛の男』というアカウントが投稿した二枚の写真。店の前の路地裏でジェントルが倒れ込む姿と壊された入口のドアが写ったものと、空っぽの店内が写ったものだ。

「あれ、どうしたん。二人とも」

惣一も遅れて学校から出てきて声を掛ける。

「ちょ、見てみこれ」

誉が、スマホを見せると惣一は一気に険しい表情となった。

「これは急いだ方がいいな。だって『武器屋』のジェントル?やっけ、そいつの能力やばいんやろ?それを圧倒するって『笛の男』もう幻獣仲間にしてんちゃう?」
「多分な。取り敢えず、俺とプロ子は『武器屋』に事情聴取しに行くから、惣一はSESでエレーヌに狼人間の情報手に入れたか聞いてみて」
「せやな。じゃあ行ってくるわ」

惣一が走っていくのを見送ったあと、誉とプロ子も急いで『武器屋』へと向かった。




プロ子と誉の二人が『武器屋』に着くと、ジェントルは空っぽの店内で突っ立っていた。茫然自失となっている彼の背中に二人は話しかける。

「ちょ、大丈夫か?」
「おや?……あぁナルホド。『能力封じ』が消えた隙にワタクシっを捕まえに来たんですか」

ゆっくりと振り返ったジェントルの目は真っ赤に充血していた。怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに混ざった形相にプロ子は思わず後ずさってしまう。

「良いでしょうッ、前哨戦、肩慣らしってやつデス」

ふたりの身体に緊張が走る。
いくら『能力封じ』とやらが作動していなくても、この場で全力のジェントルと戦闘となれば、勝てる可能性も薄く周囲の被害も予想がつかない。静かに能力を行使しようと右手を前に出すジェントルを慌てて誉は止めた。

「ちょ、まてまてまて!今、お前を捕まえる気はないねん。こっちも最優先事項は『笛の男』や」
「そうですかッ。でも……でももうこの怒りは抑えられませン。このぶつける相手がどこの誰かも分からな……ン?今、『こっちも』って言いました?」
「そうや、『笛の男』はお前の店をめちゃくちゃにした奴。そんで俺らの捕縛対象でもある」

そこまで聞いてようやくジェントルも冷静に臨戦態勢を解き、誉とプロ子も一息ついた。

「まぁ、だからこうやって聞き込みに来たってわけや、話してくれるか?」
「フム、まぁ良いでしょうッ!ただし、一つ条件があります。もしあなた達がッ『笛の男』とやらを捕まえた際には、ワタクシに暫くお貸しくださいッ」

誉は理由を聞こうとしたが、ジェントルが爪剝ぎ機を生成したのを見てやめた。

「ええよ、その代わりしっかり『笛の男』について聞かせてな」

軽々しく了承した誉にプロ子は心配そうに横から囁く。

「ちょっと、誉大丈夫なの?」
「大丈夫や、たぶんな。それより今は情報が欲しい」
「では、条件はッ吞んで頂いたようなのでッ話しましょう!あのッ憎き男について!」

そうしてジェントルは自分の店を襲った男について語り始めた。




一方、惣一はエレーヌの部屋にいた。

「どうしたのー?あ、狼人間の場所は一応分かったよ」
「お、どこなん?」
「この街の西の方にある森、あそこに現れるんだって。それで、今日は?」
「ちょっと、情報共有しとこかな、と。『笛の男』が、『武器屋』襲撃して、置いてあった武器とか道具を根こそぎ奪ったらしいで」

そう言って惣一は、部屋の中央にあるビーズクッションに座った。

「……ふぅーん、ホントに?」
「ほら、そのパソコンで『ナラザル』見てみぃや」

信じようとしないエレーヌに惣一は自分の画面を見せながら、エレーヌにも画面を開くことを促す。

「……うそ。あの『武器屋』に喧嘩売って、生きて逃れたの?」

『武器屋』を知っているような口ぶりに惣一は首を傾げた。

「『武器屋』って、結構有名なん?」
「んー、まぁこの街に来て直ぐに、あんな事件起こしたからねー」
「あんな事件?」

意味深なその言い方にいっそう惣一は興味を惹かれた。

「開店して一週間のあいだ、無料で『パワードラッグ』っていうのを配ったんだって。ただの人が人外並みのパワーを扱えるようになるっていうね」
「そんなもん配ったら、犯罪に悪用されまくるんちゃうん?」
「副作用があって。飲んだ犯罪者は一人殺したり、犯したりして満足した頃には自分も死んだんだ。だから結果的には薬に手を出すくらい悪い犯罪者は減ったんじゃないかな」

その時、惣一のスマホに通知が来た。

「あー、誉から『笛の男』についての情報きたわ。なになに……まず青年やけども擦れた雰囲気で挑発的な発言が目立つ、と」

エレーヌも真剣に『笛の男』についての情報を聞く。

「身長は高めで、目つきは悪い。標準語を話し、高い洞察力を持つ」

机からメモを出したエレーヌは惣一の情報を一字一句違わずに書き留めていく。

「そして、肝心の笛は……持っていなかった?らしい」

首を傾げながらの惣一の言葉に、エレーヌも僅かに眉をひそめたが、直ぐにメモに書き留めた。

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