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第二章 『トリプルナイン』
CHAPTER.38 『何かを生み出す行動でなければ』
しおりを挟む『幽霊屋敷』の件が片付いてから、しばらく何も無い平和な日が続いた。といっても、何もしていない訳では無い。エルフ族がプロ子の時軸を奪いに来ることは確定している為、それを迎え撃つ準備をしていた。
そして、例の日からちょうど三ヶ月後の朝。プロ子は目が覚めると同時に、強烈な違和感を感じた。
「……えっ!?」
胸部、それよりも体の深くに空洞を感じた。ぽっかり、と穴が空いたように風が体を吹き抜けるような感覚を覚え、プロ子は自分の身に何が起きたかようやく理解した。
「時軸が……無い」
誉もようやく起きて、深刻な顔をするプロ子を不審げに見る。
「どうしたん?」
「ど、どうしよっ誉!時軸が盗られた!」
プロ子の顔つきを見て、誉は冷静に部屋を見渡した。
誉とて、奇襲を警戒していなかった訳では無い。毎日、交代で魔女の六人を部屋の見張りに立つようにお願いしていた。そして、今日の担当はマノンだ。
が、部屋の中で戦闘が行われた形跡は見当たらない。
そもそも、マノンは接敵した時点でSESに連絡を取ることになっている。にも関わらず、それが無いということは裏切りの可能性も考慮しなければならない。
と、誉は考えたが直ぐにかぶりを振った。
その時、窓の隙間が目に入った。
誉には寝る前、きちんと窓を閉めた記憶がある。
「窓の外か……?」
そう呟いた誉より早く、プロ子が窓を開けて空を見上げた瞬間。
「わっ、マノン!?」
プロ子に続いて誉も窓から上を見上げると、巨大なツタに絡め取られたマノンが目に入った。
「ごめん!まさか、部屋から植物が生えてくるとは思わなくて」
マノンを誉とプロ子が二人がかりで、ツタから降ろしたすぐ後、マノンはそう土下座をした。
あまりにもスピーディーな土下座に二人は苦笑する。
「まぁ、しゃあない、過ぎたことは。多分どっかのタイミングで種を仕込まれたんやろ」
「でも、どうしよ。時軸を手に入れたってことは、もう未来に飛んじゃうかも」
プロ子が心配そうにそう言った。プロ子としても時軸を取り返さなければ、せっかく捕まえたアリメンタムを未来に送還出来ない。重大な問題だった。
「いや、未来からのメッセージでは全滅させられることになってる。ていうことは、まだ飛んでないってことや。ただ、取り返すにも拠点が」
分からない、と誉が言おうとするとマノンはドヤ顔で手で制した。
「大丈夫よ!私が追跡魔法をかけたから!」
「追跡魔法……?でも、植物だけで襲ってきたんじゃないの?」
プロ子の質問に、さらにマノンはドヤ顔をする。
「私も無理かなーって思ったんだけど、そこは機転ね!プロ子の時軸に魔法をかけたの!」
「おおー、やるやん」
誉は手放しで褒め、プロ子も感心したように頷く。
「よし、じゃあSESで作戦会議や。みんな集めるぞ」
SESの教会、円卓が部屋の中央を占める会議部屋に集まったのは10人。
ナキガオとダブルのカジノチームは誉から向かって左に。
二ネット、マノン、エレーヌ、シルヴィ、ファイエットの魔女組は誉から向かって右に座る。
惣一は誉とテーブルを挟んで反対のドア側に座り、プロ子は誉のすぐ後ろに立っている。
「あれ、エメとフォルティスは?」
「あぁ、まだ人格が安定しないそうだよ。今回の作戦には参加出来そうに無いってさ」
誉の質問に答えた勢いで、今度は二ネットが質問する。
「それで、どうして私たちが集められたんだい?」
「あぁ、そうやった。今日未明、プロ子の時軸が奪われた」
誉の言葉に、円卓に座っていた全員に動揺が走る。なかでも一番驚いていたのは惣一だった。
「あぁ?マノンが見張ってたんじゃねえのか?」
ファイエットにじろり、と睨まれマノンはバツが悪そうに下を見た。
「まー責めんとってあげて。過ぎた話や」
「それに、マノンのおかげで敵のアジトも分かったしね」
誉とプロ子のフォローでマノンも勢いづく。
「そうよ!私のおかげで敵のアジトが分かったんだから感謝して欲しいぐらいよ!」
「はい、まぁ何でもいいとして、無策で行く訳では無いやろ?なんか考えたん?」
マノンを無視して、惣一は誉に聞く。
「時軸さえ、取り返せば必勝は確定するんやろ?」
誉は意味深に笑いながら、惣一に聞き返す。全員が、必勝という言葉に耳を動かして問われた惣一に注目する。
「まぁ、多分な。確実とは言い難いから一応、確認はしたいけど」
「ふむ、必勝とはどういうことですか?」
沈黙を貫いていたナキガオは惣一に興味深そうに聞く。惣一は最初、答えを渋ったが、みなの期待の目線に仕方なく必勝法を語り始めた。
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