異世界に召喚されたけど商人になりました。

シグマ

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第11章 マーロ商会

#56 下交渉

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 積層魔結晶マルチレイヤーマジッククリスタル──つまり魔力バッテリーが完成したのだが、まだ安定的に大量生産することは出来ない。
 魔力バッテリーを作製する為には魔石を大量に仕入れ続けなければいけないこともそうだが、魔結晶に加工した上で魔法陣を刻むことが出来るのが一人しかいないことも量産を難しくしているのだ。
 そして安定生産が出来ない以上は値段を下げることも出来ないので、普及させることは難しいだろう。

 まだまだ課題は山積みだが、それはさておきマーロ商会との提携交渉をしなければならない。
 そのことについて相談する為にも聖都市を離れラーカス商会に戻った。

■■■

 大まかな内容は事前に連絡を入れておいたが、実際に会って事の経緯をアダムスに話し、今後の判断を仰ぐ。

「……ということで、どうしたら良いでしょうか?」

「そうだな……うちの商会にとっては良い条件であれば是非にと言いたいが、対等な条件で提携出来るのか?」

 確かに商会の規模だけでいうと、ラーカス商会よりも遥かに規模の大きいマーロ商会と同じ力関係で提携を結ぶことは難しいのかもしれない。
 だがうちのラーカス商会にはこれまで築き上げた商品力がある。

「交渉材料として、これまでに売りに出した商品の生産と販売権の独占契約を使えば何とかなると思うのですがどうですか?」

「ふむ…………それはリスクが大きすぎないか? うちの売り上げにも大きく影響しそうだが」

 確かにラーカス商会にしか無い商品を求めて店にやって来ていた人がマーロ商会を介しても売られることで分散し、本来得られた利益を損なうだろう。だが今回の提携で、その目先の利益以上のモノを手に入れられるはずだ。

「確かに全く影響が無いとは言いません。ですがそれ以上の恩恵が絶対にあります」

「そうか……まぁそれらの商品を発案したのはハヤトだから、君が良いならそれでも構わない。だがマーロ商会との交渉もハヤトに任せるぞ」

「ええ!? それは…………いえ、分かりました。必ずや良い条件で提携してきます」

「商会長には私が話して置いて、正式に話がまとまったなら縄に縛ってでも連れてこよう」

 そこまでしなければ連れてこれないのに、よく商会長が務まるな……。

「まあ、よろしくお願いします」

「…………無茶だけはするなよ」

「はい」

 アダムスから許可を貰い、無事にマーロ商会との提携に向けて交渉することが決まったので、聖都市に戻りヒソネと合流した上でウェルギリウスの元に向かう。
 提携を結び商品が安定供給されるようになるまでお店を通常営業に切り替えることが出来ないし、交渉の間は商品の作製もストップしてしまうので何としても早く契約を結びたい。

「ウェルギリウスさん、お待たせしました。今日はよろしくお願いします」

「ええお待ちしておりましたよ。それではまずは中へお入り下さい」

 玄関で出迎えてくれたウェルギリウスはこれまでの格好とは一味違い、正装なのかいつもよりシックな服装になっている。
 そしてマーロ商会と交渉する前にウェルギリウスにお願いしなければいけないことがあるので、打ち合わせをするために家の中に通して貰う。

「今日の交渉なのですが、魔道具に関しては交渉のテーブルに出したく無いので、秘密にしていただきたいのですが、お願い出来ますか?」

「それはまたどうしてですか? マーロ商会の力を使って魔力バッテリーを広めるのでは無いのですか?」

「もちろん何れはそのつもりですが、最初から全てを晒すと自分達を守る術も失うことになるのでね。ウェルギリウスさんにマーロ商会の利益に反することをお願いするのは気が引けますが、こちらも死活問題なんです」

 ウェルギリウスには今ある商品を全て話しているので、これから行われる交渉で話されてしまうと魔力バッテリーの情報も要求されることだろう。しかしそれは今後の事を考えると何としても避けたいことだ。
 ラーカス商会の利益を考えてということもあるが、それ以上に下手に広まって悪い人に悪用されることが怖い。
 聖騎士団とより連携を取れるようになることもそうだが、市場での立場が強くならなければ守れないものもある。

「分かりました。私はあくまでも引退した身ですので若い人たちの邪魔をするつもりはありません。どちらにも肩入れせずに交渉を見守りますよ」

「よろしくお願いします」

 これでマーロ商会との交渉における懸念を無くせたので、後は自分の交渉次第で全てが決まる。

「それでは早速ですがマーロ商会に向かいましょうか。交渉の場は少し離れた場所で行うので竜車を用意していますので、付いてきて下さい」

 入ってきた時にそれらしきものが無かったのでヒソネと顔を見合わせるが、ウェルギリウスに言われたままに付いていくと、裏通りから大通りに出る直前に竜車が用意されていた。
 竜車は馬では無くていわゆる地竜が運ぶ移動手段であり、街と街を移動する為に何度か使用したことはあるのだが、個人的な利用をしたことなどもちろん無い。
 華美では無いのだが広々とした車内が落ち着かないが、交渉に向けてヒソネともう一度、内容について確かめ合う。
 こうして竜車に揺られながら隣街まで移動し、交渉の為に用意されたお店に到着したのであった。
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