異世界最強宝具は社窓から。

一色瑠䒾

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【 案件 01 】 だって、職業はサラリーマンなんだもん。

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 かれこれ、3日はこの森の中を彷徨さまよってる事になる。いい加減、この状況から抜け出したい所だ。

 神様がいたとしたらまず、問い質といただしたい。それはもう小一時間では済ませない。

「 ホント、俺が何か悪い事しましたかぁ~? 」

 相も変わらず、この大自然に聞こえる独り言がわびしさを倍増させる。

 取り敢えずは、珍しく残業の無い日だったので、仕事帰りに寄ったアウトドア用品店で備蓄に買った、携帯食やアウトドアグッズを使って運良く生き長らえている感じだ。
 
 この大自然に包まれる無人島のような環境と状況下で、ふと、ある番組を思い出していた。

 それは、ケーブルテレビのエンデェヴァーチャンネルでやってた、軽装備で無人島を数日間生き抜く番組の…名前を忘れたが、たぶん有名なサバイバリストがこんな事を言ってたっけ。

『 屋根と火があれば生きて行ける 』と。

 番組を見ていた時はマジかよ、と半信半疑で思っていたんだが、まさか身を持って結果を知る事になるとはね。正解はイエスだった。

 おかげで、初日に作った種火で起こした火を使って、煮沸した安全な飲み水を確保出来ていたし、屋根がしっかりと大雨を凌いでくれたので、グッスリと睡眠がとれていた。こんな事なら、もっとしっかりと観ておくんだったな(笑。


 ただ、やはりこの現状に至る経緯に思い当たる節はまるでない。
 悪い事をしたつもりは無いが、いい事はした筈だ。それは、アウトドア用品店で買い物を済ませた帰り、最寄りの駅で急にもよおし駆け込んだトイレでの出来事だった。

 個室は2つ、一つは既に先客がいた。隣の空室にある紙の残量を確認すると、扉を閉めてベルトを緩め、心置き無く便座に座る。

 開幕だ。

 時間にして15分くらいの苦しい戦況となったが、無事生還した。

 備え付けの丸い銀色のボタンを人差し指で押し込むと、勢いよく流れ出す新鮮な水が便器に潤いを与えた。

 終了の合図だ。

 すると、このタイミングで隣の個室から老人の声がした。

「 お疲れ様じゃったの。激戦後の直ぐですまんが隣のお方 」

 トイレで労いの言葉を頂いたのは初めてだが、このタイミングで来る次の言葉は何と無く想像がついた。

「 あ、はい。どうされました? 」

「 いやはや、お恥ずかしい話、紙を切らしてたのに気付きませんで、用をたしてしまいましての。どうか紙を分けて頂きたい 」

 ほら、やっぱり(笑。

「 構いませんよ。じゃあ、下から失礼しますよ 」

「 嗚呼、有難い 」

 こちらのトイレットペーパーを多目に巻き取り、個室下の隙間からご老人の方へ差し出した。

「 いや~助かりました。お隣さんに来てもらえなかったら、この個室が棺桶になる所じゃったよ 」

 おいおい、幾ら何でも死ぬまで居る気かよ?別の拭くモノ探そうよ(笑。

「 そうは言っても、他に何で拭けばええんじゃろの? 」

 そりゃ、トイレットペーパーの芯をほぐして…って⁈

「 そんな手があったんじゃな! 」

「 ご老人!何を自然に俺の心の声に話しかけてるんだよ!気持ち悪いな! 」

 ん?そういえば、初めてじゃないなこの感じ。確かこんな風に話しかけて来た同級生の女がいたっけ。

「 すまんの、この歳にもなると何かしら『 異能 』に目覚めてしまっての 」

「 異能!それ異能なのか!凄いなご老人 」

 俺は異世界転生モノのライトノベルが好きで通勤時間を利用してよく読んでいたが、その物語に出てくる異能と言うモノに憧れてを抱いていた。なので、『 異能 』というワードに思わず食い付いてしまった。

「 俺にも『 異能 』の一つや二つあったらいいのになぁ(笑 」

「 恩人さん、そんな『 異能 』を手に入れてどうされるのかな? 」

「 そうだな~、世界征服?いや、ファンタジーの読みすぎだな(笑。世界最強の宝具で人助け?これまた、ファンタジーの読みすぎだな 」

 ご老人に何を真面目に答えようとしてるんだか、しかも、トイレの個室の壁を挟んで(笑。

「 人助けですか、それはいい。今も助けて頂いたばかりですからの。恩人さんはそういう職が向いているやもしれんの 」

「 そういう職って??トイレの紙を分けたらお給料出るのかな?俺って世界最強の宝具を手に入れてもサラリーマン 給料生活者か(笑 」

「 ほっほっほっ。それは愉快じゃ。おっと、恩人さんを随分と長居させてしまったの 」

「 いやいや、楽しかったよ 」

「 では、恩人さん。いずれまた何処かで。この御恩は忘れんよ 」

「 あぁ。ご老人、長生きでな。間違ってもトイレの個室を棺桶にしないでくれよ 」

 もう、会う事はないだろうし、トイレの紙ぐらいで大袈裟だな。トイレだけに臭い仲にはなりたくないな(笑。

「 ほっほっほっ。ご忠告どうも 」

 老人は手洗いを済ませ、扉から立ち去って行った。

「 さて、俺も帰るか。アウトドア用品店で購入した、人気のあるフリーズドライのカレーを食べてみたいし、気に入ったアウトドアグッズも開封して試してみたいしな 」

 少し間をおいて老人に続きトイレの扉を開けた瞬間、辺り一面が眩い光に包まれた。

「 くっ、なんだ!? 」

 眩し過ぎてとっさに手で目を覆うが、光が強すぎて、この謎の光を遮る事は出来なかった。

 激しい光のせいで正常な視界にまだ戻らないが、流れる風に乗る緑の香りが確実に都市のそれとは違っていた。

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